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剣王戦記  作者: 朧月 氷雨


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第43話 城塞都市

 そこは、大きな大きな街だった。

 城塞都市ヴァルハライズと呼ばれるこの都市は、私が訪れた街の中でも驚くほどに大きく堅牢な城塞都市だった。

 街の周囲を二重に覆う様にそびえ立つ巨大な壁。

 このような壁を築かなければならなかったとことを考えると、強大な敵がいるということは容易に想像できた。

 度重なる領土をめぐる戦争によって、身を守るためにこのような壁を築き上げて、街を守って来たのだという。

 人と人とが領土をめぐって争う戦争はとうの昔には終わったけれど、新たな火種ともいえる存在がこの城塞都市を脅かしていた。

 時折、魔物が街の近くをうろつくことがあるのだと、冒険者ギルドの受付嬢は話してくれた。

 私たちの倍以上はある巨体の魔物である巨人ジャイアントと呼ばれる存在は、今もこの街に脅威を及ぼしているらしい。

 少数だけれど、この城塞都市の近くにある森や山岳地帯に巨人ジャイアントは、生息しているみたい。

 それに遭遇しなかったのは、運が良かったと言える。

 また、巨漢トロルのような醜い身なりの魔物も目撃されているのだという。

 この城塞都市の周辺で巨人ジャイアント巨漢トロル、そして城塞都市ヴァルハライズに暮らす人々の間で、互いの生存をかけて戦いを繰り広げているようだ。

 冒険者ギルドでは、巨人ジャイアント巨漢トロルの討伐を行うべく、生態調査を行い、立ち上がる勇士……冒険者を募っていた。

 そんな依頼があると、冒険者ギルドを訪れた私たちは、目の前にいるおしゃべりな受付嬢に勧められて困惑していた。

「今は、こんな依頼はどうでもいいんだよ。あたいらは、子供を探しているんだい。怪我をしてこの街に運ばれたはずなんだ。病院やら診療所の場所を教えてくれって言っているのが分からないのかい?イライラするねぇ~」

 イラつき、怒声を張り上げているセレスさん。

 対してカウンターを挟んで向き合う受付嬢は、まったく気にした様子もなく「Bランクの冒険者とお聞きしたので……」と、マイペースな人だった。

 診療所などの場所を教えてもらい、早くニット君を探したいのに……。

 私たちは、この城塞都市ヴァルハライズには初めてやって来た。

 この都市のどこに何があるのかが全く分からない。

 無闇に走り回ってニット君を探しても、徒労に終わる可能性が高い。

 そこで冒険者ギルドで病院や診療所などの場所を聞き、その情報を元にニット君と思われる子供が運び込まれていないかを一軒一軒しらみつぶしに当たろうと考えていた。

 にもかかわらず、この受付嬢の人は、この都市のことを話しだし、セレスさんたちに魔物の討伐依頼を勧めてきている。

 こっちの事情も組んでほしい所だ。

「こいつじゃらちが明かねえ」

 マックスさんもイラついた声を上げて、カウンターにバンと音を立てて掌を叩きつけていた。

 冒険者ギルド内に、その音が高々と響き渡る。

 周囲にいた冒険者たちが何事かと私たちの方を見ていた。

「あわわわわ……すみません。あたしが対応いたしますので、こちらにいらしてください」

 見かねたようで、短めの青い髪を振り乱して、慌てた様子で駆け寄ってくる人がいた。

 この人も冒険者ギルドの受付嬢の様だった。

 オレンジ色の右目に対して、左目は髪と同じ青色のオッドアイを持つ女性だ。

 セレスさんたちの態度に、やや怯えているような様子も見えるけれど、気性の荒い冒険者たちを相手にする仕事をしているのだから、こういったことは日常茶飯事なのかもしれない。

