47話 居なくなって気付く過去
「久しぶりに凛奈に怒られた」
「当たり前よ。流石にあれは見過ごせないわ」
楽屋の片付けが終わった後、私は後輩メンバーと沢山の言葉をを交わした。
再会に緊張する子もいれば前のように甘えてくる子もいる。一瞬の間だけアイドルに戻った気がした。
そして現在。私はキャプテンと元にイベント会場を歩いている。
後片付けをしているスタッフさん達の邪魔にならないよう隅の方で会場を眺めていた。
「何気にイベントの時はこの場所が多かったよね」
「そうね」
「スターラインがアイドルのトップに立つ前は、メンバーが売り子に変装する企画もやったっけ?」
「覚えているわ。結局誰も見破られなかった」
「そうそう。今やったらバレちゃうかな?」
「やりたいならやってみても良いんじゃない?初期からのファンの人なら懐かしいって思ってくれるはずよ」
同期であるキャプテンと話すと必然的に思い出話をしてしまう。
この会場1つでこんなにも沢山のエピソードがあるなんて。
11年もの年月は果てしない数の思い出を作るのに十分な長さだったようだ。
「……今日会って感じたけど、貴方も変わってないわね」
「というと?」
「アイドルとしての性格よ。卒業したメンバーの中には途中でキャラを変えた子もいたでしょう?」
「あーなるほどね。確かに私は初期からこんな感じだ」
「元気で破天荒で、マイペースでふざけるタイプの性格ね」
「悪口?」
「褒めてるわ」
思い返してみてもこの人には結構手を焼いていた。
ライブ中は勝手にアレンジを入れて盛り上げようとするし、番組でも話す予定のないエピソードを振られたこともある。
しかし現在は成長したのか無茶振りは無くなってきたので安心だ。
今後も後輩メンバーが餌食にならないことを祈ろう。
「そもそも結成当時から今までキャラがブレなかったのは凄いと思う。個人ならまだしも、グループだとキャラに迷うのはあるあるだから」
「それは凛奈にも言えるじゃん。でも正直言って私はキャラ作ってたわけじゃないからね。子供の時からこんな性格している」
「えっ?そうなの?」
「だから保てたんじゃない?凛奈は違うの?」
キャプテンの発言に私は狼狽えてしまう。本当に勝手な考えだけど、多少は作っているキャラだと思っていた。
じゃなきゃバラエティ番組であんな芸人のようなリアクションはしない。キャプテンはどちらかというとバラエティ向けのアイドルだ。
だからこそ番組に呼んでもらえるように面白さを研究していると思った。
でも実際は違うらしい。11年一緒に活動してきたのにも関わらず初めて知る事実だった。
「ふはっ、そんな難しい顔しなくても」
「別に難しい顔なんてしてないわ」
「本当かなぁ?ねぇ知ってる?美人が眉間に皺を寄せると般若みたいになるんだよ」
「どこ情報よ」
「私の経験上。今隣を歩く美人さんも般若みたい」
「はぁ?」
吹き出すように笑うキャプテンを軽く睨みつける。
それでもふざけたようにからかってくるので、思わずため息をついてしまった。
「そのため息もいつも通り。卒業後も変わってなくて良かった」
「3ヶ月しか経ってないのだから当たり前じゃない」
「それもそうだね。なら数年後は変わっちゃうのかな?」
「どういうことよ」
「だって環境が変われば人も変わるでしょう?アイドルを卒業をして業界も離れれば、凛奈は自分のことだけを見れるじゃん」
私の歩く足がピタリと止まった。
キャプテンも同じように足を止めて、ステージがあった場所に顔を向ける。
釣られるようにそちらを見ればスタッフさん達が慌ただしく撤去作業している姿があった。
「思い返しても凛奈には沢山お世話になりっぱなしだったね。楽屋の件もそうだけど、私がキャプテンになった時も数えきれないくらい助けてもらった」
「別にそんな……」
「私さ。全然キャプテンらしいことなんてしてないんだよ。表舞台では率先して話すことがあっても裏では凛奈に頼りっぱなし。メンバーを気にかけるとか、マネージャーさん達と連携取るとか……全部甘えちゃった」
何も返事を返せない。キャプテンが言っていることに間違いはなかった。
「だからこの3ヶ月、めっちゃくちゃ大変だった。私もだけどスターライン全員が凛奈に甘えていたんだって身をもって感じた。私達が凛奈の負担になっちゃってたんだね」
「そんなこと……ないわ…」
「嘘つき。ねぇ知ってる?美人が嘘をつくと能面みたいになるんだよ」
「……どこ情報よ」
「私の経験上。今目の前にいる美人さんも能面みたい」




