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第5話 強くなりたい

 森の中の街道を歩いていると、突然、小鬼ゴブリンの集団に襲われた。

 ゴブリンは、子どもくらいの大きさでやや猫背気味。

 額に小さな角のようなものが1~3本生えているのが特徴的な魔物だ。

 ぼろ布のようなものを身体にまとっていたり、動物の毛皮を身に着けていたりする。

 中には人間から奪い取った服を着ているものも稀にいる。

 手には、木の棒や削りだした木製のこん棒、鉄の塊のようなお粗末なナイフを扱う。

 このゴブリンの知能は子供並みだけれど、非常に悪知恵が働く。

 しかも、集団で行動をするため、遭遇したら厄介な存在だ。

 数で攻められたら、たまったものではない。

凍結の槍フリーズランス

 セレスさんは、両手に持った白と黒の短剣…『白銀しろがねやいば』と『黒鉄くろがねの刃』に氷魔法をまとわせると、短剣に埋め込まれていた魔法石がそれを増幅する。

 短剣を振り回すと、刀身から複数の氷柱つららを飛ばす。

 氷柱の雨は、直撃してゴブリンを確実に倒していく。

 氷柱で顔や体を引き裂かれ、貫かれ、氷漬けにされている個体もある。

 離れているゴブリンには短剣で増幅した魔法を放ち、近づいてくるゴブリンには直接切りかかっていく。

 戦いれているようで、次々にゴブリンを駆逐していく。

 マックスさんは、巨大な剣『ドラゴンバスター』と呼ばれるものを軽々と振り回して、一度に複数のゴブリンたちを殴り倒していく。

 鋭い切れ味の『ドラゴンバスター』に真っ二つにされて、地の上を転がる。

 または、刀身で強打されてあっさりと骨が砕けてくずおれる。

 歴戦の戦士という風格で、危なげなく余裕で戦っている。

 私はというと、たった一匹のゴブリンと戦うので精いっぱいだ。

 剣の扱いは、多少は習ったことがある。

 習ったことがあるだけで、実戦で戦ったことはほとんどない。

 魔法も使えるわけではない。

 魔法は、『魔力』がないと使えない。

 魔力は、みんながみんな持っているわけではないらしい。

 一種の才能や生まれつきによるものらしい。

 なので、魔力がない人は何をどうやっても魔法は使えない。

 また、魔力があっても、潜在的な魔力量が少ないと強力な魔法は使えない。

 それと、魔法を扱うには魔法との相性やセンスも必要らしい。

 炎属性と相性のいい人もいれば、悪い人もいるらしい。

 炎属性と相性が悪い人が、いくら頑張って炎の魔法を使おうとしてもうまく使えないみたい。

 逆に複数の魔法と相性のいい人もいるらしい。

 結局のところは、生まれ持った天賦てんぷの才と豊富な魔力がなければ、魔法は使えない。

 私には魔力はない。

 だから、魔法は使えない。

 それならば、剣で戦うしかない。

 私は、『聖剣エクスカリバー』を振るってゴブリンと戦う。

 私の背後では、ゴブリンの襲撃にニット君が戸惑っている。

 彼は武器も持っておらず、魔法も使えないため、身を守るすべが何もない。

 ただ、右往左往するばかりだ。

 ここから逃げるわけにはいかない。

 逃げたらニット君が襲われてしまう。

 私は、ゴブリンの攻撃を紙一重で受け止めながら、チャンスを見つけては攻撃する。

 踏み込みが甘く、致命傷を与えられない。

 剣の振りも遅いため、すばしっこい動きを見せるゴブリンの動きに翻弄ほんろうされてしまっている。

 けれど、少しづつ私の剣がゴブリンの身体に傷を与えている。

 ゴブリンの持つナイフと私の持つ『聖剣エクスカリバー』とでは、圧倒的に刀身の長い私の方が攻撃範囲リーチが広い。

 ゴブリンの接近さえ、許さなければ負けはしないはずだ。

 イライラした声を上げて、ゴブリンが手にした鋼鉄製のナイフを大きく振りかぶって来た。

 私は、両手で剣の柄を握ると、身体ごとぶつかるように剣を突き出した。

 がら空きになったゴブリンの胸にエクスカリバーの切っ先が易々と飲み込まれていく。

 勝負は決した。

 ゴブリンは悲鳴を上げて、絶命した。

 糸の切れた人形マリオネットのように、地面に倒れ伏してあわれな姿をさらしている。

「終わったかい?」

 たった一匹のゴブリンをやっとの思いで倒した私に、セレスさんが声をかけてきた。

「何とか…」

 私は、安堵あんどしたためか、一気に疲れてしまい、その場にへたり込んでしまった。

「アテナ様、大丈夫?」

 ニット君が駆け寄ってくれて心配そうな表情で見つめてくる。

「大丈夫よ、ちょっと疲れただけだから」

