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第2話 奴隷の少年

「何だい?これは?びくともしやしない…」

 20代前半くらいの黒髪のショートヘアーに鉢巻はちまきのようなものを巻いた色っぽい女性は悪態をついた。

 つややかなショートヘアーを激しく振り乱しながら地面に刺さった剣…『聖剣エクスカリバー』を引き抜こうとしていたけれど、抜ける気配はない。

 体にぴったりとフィットした黒光りする洋服は、彼女の豊かな胸を強調し、スタイルの良いボディラインを浮き彫りにしていた。

「何やってるんだ、セレス。俺に任せろ」

 今度は、20代後半と思われる熊のように大きな体格の男性が『聖剣エクスカリバー』の柄に手をかけて、一気に力をめる。

 エクスカリバーは、ピクリとも動かない。

 背中に大きな大剣を背負っているので、この男の人が剣士だということはわかる。

 短い茶髪に少し彫りの深い特徴的な顔立ちの男性は、大きな体格だけあってかなり鍛え上げられた体つきをしていた。

 腕や足の筋肉が膨れ上がっていて、力はありそうだった。

 そんな人でも、どうやっても、どんなに力を込めても『聖剣エクスカリバー』はピクリとも動かなかった。

「セレス…ダメだ…全く抜ける気がしない」

「マックスの力をもってしてもびくともしないなんて…一体どうなってんだい?」

 この男女は、かわるがわる剣を引き抜こうとして頑張ったがどうにもならず、ついにはあきらめたようだ。

「この剣を持ち上げて引き抜けたら差し上げますと言いましたけれど、抜けないようなので諦めてください」

 私は、いとも簡単に地面に軽く突き刺した『聖剣エクスカリバー』を軽々と引き抜いた。

 この男女の二人組は、キツネにままれたような表情をしながら、不思議そうに私のことを見ていた。

 鞘に納めると、私はそそくさとその場から立ち去った。

 エクスカリバーを引き抜くことができなかった男女の二人組は、立ち去る私を呆然と見つめていた。


 私は、アテナ。

 アテナ・アテレーデ。

 18歳の女の子。

 たまたま立ち寄った聖剣の街ブレーディアという街で、偶然にも『剣と慈愛の女神ブレーディア』が所有していたといわれる『聖剣エクスカリバー』を手に入れてしまった。

 『剣と慈愛の女神ブレーディア』は、数百年前に魔人の大群と戦い命を落としたと言われている女神様で、この世界の創造主でもあるとされている人物である。

 そんな女神様が使用していた聖剣なので、様々な人が欲しがっている。

 高値で売りさばこうと考えている商人。

 自分の力の証明として所有したいと切望する騎士。

 女神を崇拝し、妄信する女神崇拝信者。

 希少価値の高いものを手に入れたいと欲するトレジャーハンター。

 などなどの数えきれないほどの人が、私にまとわりついてくる。

 そのたびに、私は逃げるか、引き抜くことができたら渡すという条件で試してもらい、抜けなかったら諦めてもらっていた。

 さっきも女性と男性の二人組にエクスカリバーを譲ってほしいと言われたので、引き抜くことができたら渡すという条件で抜けるか試してもらったが、びくともしなかったので諦めてもらった。

 こんな日々を過ごすくらいならと、聖剣を谷底に投げ捨てたこともあったけれど、ある程度の距離を離れると自然と私のそばに戻ってきていた。

 何度も投げ捨てたけれども、結果は同じ。

 必ず、私の元へと戻ってきていた。

 この剣は、呪われているのかしら?

 女神様が使用していたはずの聖剣なのだけれど、私にとっては不幸を呼び寄せるアンラッキーアイテムとしか言いようがないものだった。

 私は、街道を足早に進み、ドレンファスの街というところに辿り着いた。

 このドレンファスの街は、街を二分割するように大きな川があり、左右の街はそれぞれ複数の橋によって行き来ができるようになっている一風変わった街だった。

 川沿いには船が複数あり、商船なのか荷物を積んだりしているのが見える。

 橋の向こうの街に荷物を届けるわけではないはず。

 橋があるんだから、わざわざ船を使わなくてもいいと思うんだけど…やっぱりそうだ。

 船は、川下の方に進んでいく。

 恐らく川下にある別の街へと荷物を運ぶための船みたい。

 私は、川沿いの大通りを歩く。

 大通りなら人目に付きやすいので、ちょっかいをかけてくる人は滅多にいない。

 宿屋を探しながら、川をゆっくりと流れていく船を眺めていると、ジャラジャラと何か金属を引きずるような音がかすかに耳に入ってくる。

「何の音かしら?」

 気になり、周囲を見渡すけれど、音の発生源は見当たらない。

 でも、ジャラジャラと音は大きくなり、近づいてきているのは間違いない。

 幻聴でも聞こえているのかしら?

