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第23話 剣のお稽古

 右を向いても、左を向いても木々と茂みが続いている。

 森の中を抜ける街道を私たちは歩いていた。

 三十匹以上いると思われるゴブリンの群れに先ほど襲われたけれど、Bランク冒険者のセレスさんとマックスさんに助けられながら、私とニット君も戦った。

 けれど、二人は歴戦の強者つわもの

 あれだけ激しい戦いを繰り広げたのに平然としている。

 私は数匹のゴブリンを退治しただけで、若干の疲労を覚えていた。

 けれど、ニット君は『エアブレード』の発する風の刃や風の壁を惜しげもなく使用し、魔力を限界近くまで使い果たしていた。

 ニット君曰く、「全力疾走をした後みたい」な疲労感に襲われ、ほんの少し前まで荒い呼吸をずっと繰り返していた。

 今は、整っていて規則正しい呼吸をしているように見える。

 身体を動かすのが、きついらしい。

 そのため、私はニット君の小さな身体を抱き上げて、抱えながら街道を歩んでいる。

「ボーヤ、少しは落ち着いたかい?」

 先頭を歩く私の背後から、セレスさんが声を掛けた。

「うん…でも、まだ身体がだるいよ…」

 私にしなだれかかりながら、力なく答えている。

「前にも言ったと思うけれど、魔力を急激に大量消費しすぎると最悪の場合は死ぬこともあるって教えたはずなんだけれどねぇ~」

「それは聞いたよ…」

「それなら、何でそんな無茶をするんだい?」

「それは…その…」

 ニット君は、言い淀む。

 一瞬だけれど、私と視線が合うと、慌てて逸らす。

「アテナ様を守りたいから…」

 ゴニョゴニョと小さな声で呟いているけれど、ニット君の口元が私の耳のそばにあるので、私には丸聞こえなんだけれど。

「はぁ~…ボーヤのお嬢ちゃんを守りたいって思いはわかるけれど、今のそんな状態じゃあ守れないだろう?」

 セレスさんは、深い嘆息を漏らす。

 セレスさんとは多少距離が離れているけれど、さっきのニット君がゴニョゴニョ言った言葉が聞こえていたなんて……どれだけ鋭い聴覚をしているんですか?

 かなり、小さな呟きだったと思うんですけれど。

「ボーヤは、エアブレードの力に頼りすぎだねぇ~。このままだと、本当に命を落としかねないよ」

「でも…僕には、これしかないから…」

 ニット君は腰に吊るしている小剣ショートソード……『エアブレード』に手を触れる。

「使うなとは言わないけれど、多用しすぎが問題なんだよ。もう少し臨機応変に対応しないことにはねぇ~…」

「具体的には、どうしたらいいんですか?」

 一方的に責められているニット君が可哀想になり、私は口を挟んだ。

「風の壁に頼りすぎずに、相手の攻撃を避けられるようなら躱す。風の刃も乱発せずに状況をしっかりと見極めて使う様にするとかかねぇ~」

「それって…ニット君自体が強くなる必要があるってことですよね?」

「まあ、そういうことだねぇ~」

「なら、また俺が稽古をつけてやるぞ」

 マックスさんが言う。

「うん…でも、今はちょっと無理かも…」

 ニット君は相当、疲労しているようだった。

「本当に無理はしないでね、ニット君」

 抱き上げているニット君の背を私は優しく擦った。

「あぅ~……」

 申し訳なさそうな小さな呟きが漏れた。


 木々の合間から朝日が差し込んでくる。

 あまりの眩しさに私は目を覚ました。

「おはよう、アテナ様」

 毛布にくるまったニット君を抱きかかえるようにして、私は毛布をかぶって寝ていたので、起き上がった際にニット君を揺さぶって起こしてしまったようだった。

「おはよう、ニット君。体調の方はどう?」

「もう大丈夫だよ」

 疲労感もなくなったようで、笑顔で答えてくれた。

「そう。それなら、良かったわ」

 ギュッと彼の身体を毛布越しに抱きしめた。

 昨日は、ニット君は就寝前までだるそうにしていた。

 しっかりと身体を休めれば、魔力は回復するとセレスさんに言われ、昨日は早めに寝たのだった。

「二人とも起きたかい?朝飯にしようかねぇ~」

 セレスさんもマックスさんもすでに起きていたようで、起き上がった私たちに声を掛けてきてくれた。

 私とニット君は、挨拶をして朝食をとった。

 朝食は、干し肉と竹筒に入った水だけだった。

 それでも、干し肉はしゃぶりついていると旨味が溶けだしてくる。

 硬くてなかなか噛み千切ることができないくらいだけれど、時間をかけてかじれば徐々に柔らかくなって食べられる。

 保存がきくように水分が飛ばされているので硬いということもあるけれど、何度も咀嚼そしゃくすることで満腹中枢というものを刺激して少ない量でも満足感を感じられるように作られているらしい。

