21話 頑張ったのに頑張れなかった過去
小さな気付きは大きな自覚へと変わっていく。
初めて周りにいる中学生に目を向けてみた。頭の良いあの人でさえも、みんなロボットのように勉強してるわけではないのを知る。
逆にあたしは1人で命令された機械のように文字を走らせていた。
初めて学校帰りに寄り道もしてみた。
寄ったのは近くにあったコンビニだったけど、いつもの道を外れる瞬間はあたしの心に空気を入れてくれた。
「今まで何してたんだろ…」
両親を裏切るかのように「やってはいけない」と言われていたことをやり続けるあたし。
そして中学2年の梅雨の時期、あたしは完全に洗脳が解けた。その頃はどちらかというと反抗的になっていたと思う。
しかしそれを両親は許さない。
「前より、下がってる、のか」
父親はあり得ないという表情になる。狼狽えるようにテストの結果に何度も目を通している。
「………」
母親は現実を受け入れられなくて無言だった。
「こんなの志望校の偏差値に届かないのは確実だろ!!」
威圧感を込めてテストを机に叩きつける父親。前までのあたしなら震えていたはずだ。
でも洗脳が解けた今は恐怖も沸かずに頭の中で妄想を繰り返す。もし凛奈なら、気に入らないことを言われたとしてもこうやって話を流すだろう。
沢山凛奈のことを調べたから簡単に凛奈の存在を思い浮かべることが出来るようになった。その度に凛奈は凄い人だと強く思う。
性格も良くて、頼り甲斐があって、それでいてあのルックス。嫌いな部分なんて見つからない。
そういえば最近握手会に行けてないな…。ずっとファンレターばかりな気がする。
でも両親がピリピリしている状態で都会に出向くなんて無理な話だ。
凛奈に会いたい。貴方のお陰であたしは普通になれたと伝えたい。
「世奈!!」
「っ…!」
恋焦がれるように俯きながら妄想していると父親の怒鳴り声が飛んでくる。
ビクリと肩と顔を上げてしまったあたしは椅子から崩れ落ちた。
「……え?」
理解出来ない数秒間。一瞬視界が揺らいだと思えば床に尻をつけている。
何が起こったか脳内で処理し終わるとあたしの頬にはヒリヒリとした痛みが滲んでいた。
上を見上げれば怒りに震える父親の姿。母親は驚いていたがあたしに駆け寄ることはない。
初めて手を出された瞬間だった。
「失望した。反省しろ」
父親はそれだけ言ってあたしの前から立ち去る。母親は父親を追いかけるように何も言わず部屋から出ていった。
多分、これが暴力の始まりとなる出来事だったのだろう。
その後も成績が上がることはなかったあたしに父親は度々教育と言う名の暴力を振るった。
母親は最初こそ手を出さなかったが、父親を真似て一度手を出せば快楽に繋がってしまったらしい。
落ちる成績と比例するようにあたしの身体は傷だらけになった。
一度は洗脳が解け反抗的な態度を見せた。しかし、親からの暴力によってあたしは完全に逆らえなくなってしまう。
身体に教え込まれることがどれだけ怖いのかを思い知ったのだ。次、反抗的な態度をとればより強く痛くされるだろう。
しかし結局、一度落ちた成績が上がることなく志望校は受験前に断念することになる。
それによって父親は生きる理由を失った。元々エリートの道を誰よりも強く望んでいたからだと思う。勤めていた会社を辞めて酒と暴力に溺れるようになった。
逆に諦めなかった母親はあたしを通信制に通わせて一発逆転を狙っているようだ。けれど頭がおかしいのには変わりない。
「……世奈ちゃん。貴方は出来る子なの。頑張れるの」
また、呪文のように唱えられた。




