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晩ご飯はバターチキンカレー

作者: やあざ


 冬の冷たい光が入ってくるリビングは、床暖房と暖炉により随分と暖かく過ごしやすい。

 他の家族たちは皆、仕事や学校に行き、残されたのはハルメアスとアイレイムのみ。現代に転生した彼らは思いの外ゆったりとした生活を過ごしている。

 床に座ったアイレイムは、ソファに座ったハルメアスの足にゆったりと体を預けている。ハルメアスはTVを見ながら今日の夜ご飯について考えていた。昼ごはんは外食の予定だ。


「アイレイム、晩御飯何がいいですか?」

 テレビではカレー特集。しかしハルメアスは適当に野菜炒めを考えていた。

 アイレイムに聞いたのは意見を尊重するため。

「え!カレー!カレーがいい!スパイスから作るバターチキンカレー!」


  ハルメアスは大分難易度が高めの要望に渋面を隠さない。アイレイムはさらにプレゼンをする。

「サングインとかジュリアノスが買ってるスパイスあるし、唐揚げ用のお肉この前買ったよね?ね?ね?カレーがいい」


 ハルメアスはしばらく思案する。まぁ、冬だし日持ちるからいいだろう。

 アイレイムの顔をちらっと見て、つい微笑む。それにアイレイム可愛いし。


「構いませんよ。家の中のことをよく見ている、素晴らしい。一緒に作りますか?」

「うん!」


 ハルメアスはテレビを消し、アイレイムの背中を軽く叩いて立ち上がらせた。

「まずはスパイスの確認からです。」

「了解!」


 キッチン奥の引き出しには、同居人サングインが蒐集した瓶がずらり。

 ターメリック、クミン、コリアンダー、パプリカ、チリ、ガラムマサラ――名前を書いたテプラまで貼られている。

 アイレイムは目を輝かせた。

「文明の利器、最高!」

「その文明に振り回されてないといいのですが」

 ハルメアスは計量スプーンを並べ、レシピを検索したスマホをカウンターに立てた。


 ターメリック小さじ1、クミン小さじ1、コリアンダー小さじ2。

 瓶のフタを開けるたび、乾いた芳香が立ち上る。

 アイレイムがくしゃみを一つ。

「スパイスって粉雪みたいだね」雪より扱いづらいよ。分量間違えると地獄になる」


 調合を終えると、二人はホールスパイスのテンパリングへ。

 温めたバターとサラダ油にシナモンスティックとカルダモンを投入。

 パチパチという音とともに甘い香りが広がる。

 アイレイムが肩をすぼめた。

「この香り、王宮の薬香より好きかも」

「私も、こちらの方がお腹に優しい」


 みじん切りタマネギ三個。

 ハルメアスがフライパンを振り、アイレイムが木べらでかき混ぜる。

 弱火で二十分。飴色が見えてくる頃には二人とも額に汗を浮かべていた。

「現世の料理は根気だね」

「前世も根気は必要でしたよ、文書修正とか」

「そっか、じゃあこれも《構文修正》だ」

 アイレイムが木べらを止め、フライパンの中の色を確認した。


 トマト缶を加え、酸味を飛ばすまでさらに十分。

 そこへプレーンヨーグルトをどろり。

 酸味、甘味、乳脂肪が一体になり、先ほどのスパイス粉を投入する。

 鍋底が焦げないようにかき混ぜ続け、唐揚げ用の鶏もも肉を投入。

 スパイスと鶏油が相まって、湯気が冬の窓を曇らせた。 


 弱火で二十分煮込み、塩で味を整える。

「ココナッツミルク入れる?」

「今日はバターを効かせたいから、このまま行きましょう」

 ハルメアスはバターを一かけ落とし、最後にガラムマサラをひと振り。

「完成!」

 二人はハイタッチする。


 炊きたての白米を盛り、黄金色のルーをかける。

 一口目でアイレイムの目が丸くなった。

「うまっ! 辛いのに甘い!」

「スパイスの層がちゃんと出ていますね」

 ハルメアスも満足げに頷いた。

「これで夜はゆっくりできますね」

「うん、じゃあ昼ごはん食べに行こ!」

 キッチンが出ていくアイレム。ハルメアスがほんの少しだけ、アイレイムがこんなふうに笑う世界に、自分も来ることができたと満足感を得る。


 キッチンタイマーが鳴り、床暖の切タイミングを知らせる。

 外はまだ午前11時。冬の陽は低いが、昼食にはちょうどいい時間だ。


 カレーは鍋ごと粗熱を取り、今日の晩ご飯は用に保存。

 二人はは外食に行く。アイレイムが窓の外を指差す。

「ねえ、昼ごはん食べがてら、公園寄ろ?銀杏が綺麗だってニュースに出てた」

 ハルメアスは二つ返事で了承した。


 二人はマフラーとコートを羽織り、玄関へ向かった。

 靴をつま先でそろえながら、ハルメアスは戸締りを確認。

「鍵よし、ガスよし」

「カレーよし!」

 アイレイムは弾むように外へ出た。


 冬の空気は冷たい。歩道の向こう、並木道が黄金色に染まっていた。

 二人は言葉を交わさずとも足並みをそろえ、温かい昼下がりへ溶け込んでいった。

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