 そういうものだとは、今まで知らなかった。

 だから、小さな干し肉を2~3枚程度食べただけでお腹がいっぱいになったような気がしていたみたい。

 食事を終えた後。

「ボーズ、元気になったのなら、出発前に稽古をつけてやるぞ」

 マックスさんは立ち上がると、背中に背負った大剣グレイトソードを引き抜いた。

「うん」

 ニット君も立ち上がると腰の鞘から小剣ショートソードを抜き放った。

「いつでもいいぞ。どんどん打ち込んで来い」

「じゃあ、行くよ。マックスさん」

 ニット君は『エアブレード』を構えると一直線にマックスさんに向かって行く。

 上段から一気に振り下ろす。

 マックスさんは『ドラゴンバスター』であっさりと受け止める。

 ニット君は、連続で剣を叩きこむ。

 けれど、マックスさんの剣に簡単にあしらわれてしまう。

「どうした?もっと力強く打ち込んで来い」

 マックスさんに言われ、ニット君は力を込めて剣を振るう。

 ニット君とマックスさんの背丈の差は、三倍ほどある。

 また、筋肉質なマックスさんの身体と比べると、ニット君の身体はとても小さく貧弱としか言いようがなかった。

 どれだけ力いっぱい打ち込んでも、マックスさんはびくともしなかった。

「ニット君は、もっと体力や筋力をつけた方がいいんでしょうか?」

 二人の剣のお稽古を眺めながら、私はセレスさんに尋ねていた。

「その方がいいねぇ~。ボーヤの体格はかなり小さいからねぇ~。少しでも体力や筋力はあったほうがいいねぇ~」

「でも、ニット君に必要なのは魔力の方じゃないんですか?魔力を増やす方法ってあるんですか?」

「う~ん…魔力を増やすか…」

 セレスさんは、腕組みをしつつ思い悩んでしまった。

「魔力ってもんは、その人が持っている天賦てんぷの才みたいなもんだからねぇ~…元々持ち合わせている魔力を増やすってのは無理じゃないかねぇ~。あたいみたいに魔法の装具…このブレスレットやアンクレット、短剣もだけれど、こういった魔法の威力を増幅してくれるアイテムに頼るのが手っ取り早いけれど…」

 セレスさんの腕には小さな魔法石がいくつか埋め込まれた腕輪ブレスレットめられている。

 ブーツの上からも足首辺りに似た感じの魔法石が埋め込まれたリングが装着されている。

 この魔法石がセレスさんの魔法の威力を増幅してくれているらしい。

「あたいの場合は少ない魔力消費で、強大な威力の魔法を扱うためにこういったものを身に着けているんだよ」

 太ももにくくり付けられている鞘から刀身が白と黒の短剣ダガーをセレスさんは引き抜く。

 その短剣ダガー……『白銀しろがねやいば』と『黒鉄くろがねの刃』の刀身にも魔法石がいくつか埋め込まれていた。

「じゃあ、ニット君もそういったアイテムを入手すれば、魔力の消費が抑えられるかもしれないってことですか?」

「簡単に手に入れられはしないけれどねぇ~。店で購入するって方法もあるけれど…」

「お店で買えるんですか?」

「滅多に見かけないけれど、買うことはできるよ。でも、あたいでもなかなか手の出せる金額じゃないからねぇ~。さすがに、購入する方法は無理だろうねぇ~」

 Bランク冒険者のセレスさんの稼ぎは、Dランクの私とニット君の何十倍もあるのに、それでも購入するのを躊躇ためらうくらいって…一体どのくらいの金額なんだろうと考えてしまう。

「やっぱり、現実的には地道に修行して強くなるしかないねぇ~。戦況を見極める目を磨き、臨機応変に対応できる対応力も必要だし、剣の腕前もそれなりになれば『エアブレード』の力に頼ることも少なくなるだろうねぇ~。そうすれば、魔力の消費も抑えられるだろうけれど…」

