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第6話 秘密

 マックスさんに剣の使い方を教えてもらえることになった。

 でも、そのことはアテナ様には、秘密にしている。

 セレスさんとマックスさんも秘密にしてくれている。

 僕自身、どこまで強くなれるのかわからない。

 だから、強くなるまでは秘密にしておきたかった。

 僕には、体力や筋力があまりない。

 そのため、最初は体力と筋力をつけるトレーニングを行うことになった。

 体力をつけるために走った。

 疲れても走って、走って、とことん走った。

 最初は、ちょっと走っただけでバテテしまったけれど、次第に慣れてくると少しずつだったけれど長い距離を走れるようになった。

 次に筋力をつけるために、腕立て伏せや腹筋、背筋なんかをやるように言われて頑張った。

 腕立て伏せは連続で5回くらいしかできなかったけれど、それを何回も繰り返していった。

 そのうち、連続で10回できるようになり、20回できるようにまでなった。

 継続することで徐々にいろいろなことができるようになっていく。

 今までできなかったことができるようになると嬉しくなってくるし、マックスさんに褒められたらより嬉しくなって頑張ってしまった。

 トレーニングした後は、いつもヘトヘトだ。

 ここ最近は、野宿の準備をする際にマックスさんに体力トレーニングの指導をしてもらっている。

 なので、最近はアテナ様が不審な目で僕を見ることが多くなった気がする。

 野宿の準備になるたびに、僕はマックスさんと行動を共にするようになったからだ。

 変な疑いをかけられる前に、アテナ様に話した方がいいのか迷うところだけれど、アテナ様のために強くなる修業をしているって言うのは、なんか恥ずかしかった。

 もしも話した後、僕が強くなれなかったら、アテナ様に嫌われてしまうかもしれないと僕は心のどこかで恐れていたのかもしれない。


 今日は、体力トレーニングの後に剣の振り方を教わった。

 僕は剣を持っていないので、その辺に落ちていた木の棒を剣に見立てて振る練習をした。

 ちょっと太めで長い木の棒なので結構、重たい。

 身体の重心をブレないように意識しながら、振るった。

 腕立て伏せをした後なので、腕が結構限界だったけれど、強くなるんだと自分に言い聞かせながらなんとか振るい、今日のトレーニングは終わった。

 ヘロヘロになった状態で、セレスさんとアテナ様がいる場所に戻ると、アテナ様がものすごく心配そうな顔をして出迎えてくれた。

「どうしたの?ニット君。なんだか、すごく疲れたような顔して…体調でも悪いの?」

「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから…えへへ…」

 倒れこみそうになりながらも、何とか踏ん張る。

 毎日行われるトレーニングが結構身体に負担をかけているのはわかっている。

 けれど、やめるわけにはいかない。

 自分から言い出したことだし、アテナ様を守れるくらいに強くなりたいという思いは今も変わっていないからだ。

 この日の夕飯を食べた後、僕はすぐに眠ってしまった。

 それくらい疲れていたみたいだった。


 野宿をする日は、野宿をする前にトレーニングをし、街に滞在しているときは、マックスさんが暇なときに剣の稽古をつけてくれていた。

 マックスさんの指導のおかげで、結構体力も付いたし、筋肉も付いたと思う。

 僕の身体の見た目はほとんど変わっていないけれど、なんとなくそんな気がする。

 最近は、木の棒を振り回してマックスさんに向かって打ち込んでいく練習をしている。

 まだまだ、剣を振るって戦えるっていうレベルじゃないけれど、攻撃の仕方を教えてもらっていた。

 僕の力では、目いっぱい打ち込んでもマックスさんは、びくともしない。

 何度も何度も木の棒を振るって打ち込んだ。

 今度は剣で身を守るすべを教えてもらう。

 マックスさんが、すごく手加減をしながら細い木の枝で打ち込んでくるので、それを僕は木の棒で受けるという練習だ。

 細い木の枝だけど、自分に向かってくると結構怖い。

「目をつぶるんじゃないぞ。目を瞑ったら攻撃が見えなくなる。しっかりと相手の攻撃を見るんだ。できれば、相手の動き全体を見るようにするんだ。木の枝の動きだけだと、他の動きを見落とすことになるからな」

