第58話 キノコを採取する簡単なお仕事です
「う~ん……眩しい……」
眩しさに耐えかねて、私は目を覚ました。
窓を覆うカーテンの隙間から差し込んでくる暖かな光が私の目元を襲う。
身体を少しだけ左に寝返らせると、眩しさからは逃れられたけれど、そこには別の暖かな感触があった。
「ニット君……」
そうだった。
昨日、ニット君は自力で記憶を取り戻して、私の元へと戻ってきてくれたんだったわ。
彼は安心した様子で、スゥ~スゥ~と寝息を立てている。
可愛い寝顔が愛おしく思わせる。
ニット君の小さな身体を抱き寄せて、起こさないように頭をそっと撫でた。
ニット君の温もりを感じる。
彼がいなくなってしまった間の私は全くと言っていいほど、ダメ人間だった。
生きる希望のようなものを失ってしまったかのようで、涙にくれる日々だった。
でも、そんな日々とは、もうおさらばできた。
もう二度と離れ離れなんかには、ならないようにしなくっちゃ。
「あぅ?……アテナ様?」
ニット君が目を覚ましたようだった。
「おはよう、ニット君」
笑顔を向けると、大きな欠伸をしてから「おはよう、アテナ様」と寝ぼけ眼で答えてくれた。
「よく眠れた?」
「うん、アテナ様が隣にいてくれたから、寝れたよ」
ニコニコ顔で私の瞳を見詰めてくる。
「そう……私もニット君がいたから、安心して眠れたわ」
大きな漆黒の瞳を見つめ返した。
「ん~……おはよう、お嬢ちゃん、ボーヤ」
セレスさんも起きたみたい。
ベッドから上半身を起こしている。
「おはようございます。セレスさん。それにマックスさんも」
セレスさんの隣のベッドで寝ていたマックスさんも起き上っていた。
「おう、おはよう」
マックスさんは豪快な欠伸をしながら、身体を伸ばしていた。
「雨は、止んだようだねぇ~」
セレスさんは、ベッドから出て立ち上がると窓のそばに歩み寄り、カーテンを荒々しく開けた。
一気に陽の光が室内へと飛び込んでくる。
ついでに窓も開けていた。
青く澄み渡る空は、どこまでも見渡せるかのような、そんな錯覚を覚えさせた。
温かく柔らかな日差しが心地よく、涼やかに流れる風が私の髪を揺らした。
雨上がりの後の土の香りが仄かに香ったように感じた。
「お外に行けるね」
嬉しそうにニット君が呟いた。
「そうね。ニット君、お外に行きたがっていたものね」
ニット君を抱き上げたまま、私もセレスさんの横に立ち、窓の外を眺めた。
たくさんの家々が立ち並び、目の前の広場には人々が朝早くから屋台の食事を求めて殺到していた。
まだ日が昇りだして間もないという時間帯なのに、みんな早起きのようだ。
「あっ?そうだわ」
私は、思わず声を張り上げていた。
「どうしたんだい?急に?」
隣にいたセレスさんが驚いたような顔をしていた。
それほど大きな声を私は出していたみたいだった。
「ニット君のことがあって忘れていましたけれど、私……お金があんまりなかったんだわ……」
突然、思い出した。
「ああ、そういやぁ~……前の街で所持金が心許無いとか言っていたねぇ~」
「もともと、この街で冒険者ギルドの仕事を探すつもりだったよな?」
マックスさんに尋ねられ、私は頷く。
「でも、色々あって……」
その色々とは、ニット君が記憶喪失になったり、貴族の子になったりとかだ。
「なら、朝飯を食って、冒険者ギルドに行こうじゃないかい」
「そうだな。朝も早いし、いい仕事がありそうだよな」
「昨日、早く寝たのは正解かも知れないねぇ~」
セレスさんもマックスさんもやる気満々の様だった。
「セレスさんたちもギルドのお仕事をするんですか?」
「そりゃあ、実入りのいい仕事があればやるねぇ~」
「稼げるときに稼いでおくもんだぞ、嬢ちゃん」
「はい」
