40話 大切にしてもらえる嫉妬心
お母さんが話す凛奈の過去があたしの過去と重なり始める。
『世奈。効率よくやれ。お前は…』
『世奈ちゃんなら頑張れる。だからもう少し…』
凛奈も沢山口出しされながらアイドルをやっていたんだ。だから余計に素がわからなくなってしまったのかな。
結局、どの家庭も同じなのかもしれない。この人達も例外ではなく……。
「でもね。冷静になって気付いたんだ。凛奈なら私や父さんに言われなくても自分で解決出来る子だって。本当に馬鹿だよね。親はマネージャーでもプロデューサーでもないのに」
「……」
「それ気付いた時にはもう遅かったの。母親だからわかる。娘は無理してアイドルやっているって」
お母さんは何本目かのお酒を飲み干す。あたしはただ、聞いているしか出来なかった。
もし凛奈が酔ってなかったらきっと途中で止めていただろう。
するとリビングの扉が開いてお父さんが戻ってくる。無事凛奈を部屋に連れて行けたようだ。
「ベッドに入った途端ぐっすりだったよ。しばらくは起きないだろうから多少騒いでも問題ないね」
「何?父さん騒ぐつもり?」
「例えだよ例え。……話してたのかい?」
「うん。世奈さんに懺悔していた」
「ハハッ、懺悔か。確かにその通りだな」
お父さんは全てを知った様子で椅子に座る。もしかして元々あたしに話すつもりだったのだろうか。
「俺も凛奈のアイドル活動には後悔ばかりしている。勿論、悪いことばかりじゃないと思っているよ。でもやっぱりあの時気付いてやれればとか、止めておけばとか考える」
俯きがちだったあたしは顔を上げて向かい側に目を向ける。お父さんもお母さんも、自分自身に問いかけるように目を伏せていた。
……なんだ。優しい人達に変わりないじゃないか。
少しでもあたしの両親と似ていると思ってしまったことが恥ずかしい。
自分がしたことに気付いて、反省して、これからどうすべきかを考える。あたしの両親はそこまで辿り着けなかった。
「良いな…凛奈は」
「世奈さん、大丈夫?ごめんね。まだ若い貴方にこんな話聞かせちゃって」
「良いんです。あたしも聞いてないことだったので、少しでも凛奈を知れたと思えば全然」
口角を上げる表情とは反対に、膝に置く手は強く握りしめる。
わからない。今日は変な感情になりっぱなしだ。
「世奈さん。この際だから俺から1つ聞いても良いかな?」
「はい。何でしょうか」
「無理には答えなくてもいい」
お父さんは姿勢を正してあたしに向き合う。真剣そのものの様子はあたしの緊張感を倍増させた。
「これから君はどうしようと思っている?」
「……」
「世奈さんはまだ若い。考える時間は沢山ある。けれど今の君の気持ちを聞いてみたい。どのように過ごして、何処に向かって、どんな人生にしたいか。それを知らないと俺達も凛奈もどうすれば良いかわからないんだ」




