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【完結】アイドルの君が死んだ後  作者: 雪村
7章 不幸気取り 〜篠崎凛奈〜
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43話 自覚してはいけない欲望

 実家から帰ってきて少し経った11月6日。


 3日前にした、とある人とのメッセージのやり取りを確認する。


【久しぶり。連絡ずっと返せなくてごめんなさい】

【久しぶり!まさか返信が3ヶ月後に来るとは思わなかった】

【色々とバタバタしていたのよ。元気?】

【それはこっちのセリフ!まぁ30枚目のシングル発売して音楽番組に引っ張りだこだからアセアセしているかも】

【アセアセって何よ】

【バタバタの派生系】


 相変わらず我らがキャプテンは文面でも元気だ。だからこそスターラインを導いて行けるのだと思う。


 私が抜けたことによって、スターラインの初期メンバーも彼女だけになってしまった。


 卒業当時は終われる開放感で満たされていたけど、今では申し訳なさが出てくる。本当に今更。


【凛奈は元気?】

【普通じゃないかしら?】


 元気だと断言出来ないから、この時は無難にそう返しておいた。


 キャプテンは笑ったようなスタンプを送っている。これをどういう意味に捉えて欲しいのかわからない。


 数日後に確認している今も頭を捻っていた。


【バタバタってことは何かプロジェクトでも立ち上げようとしているの?】

【そういうバタバタじゃないわ。完全に個人的な内容よ】

【今は落ち着いた?】

【そうね。前と比べれば】

【なら、気分転換にイベントに来ない?】

【え?イベント?】

【そう。30枚目シングルの記念イベントが明々後日の6日にあるんだ!別に出演しろってわけじゃないよ!?】

【それはわかっているわよ。私が出演したらそれこそ騒ぎになってしまうし】

【単純にメンバーに会いに来ないか?って話。無理なら全然断ってくれて構わない。でもみんな凛奈に会いたがっているんだよね…】


 この話題になった時は息が止まった感覚になってしまった。勿論、読み返していても激しく心臓が動いている。


 次の文面に目を向けようとした時、ソファに座る私の後ろで大きな物音がした。


「ごめんなさい」

「大丈夫?何落としたの?」

「スマホです。手が滑っちゃって」

「画面割れてないかしら?」

「平気です」


 イベントの話題と急な物音で余計に心拍数が跳ね上がる。


 世奈ちゃんは大きな音を立てたことと、スマホを落としたことで何回も謝っていた。別にそんなに謝らなくても良いのに。


 過去の出来事のせいなのだろうか。私は優しくあやすように声をかければ眉を下げながら笑ってくれた。


「さっきから凛奈はスマホと睨めっこしていますけど、どうしました?」

「睨めっこしていた?」

「していました。何か買おうとしていたんですか?」

「違うわよ。そもそも買い物で睨むことなんてないわ」


 そんな険しい顔していたのか。


 私はスマホを閉じて世奈ちゃんをソファへ呼ぶと手を伸ばす。そして腕の中に閉じ込めるように引き寄せた。


「うん。安心する」

「不安なことでもあったんですか?」

「ううん。世奈ちゃんの存在は安心に安心を重ねてくれるのよ」

「なるほど…」


 よくわかってないような返事だけれど私の言葉に間違いはない。張り詰めていた力が世奈ちゃんのお陰で一気に抜けていった。


 やっぱり私には世奈ちゃんの存在が必要だ。


「エネルギーチャージさせて」

「良いですよ。ならあたしもチャージします」


 控えめだけど世奈ちゃんの腕が私の背中に回る。


 そういえば身体のアザは完全に消えてくれたのだろうか。ここに連れて来た日以降、世奈ちゃんの身体は見ていない。


 恋人になった今でも簡単に見せてとは言えなかった。


 私は恋人の背中をなぞるように手を伝わせていく。


「り、凛奈?」

「痛い?」

「痛くはないですけど…」


 私よりも少し小さい身体。言動が大人びているから時々忘れかけてしまうが、世奈ちゃんはまだ17歳だ。


 そう、17歳。まだこの子は未成年の域。


「凛奈、くすぐったいです」

「ええ」


 世奈ちゃんにそう言われても私は手を止めない。最近、私の中でダメな欲望が生まれている。


 世奈ちゃんの全てを見たい。そんな欲望が。


 身体も心も見せて欲しいなんて大人の私が言ってはいけないとわかっている。


しかし今も認識したくない感情が心の中で沸々と湧いていた。


「ごめんなさい。つい夢中になっていたわ」

「いっ、いえ大丈夫です」


 これ以上はダメだ。そう思って私は世奈ちゃんから身体を離す。


 くすぐったかったのか顔を真っ赤にする世奈ちゃん。


 そんな顔を視界に入れたくなくて私はリビングの時計を見る。時刻は正午を過ぎた頃。


「………世奈ちゃん。本当に急なんだけどこれから外出しても良い?」

「え?外出ですか?」

「なるべく早く戻るわ。その間お留守番頼みたいのだけど」

「わかりました。あたしのことは気にしないでください。全然1人でも大丈夫です」

「ええ。突然ごめんなさいね」

「謝らないでください。今すぐ行く感じですか?」

「そうするわ。お昼ご飯は作り置きのものを温めて食べてちょうだい。私は適当に済ますから」


 何で私はこんなに焦っているのだろう。そもそも何に対しても焦っている?


 世奈ちゃんと話しながら自問自答を繰り返すけど答えは出せない。


 その前に私はこの子から離れて良いのか。今更そう思っても遅くて、世奈ちゃんは私を見送る気になっている。


 私は雰囲気に流されるようにスマホを手に取った。


【今からそっちに行くわ。もしこれを見ていたらスタッフさんに話通しておいてくれない?】


 数分後、スターラインのキャプテンである彼女から返信が来る。


 自分の欲望に抗った結果、もう戻れないところまで来てしまっていた。

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