「僕も、お仕事する~」
ニット君も、やる気十分なようだった。
「じゃあ、まずは朝ご飯ですね」
「ああ、食堂に行こうじゃないかい」
腹ごしらえをするために、私たちは食堂へと向かった。
朝の早い時間帯ということもあり、食堂は空いていたので、すぐに食事にはありつけた。
食事を済ませ、身支度を整えると、次に向かった先は冒険者ギルド。
この城塞都市ヴァルハライズは、他の街と比べるとはるかに大きいこともあって、冒険者ギルドも大きい。
まだ、夜が明けて早い時間帯なのに結構な数の冒険者がギルド内にはいた。
そのほとんどが仕事を求め、壁一面に張り出されたリクエストボードの前にたむろしていた。
朝仕事に向かい、夕方には戻って来れるような仕事を探している人は、こぞって依頼の奪い合いをしている。
数日かかるような仕事は、だいたい残っているので、それを狙っている人はこの朝一の争奪戦に参加はしないそうだ。
やはり、どの冒険者も簡単でたくさんのお金が入ってくるような仕事を求めている。
楽して稼げるのが、それは理想かもしれない。
リクエストボードの前での争奪戦に参加するのは、さすがに無理な気がした。
でも、いい仕事を探すためならば、参加しないわけにはいかない。
私は、やる気を嫌でも漲らせるしかなかった。
けれど、セレスさんもマックスさんもリクエストボードの方に向かう様子はなかった。
「あれ?セレスさん、マックスさん……どこに行くんですか?」
私は、思わず尋ねていた。
「どこって……カウンターで直接聞いた方がいいだろう?」
「嬢ちゃんは、あの剣幕に参加したいのか?」
マックスさんは、リクエストボード前の依頼の奪い合いの様子を横目にしながら指をさした。
「いえ……あの中に入っていく勇気は、ちょっとないですけれど……」
「なら、カウンターの方が空いているんだから、そっちで聞いた方が早いだろう?それにあたいらは、この街の周辺のことをほとんど知らないからねぇ~」
「情報収集がてら、依頼も受けちまえばいいんだよ。あんな連中は、この街を拠点にしているような連中だ。わざわざそれに混ざる必要はない。それに依頼書に書かれている内容を見ただけじゃあ、俺たちのような余所者は正確に場所や移動距離なんかを把握できないからな」
「だから、カウンターで聞くってことですね?」
「そう言うことだよ。依頼を受けたら、とんでもない場所まで行く羽目になることだってあるからねぇ~。地理的に疎いあたいらは、カウンターで直接聞いた方がいいってわけだねぇ~」
セレスさんもマックスさんもスタスタとカウンターに向かって歩いて行く。
「おはようございます。ご用件を窺います」
十個ほどあるカウンターのうちの一つに歩み寄ると、カウンター内に座る女性が挨拶してきてくれた。
黒い髪を馬の尻尾のようにまとめて後ろへと垂らしている女性だった。
くりくりとした大きな瞳は愛らしく垂れ目ぎみで、褐色の瞳をしていた。
真っ赤なフレームの眼鏡をかけている。
とても清楚でおっとりとしたような見た目の人だった。
年の頃は、恐らく三十歳くらいだと思う。
セレスさんよりも年上のように見えた。
落ち着いた物腰が、そう見えただけかもしれない。
「Dランクの冒険者が請け負える仕事で、それなりに実入りの良い仕事ってあるかい?」
セレスさんは、カウンター越しに尋ねた。
「Dランクですね。少々お待ちください」
受付嬢の女性は、依頼書をペラペラとめくりながら探してくれている。
彼女たちが手元に持っている依頼書は、リクエストボードに貼られているものと同じものらしい。
けれど、中にはリクエストボードには貼り出されず、受付嬢からしか請け負うことができない物もあるという。
