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剣王戦記  作者: 朧月 氷雨


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外伝2 アマゾネスの村 ④

 薬瓶の描かれた立て看板があるログハウスの前にやってくると、ダージリアさんがドアを開けて中に入っていった。

「ウルティアラ、いるか?」

 お店の人の名前だろうか、声を発していた。

 セレスさんに続いて、私もお店の中に足を踏み入れる。

 店内には壁一面にたくさんの棚があり、その棚の上に色とりどりの液体が入った小瓶が飾られていた。

 窓から差し込む陽光を受けて、小瓶は宝石のように輝いて見えた。

 見る分には綺麗だけれど、どんな薬なのかはわからない。

 棚の一角には、毒々しい色をした液体が入った瓶もあった。

 毒薬とかも売っているのではないかと思ってしまうような色をした液体が入っていた。

「んっ?ダージリアか?何か必要なの?」

 カウンターの奥にある扉が開かれ、三十代くらいと思しき女性が姿を現した。

 銀色の髪を頭の後ろで結んで、馬の尻尾のように垂れ下げている。

 瞳は燃えるような真紅で、まるで宝石のような印象を受けた。

 ビキニっぽいデザインの革の鎧を身に着けている。

 広場にあった石像と似た感じの鎧だった。

 この人もあの石像の人……アマゾネスさんか、その従者の人に対して尊敬の念を抱いているのか、はたまた敬意を表すためなのか、露出の激しい鎧を恥ずかしげもなく着こなしていた。

 まあ、女性しかいない村だから、裸に近しい格好をしていても恥ずかしくはないのかもしれない。

 さすがに私は、あのビキニっぽい鎧を身に着けるのは躊躇ためらってしまうし、恥ずかしすぎる。

「お客さんだ」

 ダージリアさんは、私たちの方を振り返りながら、指さしてきた。

「ああ、村の外からやって来たのね。たま~に買いに来る人がいるけれど、珍しいわね」

 ウルティアラさんは、私とセレスさんを交互に見回しながら物珍し気に眺めてきた。

「美人薬っていうもんは売っているかい?」

 ぶっきらぼうにセレスさんが尋ねる。

「ええ、あるわよ。どれくらいほしいの?」

 尋ねられ、セレスさんは背負っていた背負い袋ナップザックをカウンターの上に下ろすと口を開けた。

 背負い袋ナップザックの中には木箱が入っていて、仕切り板で小瓶がいくつも入れられるように仕切られていた。

 仕切られたそれぞれの空間には、申し訳程度に綿が敷き詰められていた。

 持ち帰るための小瓶が衝撃で割れるのを防ぐために綿を仕込んでいた。

 私も背負っていた背負い袋ナップザックをカウンターに下ろす。

 セレスさんと同じ中身だけれど、私の方の木箱は一回り小さい。

 小瓶を満タンに詰め込めば、かなりの重量になるはず。

 私は自分が持てる分を想定して、少し小さめの木箱にした。

 でも、セレスさんはたくさん持ち帰ろうと考えているようで、大きめの木箱にしていた。

「この二つに入るだけ欲しいんだけれどねぇ~。たくさんあるかい?」

「ええ、あるわよ。もう少し作ったら街へ行って売ろうと考えていたからね」

 ウルティアラさんの返答に私は疑問を感じた。

 街へ行こうとしていたことにも驚いたし、美人薬を街へ持って行って売ろうとしていたことにも驚いた。

「あの~、街に持って行って売るんですか?」

「ええ、そうよ。街の女性たちは、私が作る美人薬には高いお金を出してくれるからね」

 さも当たり前のようにウルティアラさんは答えてきた。

「街には男の人がいるのに行くんですか?」

「ええ、行くわよ。でも、この村ではお金は必要ないわ」

「畑もあるし、家畜もいるし、自給自足でほぼほぼまかなえられるからな」

 ダージリアさんは誇らしげな表情をしていた。

「でも、自給自足ではどうにもできない物で、どうしても手に入れなきゃならない物は、買うしかないじゃない。その時にお金がないと手に入れられないから。あまり行きたくはないけれど、街へ行って少しは稼いでおかないとね」