 この青髪の女性以外の受付嬢は、特に何の感慨もないように見受けられた。

「ふん」

 セレスさんは、これ見よがしに鼻を鳴らして、一瞥して今まで対応してくれていた受付嬢を睨みつけた後、青髪の受付嬢の元へと移動した。

「大変失礼いたしました。あたしは、レナス・レイナーティスと申します。どういったご用件でしょうか?」

 恐る恐るといった感じの口調だった。

 セレスさんとマックスさんの顔は、鬼のような形相をしていたからだった。

 かなり苛立っている様子なのが伺えた。

 私も先ほどの人の対応に少しだけイライラしていたけれど、二人の姿を見たら若干は冷静になれた。

 早くニット君を見つけたい。

 彼を見つけて安心したいという思いが溢れてきて止まらない。

 そんな私のことをおもんばかってくれての言動だと思う。

「さっきも言ったけれど、あたいらは子供を探しているんだよ。怪我をしている可能性があるから、この都市の病院か診療所に運び込まれているから場所を教えてくれって頼んだのに、関係ないことをべらべらとしゃべって……」

 早口でまくしたてながら、セレスさんはイライラが最高潮に達しようとしているような様子だった。

 このままだと、ギルド内で暴れ出しそうな勢いだ。

「わかりました。病院や診療所ですね。たくさんあるので、地図に印を打ちますので少しだけお待ちください」

 この街の簡易的な見取り図のようなものを広げて、黒丸で病院やら診療所の場所を示してくれている。

「こんな感じです」

 ひとしきり書き終えて、レナスさんは見取り図を私たちの方に広げてきた。

「こんなにあるのかい?」

「探しきれないぞ」

「それでも探さないと……ニット君が……」

 病院や診療所の数はそれなりに多かった。

 この城塞都市が広すぎるため、数が多いと思われる。

「片っ端から探すしかないねぇ~」

「それしかなさそうだな」

「手分けして探しましょう」

 三人で同じ場所へ行くのは非効率的だし、時間のロスが多い。

 手分けして探す方がより多くの診療所などを回れるはず。

「こっち側にはほとんど印がないけれど、ここは何なんだい?」

 見取り図の北側に当たる部分には、ほとんど印が打たれていない。

 それをセレスさんは尋ねていた。

「そのあたりは、貴族様のお屋敷が連なる場所なので……」

 貴族と聞いた途端に「ああ、そうかい」とセレスさんは生返事を返していた。

 そういえば……前の街で、この都市には貴族が住んでいると聞いていた。

 貴族のお屋敷がある区画は、かなり広いみたい。

 この都市の四分の一が、貴族のお屋敷があると思われる。

「あっ?赤いほろの馬車……」

 私は木こりのおじさんが言っていた言葉を思い出した。

 赤い幌の馬車が街道を駆け抜けて行ったと言っていた。

「あの……赤い幌の馬車を所有している貴族の人っていますか?」

 私は、レナスさんに尋ねた。

「赤い幌の馬車ですか?皆様、派手な色を好むというか……自分の存在を象徴するかのように目立つ色を選ぶ方々が多いので……たくさんいますけど……」

「たくさんいる?」

 これでは、馬車を特定して見つけるのは難しいかもしれない。

 やはり、病院や診療所をめぐって探すしかない。

「ギルドの場所は、ここだねぇ~」

 見取り図のやや中心付近にこの冒険者ギルドはあるみたい。

 そこを指さしている。

「南側はマックスに行ってもらうことにするよ」

 かなり数が多そうなのが南側だった。

「任せろ」

 ドンと鎧に覆われた胸を叩いて自信ありげにマックスさんは頷いた。

「あたいは西側を回る」

 セレスさんは、数は少なめだけれど、やや距離がある西側を回ってくれるみたい。

「お嬢ちゃんは東側を頼むよ」

 私にあてがわれたのは、数も少なく、範囲も狭い。

 私のことを気遣ってくれているとは思うのだけれど、申し訳ない。

「でも、それじゃあ……」

 異論の声を上げようとしたけれど、セレスさんはそれを遮って言葉を続けた。

「ボーヤの情報を得たら、一旦このギルドに集合だよ。良いね?」

 有無を言わさぬ迫力があり、私は口をつぐんで頷くしかなかった。


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