訳ありでボードに貼り出せなかったり、贔屓にしている冒険者に請け負わせたりする為らしい。
この街に定住しているわけではない私たちに提示される依頼はどんなものなのか、ちょっとドキドキする。
「実入りの良い仕事でしたら、こちらがありますけれど……お薦めはしていません……」
意味深な言い方をしながら、受付嬢は一枚の依頼書をカウンターに置いてくれた。
それをセレスさんが覗き込む。
私も気になったので、ニット君を胸元に抱えながら覗き見た。
「高級キノコの採取と納品?」
私は依頼の内容を口に出していた。
指定されたキノコを採取して納品するお仕事のようだ。
そんなに難しい仕事じゃない。
危険な目にも合いそうもない。
私とニット君にも出来る。
良い仕事かもしれない。
高級なキノコというからには、相当美味しいものなのだと思う。
「これがDランクで実入りのいい仕事かい?」
セレスさんは不審げな表情で受付嬢に尋ねていた。
報奨金もかなり高額で、Dランクのお仕事にしては破格だと思えた。
まあ、Bランクのセレスさんからすれば、遥かに少ない金額と言わざるを得ないけれど。
私にとっては、結構な大金だ。
「はい、Dランクの依頼の中では、今一番報酬の良い仕事になっています」
受付嬢の返答に「どう思う?マックス?」と、セレスさんはマックスさんに依頼書を見せていた。
「Dランクの依頼にしては、破格の報酬だな?何かあるな?」
マックスさんは、そう言って受付嬢に視線を向けた。
何かあるって、どういうことかしら?
「ええ、そうなんです……」
受付嬢は、少し困ったような顔をしていた。
「本来は、キノコの採取と納品なので、その半額以下の報奨金なのですが……採取が困難でして……」
えっ?半額以下の報奨金?
そうですよね?
キノコを納品するだけにしては、やけに報奨金が良いなとは思ったけれど。
採取が困難って……。
まさか切り立った崖のような場所で採取するとかじゃないわよね?
そんな依頼だったら私は、はっきりと断りたい。
崖から落ちるような危険性があることは、今は避けたい。
「困難っていうと……どんなふうにですか?」
不安に思った私が尋ねると、受付嬢は大きな溜め息を一つ吐いた。
「高級キノコを採取する場所に単眼の巨人が住み着いてしまいまして……」
「はぁ?単眼の巨人?」
セレスさんは、耳を疑うような感じで聞き返していた。
「そうです。単眼の巨人です。しかも、二体も住み着いてしまって困っています。さすがに、キノコの採取と納品という依頼をBランクの冒険者にさせるわけにもいかず……けれど依頼者は早く高級キノコが欲しいらしくて報奨金が上がってはいるんですが、もしもDランクの冒険者が単眼の巨人と遭遇してしまったらと考えたら、なかなかお薦めできないので……」
え~と、つまり……単眼の巨人っていう魔物がキノコの採取ができる場所に住み着いてしまい、採取ができない状態になってしまった。
その単眼の巨人は強い魔物なので、私のようなDランクの冒険者では歯が立たない相手。
でも、キノコの採取と納品をランクの高い冒険者にさせるわけにもいかず、困っているといったところみたい。
「あの~単眼の巨人って、ものすごく強い魔物なんですか?」
名前を聞いただけでは、どんな魔物なのかわからなかったので私は尋ねた。
「目が一つの巨人だな」
マックスさんのザックリとしすぎた説明に私とニット君は「目が一つの巨人?」と首を傾げた。
「そうです。目が一つだけしかない巨人で、体長は四メートルほど……そうですね、そこの方二人分以上の大きさくらいだと思います」
受付嬢は、マックスさんを指さしている。
マックスさんはガタイも良く、私たちの中でも一番背が高い。
そのマックスさんが二人分となると、相当大きな魔物になると思う。