「うっ…うん」

 なんとなく、言っていることはわかるけれど、どうしても振り下ろされる木の枝に意識が集中してしまう。

 指導を受けながら、自分でもどうしたらいいのか考えながらトレーニングを続けた。

 迫ってくる木の枝は、慣れてくれば次第に怖くなくなってくる。

 でも、戦いになったら、木の枝ではなく真剣での打ち合いになる。

 当たれば怪我をする。

 それを想像すると怖くなった。

 だけど、恐怖を克服しなければ、戦いの場に立つこともできない。

 今日は、どれだけの時間、トレーニングをしたのかわからない。

 身体の動きが鈍くなってきた。

 まだ、体力が少ないようだ。

 動きが遅れだした僕の腕に激しい衝撃が打ち付けられた。

「ひぃぃぃぃぃぃ」

 左腕にマックスさんが振り下ろした木の枝がバシッと音を立てて当たった。

 腕が重く、反応についていけなかった。

「大丈夫か?ボーズ」

 マックスさんが、木の枝が当たった左腕を覗き込んでくる。

 僕は苦笑いをする。

 左腕は、真っ赤になって腫れていた。

 痛いというよりは、腕が熱い。

「こりゃまずい。今日は、もう終わりにしよう」

 マックスさんはそう言って、僕と一緒に宿に戻ることにした。


 宿に戻るとアテナ様とセレスさんがいた。

 アテナ様は、小さな本を読んでいた。

 退屈そうにベッドに横になっていたセレスさんは、身を起こすと「帰って来たかい」と声をかけてくれた。

 僕は、コソコソと部屋に入っていく。

「お帰り、ニット君。マックスさんとのお出かけは楽しかった?」

 アテナ様にそう尋ねられて「うっ…うん…」と曖昧あいまいうなずいた。

 その時に僕は、左腕を背後に隠すように動かした。

 僕の背後には、セレスさんがいた。

 僕が隠すように動かした左腕が見えたはずだ。

 真っ赤に腫れ上がった左腕が。

「ボーヤ、どうしたんだい?その腕は?」

 セレスさんが声を上げた。

「これは…その…」

 セレスさんから腕を隠そうと後ろを向く。

 今度は、アテナ様の方から僕の腫れあがった左腕が丸見えになっていた。

「どうしたの?真っ赤になって、腫れあがっているじゃない?」

 読んでいた本を投げ落とし、アテナ様は駆け寄ってきて、僕の左腕を掴む。

 もう、どうやっても隠せなかった。

「何があったんですか?マックスさん?」

 アテナ様は、ちょっと怒った声でマックスさんに問いただす。

「いや…これはだな…」

 剣の稽古を受けていることは、アテナ様には秘密にしている。

 だから、マックスさんは言いよどむ。

「ニット君、何があったの?」

 心配そうな顔でアテナ様が見つめてくる。

 アテナ様には嘘は付けないし、もうこうなったら話すしかないと思った時だった。

「ボーヤは、マックスに剣の稽古をつけてもらっていたんだよ」

 と、セレスさんが話し出した。

「剣のお稽古?」

 アテナ様は、困惑した表情をしている。

「本物の剣を使ったわけじゃない。俺が振るった木の枝をボーズが木の棒で受け止める練習をしていたら、腕に当たっちまったんだ」

 申し訳なさそうな表情をしながらマックスさんが言った。

 マックスさんは、悪くない。

 すごく手加減をしながら相手をしてくれていた。

 たまたま、受け止められなかった僕が悪いだけだ。

「なんで、ニット君は剣のお稽古なんかを…?」

 突然の剣の稽古の話にアテナ様は、戸惑っている。

 何も言えない僕に代わってセレスさんが、話してくれた。

「お嬢ちゃんがいつもボーヤのことを守っているだろう?ボーヤは、いつも守ってくれるお嬢ちゃんのことを守れるくらいに強くなりたいと言い出したのさ。だから、マックスがボーヤに剣の稽古をつけていたってわけさ。いつも二人でいなくなっていただろう?あれは剣の稽古をするためだったのさ」