 セレスさんは呟いている途中で、何かを考えている様子で言葉が途切れた。

「あとは…ボーヤの潜在的な魔力がどの程度あるかだねぇ~」

「潜在的な魔力?」

 私は首を傾げた。

「ボーヤの中にある魔力で、眠っている魔力があればの話だよ。今のボーヤが扱っている魔力が持ち合わせている魔力の半分程度なら、残りの半分は何かしらの制限を受けて使われていない場合があるのさ。その残りを解放することができれば、魔力が増えるともいえるけれど…まあ、これは何とも言えないねぇ~」

「解放してあげることは、できないんですか?」

「眠っている魔力があるかもわからないし、確認する方法がないからねぇ~。どうやって解放してやればいいかもわからないよ。あたい自身だって、どれだけの魔力を持っているかはわからない。けれど、今まで魔法を使ってきて、これ以上はやばいという状態を何度も経験してきた結果が、こいつらに頼るって形になっているからねぇ~」

 セレスさんは、手にしていた『白銀の刃』を私に見せてくる。

 自分の魔力の限界を見極め、少ない魔力消費で威力を高める戦い方をセレスさんは選択したってことよね。

 ニット君にも自分なりの戦い方をしてもらうしかないのかもしれない。

 けれど、今の彼は『エアブレード』の力に頼っていくしかないのが現状だ。

 身体が小さく、腕力も弱い彼には『エアブレード』がもたらす力は大きい。

 それに頼ってしまうのは仕方ないと思うけれど、命の危険を冒してまで無茶をするのはやめてほしいと私は切に願う。

 それが私のためだとするならばなおさらだった。

 私のせいでニット君が命を落とすようなことになったら、私は耐えられない。

 私自身も強くなり、ニット君に無茶をさせないようにするしかないと思った。

「お嬢ちゃん、剣を抜きな」

 突然、セレスさんがそんなことを言ってきた。

「はい?」

 私は訳が分からず、首を傾げた。

「今のお嬢ちゃんが、どの程度の強さかあたいが見てやるよ」

 セレスさんは、逆手さかてに二本の短剣ダガー……『白銀の刃』と『黒鉄の刃』を持って構えた。

「お嬢ちゃんが強くなれば、ボーヤの負担も減ると思うからねぇ~」

 セレスさんも私と同じことを考えていたみたい。

 そう言えば、今まで女性と剣を交えたことはなかった。

 男性と戦ってばかりで、いつも力負けをしていた。

 相手が同じ女性ならば、それも魔法をメインに使っているセレスさんが相手ならば、腕力は互角くらいかもしれない。

 せっかくの機会だし、「お願いします」と応え、金色の柄に手をかけて鞘から白銀にきらめく剣を抜き放った。

 陽の光を受けて、キラリと刀身が輝きを放つ。

 『剣と慈愛の女神ブレーディア』が生み出したといわれている『聖剣エクスカリバー』は何百年も経っているのに刃こぼれ一つしていない。

 そして、その輝きと美しさも衰えてはいない。

「いつでもいいよ。手加減してあげるから、好きなだけ打ち込んできな」

「行きます」

 私は声を上げるとセレスさんに向かって行く。

 まずは先制の上段からの攻撃をしてみる。

 大きく振りかぶって力いっぱい叩きつけていく。

 セレスさんは、短剣ダガー十字クロスさせて受け止める。

 渾身の力を込めて打ち込んだけれど、受け止められてしまった。

 それだけではなく、押し返された。

 たたらを踏んで、数歩後退する。

 すぐに体勢を立て直して、左上から袈裟懸けに振り下ろす。

 真上からは受け止められてしまったけれど、斜め上からの攻撃は受け止められないはず。

 セレスさんは、『聖剣エクスカリバー』の刀身を短剣ダガーの腹で無理に受け止めずに受け流す。

 やや体勢を崩しながらも、私は踏ん張りながら右から左へと横薙ぎに振るう。

 セレスさんの反応は早い。

 バックステップで距離を取り、あっさりと躱されてしまった。

 すぐさま剣をひるがえして、左から横へと薙ぐ。

 『白銀の刃』の刀身とぶつかり合い、弾かれた。

 私は踏ん張って踏み止まり、袈裟懸けに斬り下ろす。

 セレスさんは身をひるがえして、一瞬にして私の首元に短剣ダガーを突き付けた。

「一回…」

 小さな呟きが聞こえた。

 すぐにセレスさんは距離を取り、かかって来なと手招きをしていた。

「やあっ!」

 気合とともに私は距離を詰める。

 同じ女性なんだから、力押しで攻めることにした。

 多少大振りだけれど、力いっぱいに振り下ろす。

 ガキン!

 硬質な音が響き渡り、セレスさんは二本の短剣ダガーで受け止めて見せた。

「!?」

 先ほどと同じように押し返された。

 どうして?