そんな魔物と遭遇したら、私は立ち竦んでしまうことだろう。
戦ってどうにかできる相手ではないことは簡単に想像ができた。
この依頼は危険すぎる。
遭遇しなければ良いとは思うけれど、もし万が一遭遇してしまったら、生きて帰っては来れないかもしれない。
「単眼の巨人は、Bランククラスの魔物だねぇ~。こりゃ厄介な相手だねぇ~」
困ったといった表情をセレスさんは見せていたけれど、なんとなく仕草がわざとらしい感じがした。
「この依頼は、お薦めはしません。ただ実入りがいいと言われたので出してみただけです」
受付嬢は、依頼書を掴むと引っ込めようとした。
「待ちな。その依頼は、この二人が請け負うよ」
セレスさんは、その手を掴むと、私とニット君を指さしながら不敵な笑みを浮かべていた。
「え?セレスさん?Bランクの魔物が現れるような場所ですよ?無理ですって」
私は慌てて拒否をする。
運が良ければ、魔物と遭遇せずに帰って来られるかもしれないけれど、このギャンブルに乗る気は私にはなかった。
「お嬢ちゃんとボーヤはキノコの採取をすればいいだけだから、簡単だろう?報奨金もいい。こいつを請け負いな」
有無を言わせないといったようなセレスさんの口調だった。
「え~と、冒険者登録証明書をお願いします」
そう言われ、私はニット君と顔を見合わせた後、やや渋々といった感じで二枚の紙を受付嬢に手渡した。
「ふ~ん……Dランクの冒険者のアテナ・アテレーデさんとニットさんですね。コンビ登録されているようなので、この依頼をお二人で請け負うということでよろしいですか?」
受付嬢に尋ねられ、私は返答に戸惑う。
さすがに危険だとわかっている依頼を積極的に受けたくはない。
セレスさんの方を見ると「請け負うから、手続きをしてくれないかねぇ~」と私の代わりに答えていた。
何だか、急かしているような感じにも見える。
「もう一度確認しますが、本当に受けるんですね?危険を承知で?」
念を押して尋ねられる。
それにセレスさんが答えていた。
「この二人が受けるよ」と。
「わかりました。手続きをさせてもらいますね」
受付嬢は大きな溜め息を吐いて、仕方なしに手続きをするために私とニット君の冒険者登録証明書に何かを書き込んでいた。
今、請け負った依頼の内容を書き込んでいるようだ。
「本当に知りませんよ……単眼の巨人と遭遇しても……」
責任は私にはないと言わんばかりに、受付嬢は呟いていた。
書き込みが終わると、カウンターに証明書が置かれた。
「うんうん、いいねぇ~」
何がいいのやら。
セレスさんは、私とニット君の冒険者登録証明書を見て頷いていた。
マックスさんよりも大きい体格の魔物である単眼の巨人が生息している場所に行き、高級キノコを採取しなければならなくなってしまった。
どうか魔物と遭遇しませんようにと、私は祈るような気持ちだった。
「それじゃあ、次はあたいらの番だねぇ~」
セレスさんは、身を乗り出して受付嬢に言った。
「今のキノコの採取場所にいる単眼の巨人の討伐依頼ってあるかい?」
「えっ?単眼の巨人の討伐依頼ですか?ありますけれど……」
「見せてくれないかい?」
「はぁ?」
受付嬢は、困ったような表情をしていた。
けれど、複数の依頼書の束を引っ搔き回して一枚の紙を取り出した。
それをカウンターに置いていく。
「これが単眼の巨人の討伐依頼になりますけれど……こちらはBランクの冒険者でなければ請け負うことはできませんよ?」
セレスさんは、受付嬢の言葉なんて聞いていなかった。
依頼書を手に取るとマックスさんに見せながら「なかなかいいんじゃないかい?どうだい?」と同意を求めていた。
「そうだな。単眼の巨人二体の討伐か……簡単にはいきそうにないが、報奨金も結構高額でいいかもな」