 そんなことを思っていると、わき道から何かが突然、飛び出してきた。

 ドシン!

 私は、お尻をしたたかに打ち、尻もちをついた。

 その私の上におおいかぶさるように何かがいる。

「子供?」

 やや日に焼けてなのか、生まれつきなのかわからないけれど浅黒い肌の男の子が、私とぶつかった衝撃で目を回していた。

「大丈夫?」

 私は、優しく抱き起してあげると声をかける。

 この男の子の右足には鋼鉄製の足枷あしかせがあり、1メートルくらいの鎖が繋がっていた。

 錆びだらけの鎖。

 これを引きずっていたから、ジャラジャラと聞こえていたみたい。

 浅黒い肌の男の子は、7~8歳くらいかな?

 小柄でかなりやせ細っている。

 ボサボサの黒髪を腰のあたりまで無造作に長く伸ばしていた。

 服は着ておらず、腰にぼろ布を申し訳程度に巻いているだけだった。

「君、怪我はない?」

 身体を揺さぶると、男の子は正気を取り戻したみたい。

 私と目が合うと、あわあわと何かをしゃべろうとしていたみたいだけれど、言葉が出てこないみたい。

 ブルブルと異常なくらい身体を振るわせて何やら怯えている。

 私は、ぶつかったことに怒っているわけではないので、そんなに怖がらなくてもいいのに。

 と、思っていると、この男の子がやってきた方角から、小太りの男とやせ細った男の人が声を張り上げながらやってくるのが見えた。

「待て、この奴隷小僧」

 小太りの男が、そう叫んだのが聞こえた。

 奴隷小僧?

 この男の子は、あの男の奴隷なの?

 かなり怖い目にあったのか、私に無意識にしがみつきながら全身をふるわせて怯えている。

「君は、あの人の奴隷なの?」

 少年は、何も答えない。

 怯えて震えるだけだった。

「ここは、私に任せて。君は逃げなさい。もう、怖い思いをする必要はないわ。早く逃げて」

 私は、男の子の頬を優しく撫でてあげると、彼の身体の震えは治まり、私の目をじっと見つめてきた。

 黒い大きな瞳が印象的な可愛らしい男の子の怯えていた表情が少し和らいだように感じた。

「逃がしてくれるの?」

 小さくか細い声が漏れる。

「そうよ。早く行きなさい」

 私は、彼の背中を半ば強引に押して走るようにうながした。

 男の子は、私の方を振り返りながら、走っていった。

 何度も振り返っているけれど、走るのはやめない。

 そう、そのまま逃げて、逃げ延びるのよ。

 私は、心の中でそう思いながら、走り去る男の子を見送った。

 そんな私の前に、小太りの男とやせ細った男がやって来た。

「なぜあのガキを逃がした」

「私には関係がないもの」

 きっぱりと言い切る。

「俺たちが、あのガキを捕まえておけと叫んだのが聞こえなかったのか?」

「聞こえてはいません。それに私が、あなたたちの指示に従う必要もないし」

 男たちは、大きな声を張り上げて威嚇してくる。

 私も負けないように言い返す。

「この小娘が、生意気な」

 小太りの男は、手にしていた乗馬用の鞭を私に向かって振り下ろしてきた。

 バシッと音を立てて、私の頬を打つ。

「きゃあ!」

 痛みに悲鳴を上げた。

 私は、その場にうずくまってしまう。

「モゲロット様、あんなガキよりも、この女を奴隷として売ったらどうです?」

 やせ細った男が、小太りの男…モゲロットと呼ばれた人にそんなことを言った。

「それは良い、ガキよりも女の方が高く売れるからな」

 小太りの男モゲロットは、いやらしい笑みを浮かべると、手にした鞭で2~3回私を打った。

 私は、鞭の痛みに耐えきれず、気を失ってしまった。




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