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【完結】アイドルの君が死んだ後  作者: 雪村
5章 君のための人生 〜篠崎凛奈〜
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29話 尽くす私がやりたいこと

 世奈ちゃんを自宅に連れ去ってからはとにかく尽くした。


 誰かのために動いていたアイドル時代を思い出す。でもその“誰か”が世奈ちゃんというだけで心の負担は全く感じなかった。


「昼食は何食べたい?午後は何をしようか?そういえばネットで面白いゲームが発売されたって話題になっていたわ……。私ゲームやったことないけど一緒にやってみる?世奈ちゃんとなら何でも楽しそう」

「り、凛奈…」


 私は世奈ちゃんが望むことを全てやってあげたい。


 どうやったら貴方が笑えるか。何をしたらその傷は癒えるのか。そう考えながら早口で喋ると、若干引くような顔をされる。


 東京に来た時は心が辛くて感情さえも表に出さなかった世奈ちゃん。でも今は少しずつ表情を見せてくれるようになった。


 振り返れば、8月に会っていた世奈ちゃんは無理して笑っていたのだろうか。自分にしか意識を向けておらず、違和感すら持たなかった。


 それも後悔の1つだ。


「あ、あの」

「どうしたの?」

「今日は凛奈がしたいことをしませんか?私ばっかりでなんか不公平っていうか」

「私がしたいことは世奈ちゃんが望むことなんだけど」

「ならあたしの望みは凛奈がしたいことをやりたいです」


 これは一本取られてしまった。反論の意見が見つからずに私は考え込む。


 徐々に心の余裕が出てきているとはいえ、流石に外に出るのはまだ早そうな気がする。世奈ちゃんも自ら外に出たいと言ったことは無かった。


 となればやはり家の中で出来ることが1番良いだろう。10月に入って最近は肌寒さが増してきた。

 寒さに弱い私も進んで外に出ようとは思わないし。


「ゲームとか?」

「凛奈が言っているゲームってスマホじゃないですよね?本体とかソフト揃えないとダメなやつですよ」

「そうなの?っていうことは世奈ちゃんも知ってた?」

「はい。あたしもチラッと記事は見てたんで」


 世奈ちゃんはそう言うと、この前買ってあげたスマホをいじって画面を向けてくる。


 以前使っていたものはベッドと床の隙間に放り投げたから持ってきてないと教えてくれた。正直どういう経緯で放り投げたのかはわからない。


 でも過去のことを思い出させたくない私はそれ以上聞くことなく新しい物を買ってあげた。


 画面をジッと見つめると確かにスマホゲームとは書いていない。


「今から買いに行くのは時間かかるわね。ならネットで買って今度やりましょうか」

「えっ!?買うんですか?」

「あまり好みじゃない?」

「好みとかっていうよりも……結構しますよ?本体まで買うと」

「貯蓄は十分にあるから大丈夫。それに金銭面には気にしないでって言ってるでしょう?」

「でもあたしが申し訳なくて」

「貴方だって私がアイドルだった頃沢山貢いだじゃない。それと同じよ」

「いやでも…」


 アイドルに捧げるお金は決して安い額ではない。それが継続的に続くのであれば合計額は凄いだろう。


 世奈ちゃんも長く推してくれたからそれなりに貢いだはずだ。


 そのお返しというのは違うかもしれないけど私はこの子をアイドルのように思っている。だから貢がせて欲しい。


 スマホも衣服も食費も全て私が負担しているが、痛くも痒くもなかった。

 トップアイドル時代に沢山稼いだお陰だ。


「まぁとりあえずこれは後で決めるとして。午後、どうしましょう?」

「凛奈が決めてください」

「そこは譲らない気ね。……なら掃除手伝って」

「そ、掃除?」

「掃除よ」

「別に汚い所は無い気がします」

「表面上はね。実はクローゼットの中は荒れているの。アイドル時代にファンに貰った物とか、CDやライブのDVDとか」

「あたしが見て大丈夫なんですか?」

「全然構わないわ。あの量を1人でやるのは億劫だし」


 1人で住むには広い自宅にある大きなクローゼット。いくら入れても余裕があったから次々と押し込んだ結果、見たくない光景になってしまった。


 それに追い討ちをかけるように、事務所から卒業記念グッズやファンからの手紙が大量に届いてしまい……。


 結局学ぶことなく逃避行前にクローゼットへと閉じ込めたのだ。


「クローゼットって言ったら寝室のですか?」

「そうよ。いつも私と世奈ちゃんが一緒に寝ている寝室」

「……その言い方はやめてください」

「恥ずかしい?」

「当たり前です」


 下心は全く無い。


 我が家のベッドは1つ。そして私は世奈ちゃんの側に居ないと心配になってしまうからという理由で一緒に寝てもらっていた。


 側に居てくれれば夢で辛い過去を思い出してもすぐに慰めてあげられる。感情がおかしくなってしまった時も抱きしめてあげられる。


 ビジネスホテルであんなことしておいて説得力は無いのだけど本当に下心は一切無い。


 何度も心の中で頷いた私は世奈ちゃんを連れて寝室へとやってくる。


 そしてクローゼットを前にした私は世奈ちゃんに忠告した。


「流石に雪崩は起きないけど覚悟はしていてね」

「わ、わかりました」

「開けるわよ」


 最後に開けたのは卒業ライブを終えた後だ。となると2ヶ月以上は開けてない。


 一生開かずの間になると思っていたクローゼット。意を決した私はゆっくりと開いていった。


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