あっさりと同意していた。
「これをあたいとこいつで引き受けるよ」
セレスさんは、依頼書をカウンターに叩きつけるように置いて、力強く宣言していた。
「えっ?あの~……Bランクの冒険者にしか勧められませんよ?あなた方Dランクでは……?」
あ~、この受付嬢の女性は、セレスさんとマックスさんがDランクの冒険者だと思っているみたいだった。
だから、困ったような様子だったんだと今になって思った。
「誰がDランクだって?」
「あたいらのことをよく見て見な」
マックスさんとセレスさんは、それぞれが冒険者登録証明書を取り出してカウンターの上にこれ見よがしに置いた。
受付嬢の女性は、その二枚の紙を覗き見る。
見る見るうちに顔色が変わる。
「えっ?えっ?Bランクの冒険者だったんですか?」
二人の顔と証明書を何度も交互に見返していた。
「そこに書いてあるだろう?」
「ちゃんと見てもらいたいもんだねぇ~」
「だって、Dランクの方だと思ったから……」
しっかりとセレスさんとマックスさんの冒険者登録証明書に視線を落とす受付嬢。
「セレス・セレナさんとマックス・ディアーさんですね。ともにBランクの冒険者だとは……それならそうと先に言っていただきたかったです」
やや口を尖らせながら、この受付嬢は言った。
「単眼の巨人の討伐依頼は、受けられるんだろうねぇ~?」
「当然です。こちらも迷惑しているので一刻も早く片付けてもらいたいものです」
受付嬢は、二人の証明書に請け負った依頼内容などを書き込んでいた。
「セレス。お前、最初からそのつもりだったな?」
「ああ、そうだよ。あたいらが先に単眼の巨人の討伐依頼を受けちまったら、お嬢ちゃんたちの報奨金が少なくなっちまうと思ったからねぇ~」
「だからかよ。無理矢理に嬢ちゃんたちに請け負わせようとしていたから何か企んでやがるな?とは思って見ていたがな……」
二人は小声で、そんなことを話していた。
どうやら、先に単眼の巨人の討伐依頼を受けてしまうと、セレスさんたちが安全を確保してからキノコの採取になる。
そうなれば、安全が保たれた状態での採取なので、キノコの納品の報奨金が安くなってしまうのではないかとセレスさんは考えたみたい。
だから、先に私たちにキノコの採取の依頼を受け負わせたようだった。
私とニット君が先に依頼を受けているので、ギルド側は報奨金を減らすようなことはできないだろうと考えたみたい。
悪知恵が働くと言ったら聞こえが悪いけれど、よくよく考えれば私たちのことを考えてくれているからこその対応だと思う。
それに口出しすることは、私はしなかった。
「これで手続きは完了です」
冒険者登録証明書をセレスさんとマックスさんに返しながら受付嬢は、大きく息を吐いた。
「確認したいことがあるんだけれど、いいかい?」
「何でしょうか?」
「あたいらが先に単眼の巨人の討伐をしちまっても、こっちのお嬢ちゃんたちが請け負った依頼の報奨金が減るってことはないよねぇ~」
セレスさんにそう言われてから、この受付嬢はそれに気づいたようだった。
安全が確保された状態であれば、私とニット君は難なくこの依頼を達成させることができるだろう。
それに伴い、それなりの……本来の報奨金よりも高額な報酬が受け取れる。
「それはありません。すでにその報酬金額で請け負ってもらっていますので、変わりません。まさか、Bランクの冒険者が一緒だとは思いもしませんでした。Dランクの方たちだとばかり……」
最後の方は何やらぶつぶつと呟いていて聞き取れなかった。
「そう言えば、聞くのを忘れていたが、この単眼の巨人が生息している場所は遠いのか?」
依頼の内容だけ聞いて決めてしまったけれど、どこへ行けばいいのかしら?