 微笑んで、彼の頭を優しく撫でてあげると、安心したような表情を見せてくれる。

 ニット君は、怪我もしていないようで無事だ。

「ゴブリンの巣でもあったのかな?」

 巨大な剣『ドラゴンバスター』を背中の鞘にしまいながら、マックスさんは倒したゴブリンを見渡す。

 全部で20匹くらいいるだろう。

 一匹だけを私が倒し、それ以外をセレスさんとマックスさんの二人が倒してしまった。

 それだけで、この二人の実力がわかるというものだ。

 私がヘナチョコすぎるだけかもしれない。

「さすがに…ボーズを守りながら戦うってのは難しいだろう?」

「ボーヤも自分の身を守るくらいのすべを学んだ方がいいかもしれないねぇ~」

 二人の言う通り、ニット君も自分の身を守るくらいはできた方がいいとは私も思う。

 でも、戦うとなれば怪我をするリスクも高まる。

 無理やり戦いに参加させるようなことは、させたくないのが私の本音だ。

「私が、頑張ってニット君を守ります」

 私は宣言するように、または自分に言い聞かせるように言い切った。

 セレスさんとマックスさんは、私の宣言に何も言わずにただお互いの顔を見合わせていただけだった。

 そんな中、ニット君は何やら思いつめたような顔をしていた。

 この時の私は、それには全く気づいてはいなかった。


「今日は、ここで野宿することになるよ」

 日が暮れかける前に、野宿の準備をすることになった。

 日が暮れてからでは、真っ暗になってしまい、何もできなくなってしまう。

 その前にある程度の準備を終わらせないといけない。

 マックスさんは何か食料になる獲物を探しに行くと言って、この場を離れていく。

 セレスさんは周辺の警戒をしつつ、火の準備をするつもりらしい。

 私も何かしなければ。

たきぎを集めてきますね」

 声をかけると「あまり遠くに行くんじゃないよ。それと…このボーヤは、あたいが見ておくよ」と言って、私についていこうとしていたニット君の首根っこをつかんでいた。

 暴れてセレスさんの手から逃れようとしている。

「よろしくお願いします。ちょっとだけ言ってくるから、ニット君は大人しく待っていてね」

 そう声をかけて、私は薪を拾いに行った。




 ニット視点


 アテナ様は、僕を置いてたきぎを拾いに行ってしまった。

 セレスさんと二人っきりだ。

 アテナ様がいないと不安で、どうしたらいいのかわからない。

「心配しなくても大丈夫さ。一応、あのお嬢ちゃんは剣を扱えるようだからねぇ~」

 アテナ様の心配をしていると思われたみたいでセレスさんがそんなことを言ってくる。

「セレスさん…どうやったら強くなれるかな?」

 呟くように僕は、言葉を吐いた。

「強くなりたかったら、強くなるように努力するだけさ。剣を使えるようになりたければ、剣を振るって練習する。魔法が使えるようになりたければ、魔法の練習をすればいいだけさ。まあ、魔法を使うには『魔力』がないと使えないし、センスや魔法との相性が必要になるから、まずは剣の練習をした方がいいとあたいは思うねぇ~」

「だったら、僕は剣を使えるようになりたい」

「突然、どうしたんだい?」

「…いつも…アテナ様に守ってもらってばかりだから…そのたびにアテナ様が危険な目にあっているんだ…だから…僕はアテナ様を守れるように強くなりたい…なれるかな?」

 セレスさんは、僕の言葉にびっくりしたような表情を見せた後、フッと軽く笑みをこぼした。

「いい顔をするじゃないかい。その強い思いがあれば、ボーヤはいつでも強くなれるさ。剣の扱いなら、マックスに教えてもらえばいい」

 セレスさんが指さす先には、イノシシを捕まえて抱えてくるマックスさんの姿があった。

「教えてもらえるの?」

「ああ、ボーヤが本気なら、強くなるために協力してあげるさ」

「おっ…お願いします」

 僕は、マックスさんに向けて頭を下げた。

 歩み寄ってくるマックスさんは、訳が分からないといった顔をしていたけれど、セレスさんが事情を話してくれた。

「女のために強くなりたいか?その意気だ。剣の扱いくらい、俺がいくらでも教えてやる」

 マックスさんは、こころよく引き受けてくれた。

 僕も強くなれるかもしれない。

 こんなに嬉しいことはない。

 あとは、僕がいっぱい努力をするだけだ。

 そうしないと強くなれないんだから。

 僕は、アテナ様のために強くなる決意を心に決めた。

 何があっても諦めない。

 僕が、アテナ様を守るんだ。

 そのために、僕は絶対に強くなる。

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