 セレスさんの身体は細い。

 出ているところは出て、その存在を強調している色っぽいスタイルをしている。

 どう見てもパワータイプには見えない。

 でも、力で押し負けている。

 私は横から水平に剣を薙ぐ。

 軸を逸らして紙一重で躱された。

 それならばと、すぐさま返す刀でさらに横へ薙ぐ。

 まるで予想していたかのように、身を屈めるようにしてセレスさんがその一撃を躱し、一瞬にして私の腹部に短剣ダガーを突き付けた。

「これで二回」

 小さな呟きが聞こえる。

 セレスさんは、すぐさま私から離れると距離を取った。

 それを追いかけるように私は追撃する。

 三度目の正直と、上段から振り下ろした。

 私の剣は大地を叩く。

「これで三回だよ」

 いつの間にかセレスさんは、私の背後に回り込んでいて、首筋に短剣ダガーを突き付けていた。

 ゴクリと生唾を飲み込む。

 私は動けなかった。

「一旦、ここまでにしようかねぇ~」

 セレスさんは、私の首筋に突き付けている短剣ダガーを離して、一息吐いた。

 私も地面に減り込んだ刀身を引き抜いた。

「お嬢ちゃんは、すでに三回は死んでいるよ」

 セレスさんの言葉に、私は絶句する。

 力で押し負け、全く歯が立たないことは実感できた。

「それにお嬢ちゃんの戦い方はワンパターンすぎてねぇ~…」

「ワンパターンってどういうことですか?」

「気づいていないのかい?」

「はい…」と答えるしかない。

 何がワンパターンだったのかわからない。

「それなら、お嬢ちゃんの戦い方を再現してあげるから、しっかりと受け止めな」

 セレスさんは、短剣を構える。

「え?あの…」

 困惑する私に「手加減をして打ち込むから、受け止めてみな」と言ってセレスさんは斬りかかって来た。

 順手じゅんてに持ち替えた短剣ダガーが上段から振り下ろされてくる。

 私は『聖剣エクスカリバー』の刀身を横にして受け止める。

 押し返すよりも早く、セレスさんは身を引き、すぐさま斜め上から斬りかかってくる。

 これも刀身で受ける。 

 セレスさんは、私が受け止めるや否や距離を取る。

 次いで横から斬り込んできた。

 これも受け止めることはできたが、すぐに逆から横薙ぎの一撃が飛んでくる。

 セレスさんが本気だったら私は避けること、いえ、反応することさえできずに致命傷を負っていたことだと思う。

 身体をひねって、何とかかわした。

 縦横無尽に攻撃が飛んでくる。

 でも、セレスさんが手加減をしてくれているから反応できているだけだ。

 何とか躱したり受け止めたりできている。

 何度目かの攻撃だったかはわからないけれど、私の身体は勝手に反応していた。

 上からの攻撃が来ると思い、剣を横にして振り上げていた。

 そこへセレスさんの短剣ダガーが振り下ろされてくる。

 受け止めることができたけれど、すぐにセレスさんは次の攻撃に移ってくる。

 腹部を狙っての攻撃だ。

 横薙ぎに来る。

 私は対応するべく剣をおどらせた。

 しっかりと受け止めることができた。

 でも、反対側から攻撃が来る。

 なんとなくだけれど、セレスさんの攻撃が分かるようになってきた気がした。

 その後も数度撃ち込まれる攻撃を私は事前に剣を振るって受け止めていた。

 まるで未来の動きが予測できたようなそんな気がしていた。

「何か気づいたことはあるかい?」

 攻撃の手をやめて、セレスさんが声を掛けてきた。

「何だか、セレスさんの攻撃が急に手に取るようにわかるようになりました。どうしてなんでしょう?」

「くっくっくっくっ…」

 忍び笑いを漏らしながら、私に視線を向けてくる。

「まさかとは思うけれど、あたいの剣筋を予測できたと思っているんじゃないよねぇ~?」

 セレスさんに言われて、ドキッとした。

 まさにその通りだった。

「図星のようだねぇ~。さっき、あたいはお嬢ちゃんにワンパターンって言ったのを覚えているかい?」

「はい、そう言われましたね」

「あたいはワンパターンな攻撃を繰り返していただけさ。だから、次にどんな攻撃が来るか予想ができただけだよ」

 同じ攻撃を繰り返していたってこと?