「いえ、半日もかからずに行ける場所です。森の中なので、私が同行いたしますが、今から出発されますか?」
「ああ、そうだねぇ~。今から行けば夕方ごろには帰ってこれるくらいってところかねぇ~」
セレスさんの中では討伐の算段が整っているようだ。
「いや、ちょっと待て。半日もかからずに行ける場所なのに、同行するのか?」
マックスさんは、同行者がつくということを疑問に思ったのか尋ねていた。
確か、片道で一日以上かかる場所だとギルドの同行者が一名ついてくるはず。
今回の依頼は片道で半日もかからない場所だそうだから、同行者は必要なくて討伐した証である単眼の巨人の身体の一部を持って帰ればいいはず。
私とニット君は、キノコを採取して納品すればいいので同行者は必要ない。
「確かにそうだねぇ~。同行者は必要ないはずだねぇ~。道案内をしてくれるにしても、同行者がついてくるなんてサービスしすぎじゃないかい?」
セレスさんも疑問に思ったみたい。
不審げな視線を受付嬢に向けていた。
「え~と……それはですね……」
何だか口ごもっている。
何かを隠しているようだ。
「答えな?」
どすの利いた声で、セレスさんがカウンターを握った拳で叩いた。
「あ~……その……単眼の巨人って滅多に見かけない魔物じゃないですか?」
そう言われ、セレスさんとマックスさんは頷いていた。
私は単眼の巨人って魔物のことは知らないので、頷きようがなかったけれど、私が抱きかかえたままだったニット君は、なぜか頷いていた。
ニット君は、わかっているのかしら?
単眼の巨人って魔物のことを。
多分、知らないと思うんだけれどなぁ~。
セレスさんたちが頷いているので真似しているだけかも。
「珍しい魔物だけに、討伐したら標本に出来たらなぁ~と思いまして……」
魔物を標本にしたいから、欲しいってことですか?
確か、マックスさんよりも大きい魔物だと言っていたはずなんだけれど、この受付嬢の人はよほどの怪力自慢なのかしら?
どうやってそんな大きな魔物を持ち帰るつもりなのかしら?
体格的には私とほぼ変わらないような感じの受付嬢。
とても一人では運べないだろうし、私たちが運ぶにしても人手が足りない気がした。
「それって、あんまり傷つけずに倒せってことかい?」
「そこまでは言いませんけれど、ギルドとしては珍しい魔物は標本にしておきたいということで……同行したいなと……」
「悪趣味だねぇ~」
げんなりとしたような表情でセレスさんが小さな声で呟いていた。
「なるほどな。だが、どうやって運ぶ気だ?俺たちで運ぶなんてのは、ごめんだぞ」
依頼の内容には、単眼の巨人の討伐はあっても、遺体の回収・運搬は書かれてはいなかった。
「大丈夫です。私達……ギルド側で荷馬車を用意します。少し離れた場所からついてくるようにして、討伐が完了したら呼び寄せて運びますので」
「無傷で倒すってのは無理だけれど、傷が少なかったらそれなりの金額で引き取ってはくれるのかい?」
「……良いでしょう。ただ、少し色を付ける程度しかできませんが、それでいいですか?」
「まあ、それで良しとするかねぇ~」
話は、まとまったみたいだった。
「では、準備をしてまいりますので、ギルドの入り口前でしばらくお待ちください」
受付嬢はそう言うと、そそくさと旅支度や単眼の巨人の遺体を回収するための荷馬車の手配などを行うために席を立った。
「それじゃあ、外で待つとするかねぇ~」
私たちはカウンターを離れ、ギルドの外へと続く扉の方へと歩いて行った。
その際にリクエストボードの方に視線を向けたけれど、相も変わらずたくさんの冒険者でごった返し、我先にと良い依頼を求めて群がり続けていた。
依頼書は、まだまだたくさんボードに貼り付けられていた。
いったい、そんなに争い合ってまで取り合うような良い依頼があるのかしら?と少し興味は湧いた。