「それって…知らなかったのは、私だけってことですか?ニット君、何で私には言ってくれなかったの?」

 問い詰めるというよりは、話してくれなかったことが悲しいといった表情をアテナ様はしていた。

「それは…」

 言いよどむ僕の代わりにセレスさんが、さらに言う。

「お嬢ちゃんを守るために剣の稽古をするなんて、面と向かって言えるわけないだろう?さすがに、言う方も恥ずかしいだろうし…」

「言われたら、私も恥ずかしいですよ…」

「だから、内緒にしていたのさ。あまり、怒らないでいてあげな」

「おっ…怒るようなことはないですよ。ただ…その…毎日、マックスさんといなくなるし、何か変だなとは思っていましたけど…」

「内緒にしていて…ごめんなさい…」

 僕は、か細い声で謝った。

「謝ることないわ。悪いことをしていたわけじゃないもの。ただ…なんだかけ者にされたみたいに感じただけだから…私のことを守りたいから、強くなるために剣のお稽古をしだしたなんて、ちょっとびっくりしちゃった。それに…なんだか嬉しいわ」

 少し照れたような表情で、アテナ様は僕の頭に手を乗せると撫でてきた。

「でも、これからは、私も一緒に剣のお稽古をするわ」

 突然のことに僕は驚きの表情で目を見開いていた。

「私もまだまだニット君のことを守れるくらいに強いわけじゃないから。迷惑でなければ、私も一緒に剣のお稽古を受けたいんですけど、いいですか?」

 アテナ様は、マックスさんに尋ねていた。

「ああ、一人に教えるも二人に教えるも手間は変わらないからな。俺は構わないがな」

 マックスさんは、安請け合いをする。

「それなら、ニット君ともどもご指導よろしくお願いします」

 アテナ様は、深々と頭を下げた。

「それで…ニット君?腕は痛むの?」

 僕の腫れあがった左腕に優しく触れながら尋ねてくる。

「痛みは、あまり感じないけれど…腕がものすごく熱いの」

「熱い?お医者様に見てもらった方がいいかしら?」

 アテナ様が悩んでいると「その程度なら、あたいが何とかできるかもね」とセレスさんは言いだした。

 僕に歩み寄ってくると、かがみこんで腫れ上がった左腕を手に取る。

「リップヒーリング」

 小さく呟くと、セレスさんの唇が淡く光る。

 その唇が腫れ上がった僕の左腕に触れる。

 赤く腫れ上がっていた腕の赤みが徐々に消えていく。

 そして、腫れも引いていった。

「まあ、こんなもんかねぇ~」

 セレスさんが唇を離すと、僕の左腕は元の状態に戻っていた。

 いや、戻ったのは見た目だけだった。

「いたたたたたた…」

 腕が、急に痛み出した。

「ニット君?どういうことですか?ニット君の腕は治ったんじゃあ、ないんですか?」

「あたいのリップヒーリングは、唇が触れた箇所の怪我を元通りにする効果があるんだけれど、あたいは回復魔法は苦手でねぇ~。ちょっとした怪我程度なら傷跡を残さずに塞ぐことはできるけれど、痛みまでは取り除くことはできないから…しばらくは痛みが残るけれど、それくらいは我慢しな。男の子だろう?」

 セレスさんの魔法も万能じゃないってことみたいだね。

 でも、赤みも引いたし腫れもなくなったんだから「ありがとう、セレスさん」とお礼を言った。

 その日の夜は、腕の痛みでなかなか寝付けなかったけれど、身体の疲労のためか、いつの間にか眠りについていた。

 朝起きた時には、痛みはほとんど感じなくなっていた。

 魔法ってすごいな。

 僕も使えたら良いなと思った。


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