 そう言えば、思い返すとそんな気がしてきた。

 上段からの攻撃の後、横なぎの攻撃が左右から来る。

 それの繰り返しのような気がしてきた。

「歴戦の戦士や凄腕の剣士相手じゃあ、今のお嬢ちゃんの戦い方じゃあ話にならないねぇ~。相手に同じ攻撃が来ると思わせて違う攻撃を繰り出すって考えならば多少有効なこともあるけれど、あまりにもワンパターンすぎて全然だめだよ」

 はっきりと言われてしまった。

 まさか、自分がそんな戦い方をしていたなんて思いもしなかった。

 今までは、相手が油断していたり、私のことを見くびっていたおかげで何とかなっていただけかもしれない。

「もう少し攻撃のバリエーションを増やしたり、相手に次の一手を予測させないような戦い方をしないと、このままだと命を落とすことにもなりかねないねぇ~」

 セレスさんに言われてようやく気が付くなんて……でも、自分の悪い部分を知ることができたのは良い事だった。

 自分では全くと言っていいほど気づいていなかったことだから。

 攻撃のバリエーションを増やすといわれてもどうすればいいのかしら。

 相手に予測されないような攻撃か……と思った時、この間のことが思い起こされた。

 盗賊を討伐した後、貴族の私設騎士と戦った時のことを。

「あの…セレスさん。一つ試してみたいことがあるんですけれど、いいですか?」

「んっ?なんだい?」

 私は右手に『聖剣エクスカリバー』を握ったまま踊り始める。

 セレスさんは、怪訝な顔をしたまま私のことを見ている。

 踊りながら剣を振るい、不意を突いてセレスさんに攻撃を仕掛ける。

 上半身を逸らして、私の放った一撃を躱す。

 そのまま、攻撃を続けるけれど、セレスさんには全く通じなかった。

 反応速度が速い。

 私が攻撃のモーションに入ると同時にその攻撃軌道を予測して躱しているような感じがした。

 踊りながら攻撃する。

 これであれば動きを予測されないはずだけれど、セレスさんには全くと言っていいほど通用しなかった。

「お嬢ちゃん、ちょっと待ちな」

 繰り出した一撃を短剣ダガーで受け止めてセレスさんは声を上げた。

 私は動きを止め、剣を下ろす。

「はぁ~…確かに、いきなり踊りながら攻撃されたら戸惑う奴がいるかもしれないけれど、不意を突くぐらいしか効果はないだろうねぇ~」

 大きな溜め息を吐きながらセレスさんは言った。

「この間の私設騎士の人……には、これで何とかなったんですけれど……」

「ああ……それは、重武装の鎧兜にバカでかい盾を持っていたってのもあるし、相手のレベルが低かったって言うのもあるかもしれないけれど、その戦い方はお勧めはできないねぇ~」

「何がダメなんですか?」

「命を懸けた斬り合いで、のんきに踊ってなんかいたら、そりゃやられちまうだろう?お嬢ちゃんはもっと変化にとんだ攻撃の仕方を学ぶことと実戦経験を積むことが必要な気がするねぇ~」

「実戦経験ですか?」

 そう言われても盗賊などの悪い人とそう簡単に遭遇するものではないし、どうしたらいいのかしら?

「冒険者ギルドがあるだろう?ゴブリン退治でも構わないから、引き受けて戦い方を実践で学んでいくのが手っ取り早いと思うんだよねぇ~」

 なるほど、そういうやり方があるとは考えもしなかった。

 せっかく冒険者になったのだから、活用しない手はない。

 依頼を達成させれば報奨金ももらえるし、実戦経験も積めるので一石二鳥だ。

「次の街に辿り着いたら、何か依頼を受けてみようじゃないかい。それで学んで行けばいいと思うけれどねぇ~」

 これでおしまいとばかりに、セレスさんは手にしていた二本の短剣ダガーを太ももにくくり付けていた鞘に戻していた。

 私も手にしていた『聖剣エクスカリバー』を鞘に納めた。

 ニット君とマックスさんは、まだ剣のお稽古をしているようだった。

 彼も頑張っている。

 それも私のために。

 嬉しいことだけれど、ちょっぴり恥ずかしい気持ちもある。

 出来ることなら、ニット君と一緒に強くなろうと思う。

 お互いに強くなれば、守り合うことができる。

 でも、私の方が年上だから、ニット君には負けられないという強い思いはある。

 ちょっとだけ汗をかいた身体を撫でるように吹き抜けていく風が気持ちよかった。

 もっと強くなりたい。

 自分に暗示をかけるように私は心の中で何度も呟き、マックスさんと剣のお稽古をしているニット君のことを見つめながら見守った。

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