31話 掘り起こされるファンレター
「ファンレターはここに収納していたんですか?」
「事務所のスタッフさんが確認して大丈夫な内容のファンレターをこんな感じで送られていたからそのまま…。ちなみに、あそこにあるダンボールは卒業前に届いた物」
「あたしの想像ではもっと凄まじい量があるのかと思いました」
「今はSNSがあるからね。どちらかと言うとスマホでのメッセージが多かったわ」
ダンボールの中を確認すれば色とりどりの封筒が敷き詰められている。
薄い手紙が沢山重ねられているから100通以上はあるだろう。
「流石にこれを厳選するのは大変ね」
「確かに…」
一応全てに目を通してはいた。全部嬉しい内容ばかりのファンレターだ。
けれど取っておくかと言われたら頷くことは出来ない。
厳選せずにゴミ袋に入れるか迷っていた私はふと、思い出したようにダンボールを漁った。
「凛奈?1回全部出すんですか?」
「少し探し物」
私は束で持って捲りながら確認していく。
内容は覚えてないけど、目の前にいる世奈ちゃんもファンレターを送ってくれたことがあった。
ここ1、2年はそこまで送られてなかったが頻繁に送ってくれた時期がある。ファンレターを書き続ける人は限られてくるから何となく記憶に存在していた。
「これかしら?」
「そっ、それは…!」
世奈ちゃんに見せるとわかりやすく顔を赤くする。当たったみたい。
私は他のファンレターをダンボールにしまって封筒を開くと、可愛い字で書かれたメッセージが目に入る。
「篠崎凛奈様へ」
「凛奈!?読まないでください!」
「最近肌寒くなってきましたが体調は大丈夫ですか?まず、スターラインのベストアルバムの発売おめでとうございます」
「凛奈っ!」
読み上げていると勢いよく手紙を抜き取られる。世奈ちゃんは手紙を隠すように身を縮めた。
からかい過ぎたなと思いながらもその姿が可愛くて頬が緩んでしまう。
軽く謝れば恥ずかしそうに睨みつけてきた。
「ふふっ、可愛い」
「可愛くないです。っていうかあたしが送ったの覚えていたんですか?」
「一時期頻繁に送ってくれたでしょう?それに世奈ちゃんは毎回この封筒だったからわかりやすかったわ」
私が世奈ちゃんに手を差し出せば嫌そうにしながらも手紙を返してくれる。
それを丁寧に封筒にしまって自分の側に置いた。
「最初に世奈ちゃんが止めてくれなかったらこれも捨てていたところだった。危なかったわね」
「捨ててくださいよ…」
「嫌よ。とりあえず残りのファンレターは私がどうにかするわ。ゴミ袋を一旦玄関に持って行ってお昼にしましょう」
「まさかあたしが書いた残りのファンレターも探すつもりですか?」
「んー?」
YESもNOも返さずに微笑むとまた顔が赤くなる世奈ちゃん。「やめてください!」と何度も言っているけど、私はやめるつもりはない。
せっかく世奈ちゃんが送ってくれたファンレターだ。一通も捨てたくないのが普通だろう。
流すように受け答えをしながら寝室を出れば世奈ちゃんは小走りで追いかけてくる。何だか、宙に浮く気分だ。
誰かと過ごすことがこんなに幸せなんて知らなかったな。いつかその気持ちを世奈ちゃんにも感じて欲しい。
でも今は、この子にとっての“誰か”が私であることを願おう。
今日の昼食は何にしようか。自分の好き嫌いがわからない世奈ちゃんには沢山の料理を食べさせてあげたい。
幸せが膨らんでいく私は世奈ちゃんと共にリビングに入って行ったのだった。




