14話 互いに縋る唇
咄嗟に凛奈の手を掴んで離れさせないように握りしめる。あたしの両手で包み込まれる凛奈の手はこれ以上にないくらい冷たい。
手汗なんて気にしてられない。爪が食い込んでいた跡なんて関係ない。
ここで離してしまったら全てが終わると本能的に思ってしまった。
「………」
「………」
あたしは俯きながら次の言葉を探す。凛奈には偽りのない本心を伝えたい。
伝えたいのに……あたしの本心は黒く塗り潰されてしまっていた。
そのせいか「どうやったらこの状況を変えられる?」と言葉を選び始めている。涙は止まることなくあたしの両手に落ちていった。
「世奈ちゃん…」
「ま、待ってください。ちょっと、待って」
崖っぷちに立っているようだ。こんな感覚は味わったことがない。
呼吸は荒くなり、心臓はこれ以上にないくらいに動く。花火はまだ終わってない。凛奈はまだ隣で生きている。
なのに聞こえるのはあたしの音だけだった。
「っ、世奈」
「え?」
けれど大好きな声はいとも容易くあたしを壊してくれる。あたしは反射的に顔を上げた。
目線の先には涙を流しながら悔しそうに唇を強く結ぶ凛奈が居る。
とても、美しかった。
「凛奈…」
「私は、ここに居るから」
熱い。
凛奈の唇があたしに触れた時、1番最初にそう思った。手の冷たさとは比べ物にならないくらいに熱い。
凛奈はちゃんとあたしの目の前に居る。そして生きている。そう思わせてくれるキスだった。
自分の唇から幸福感が伝わって身体全体に染み渡っていく。ゆっくり目を閉じれば、より凛奈の存在が感じられた。