「医者もこの村にはいないからな。ここの薬でもどうにもできない場合には街に行くしかない」

 う~ん、結局街に頼る必要があるのならば、無理やりにでも女性たちだけで暮らさなくてもいいような気がするのだけれど。

「ちょっと待ちな。街には男がいるだろう?医者が男だったらどうするんだい?」

「女の医者を探す。そして診てもらう」

 ダージリアさんの返答に、セレスさんはやや呆れ顔をしていた。

「そんなわけで、美人薬を購入してくれるなら大歓迎よ。この木箱に両方とも満タンに入れていいの?」

「ああ、入れとくれ」

 セレスさんが答えると、ウルティアラさんは一旦カウンターの奥に行った後、大きな木箱を持ってきた。

 ガシャガシャと瓶が揺れて擦れ合う音が響いた。

 一個一個丁寧に私とセレスさんの仕切られた木箱に移し替えてくれている。

「これが美人薬ですか?どんな効能があるんですか?」

 小瓶の中には、赤い液体がなみなみと入っている。

 まるで血液の様だった。

「お肌に塗れば、黒ずみは消えるし肌の張りも良くなって潤いを保ってくれるわ。飲めば身体の中から毒素を出してくれて、健康も保てるって代物よ」

 ものすごい万能薬のように私には聞こえた。

 これならば、女性にとっては喉から手が出るほど入手したい代物かもしれないけれど、私は今のところ必要はない気がしている。

 肌の張りや潤いと言われても、そんなに気になることはないし、身体の調子も良いので必要性を感じなかった。

 それに何だか、胡散臭うさんくささを感じてしまった。

 あまりにも万能すぎるがゆえに、本当にそんな効果が得られるのか疑問に感じてしまった。

 そう言えば、セレスさんが言っていたっけ?

 信じる人には効果があると……

 この美人薬の効能を信じている人は、ちょっとでも効果があったと感じた人は信じて、再び購入してしまうことだろう。

 そういう人がいるから、商売として成り立つのかもしれない。

 この村でしか作られていないとなれば、それなりに価値は上がるはず。

「こっちの大きい方には六十本入ったわ。小さい方には四十五本ね」

 セレスさんの方は大きい木箱だったので六十本も入ったみたい。

 それを背負う。

「結構、重いもんだねぇ~」

 背負った直後はヨロヨロしていたけれど、セレスさんは抜群のバランス感覚ですぐに慣れてしまったようだった。

 私も背負い袋ナップザックを背負ってみた。

 うっ……重い……

 でも、身動きができないほどではない。

 後ろに引っ張られるような感覚に襲われているけれど、やや前傾姿勢になればなんとかなりそうだった。

「こいつで足りるかい?」

 セレスさんは、購入代金をカウンターに置いた。

 ウルティアラさんは、すぐさまお金を数えていく。

 セレスさんは、あっさりとお金を出していたけれど、私からしたら結構な大金だった。

「ええ、十分よ。街まで売りに行く手間が省けて助かったわ」

 ウルティアラさんは、嬉しそうだった。

 一度にこんなにもたくさん購入する人はいないのだろう。

 それに街へ行って売って帰ってくる手間を考えれば、ウハウハものかもしれない。

「さて、目的のものは手に入れたし、街へ戻ろうかねぇ~」

 セレスさんが、私にそう声を掛けてきた時だった。

「きゃぁぁぁぁ、男よ。男がいるわ」

 女性たちの阿鼻叫喚にも似た悲鳴が店の外から聞こえてきた。

「男?」

 私とセレスさんは、顔を見合わせてしまった。

 嫌な予感がする。

「男だと?どこから入った?」

 ダージリアさんは手にしていた槍を構えながら、勢いよくお店の扉を押し開けると飛び出していった。

 私とセレスさんも後に続くようにお店の外へと飛び出した。


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