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第14話ー2 ニットの決意 (ニットの視点編)

 アテナ様に起こされて、僕は目を覚ました。

「おはよう…アテナ様…」

 眠い目を擦りながら、僕の顔を覗き込んでいた女神アテナ様に挨拶をした。

 お肉の焼ける良い匂いがして、寝ぼけていた僕の意識はだんだんとはっきりとしていった。

 毛布を片付けて、朝ご飯をアテナ様と一緒に食べる。

 お肉って食べ物は、美味しい。

 毎日食べたいけれど、食べ過ぎたら飽きてしまいそうな気もする。

 しっかりと朝ご飯を食べると、僕たちは街道を歩きだす。

 この街道の先にセンティアーノの街っていうのがあるらしい。

 僕たちは、そこへ向かっている。

 アテナ様と手を繋ぎながら、先頭を歩くセレスさんとマックスさんの後についていく。

 木々がなくなって、岩壁に囲まれた岩山を僕たちは登って行った。

 登りの山道は大変だけど、置いていかれないように必死に僕は付いて行く。

 アテナ様は、僕のことを気にしながら歩いてくれる。

 足元が危険な時は「気を付けてね」と声をかけてくれるし、僕の歩みが遅い場合には「ゆっくりでいいわよ」と言いながら、待っていてくれる。

 追いつくと、手を握って一緒に歩いてもくれた。

「疲れていない?大丈夫?」

 僕に向かって微笑みながら尋ねてくれる。

 アテナ様の優しい笑みは、僕に勇気と安心を与えてくれる。

 こんなに優しくしてくれる人は、僕は初めてだった。

 だから、僕はアテナ様のことが大好きだ。

 アテナ様とずっと一緒にいたい。

 だから、僕は頑張って歩く。

 アテナ様の足手まといにならないように必死についていく。

 頑張って山道を歩いていると岩壁に挟まれていた視界が一気に広く開けた。

 大きい岩が所々に鎮座ちんざしている。

 その岩陰から、何人もの人がワラワラと姿を現した。

 その人たちは、僕たちにお金や武器を置いて行けと言っていた。

 どの人も悪い人だと一目でわかった。

 悪人の顔をしている。

 汚い革の鎧を身に着けていて小剣ショートソード長剣ロングソードを手にしていた。

「山賊かい?」

 セレスさんが、10人以上いる男の人たちに尋ねていた。

「そうだ。素直になれば痛い思いをしなくて済むぜ」

 リーダーっぽい小太りの男の人が長剣ロングソードを振り回している。

 セレスさんは、太ももの鞘から短剣ダガーを引き抜くと、その短剣ダガーの刀身に風の魔法をまとわりつかせていた。

 セレスさんの短剣ダガーは、魔法の威力を増幅することができるらしい。

「手加減してやるつもりはないねぇ~」

 短剣ダガーを振るうと、扇型おうぎがたをした風の刃が飛び出して山賊の一人を切り裂いた。

 その人は、倒れて動かなくなった。

 山賊たちが、一斉いっせいに襲い掛かってくる。

 地を蹴り飛び出したマックスさんの大きな剣が二人の山賊を横に跳ね飛ばす。

 倒れた山賊はすぐに起き上がって、そばにいた僕とアテナ様に向かってきた。

「小娘とガキか」

「ガキはいらねえから殺しちまえ。女は殺すなよ」

 二人の山賊は、僕とアテナ様を見てそんなことを言っていた。

「アテナ様は、僕が守る」

 僕は小剣ショートソードを振り回して山賊の一人に襲い掛かった。

 相手に攻撃するいとまを与えないために、連続で絶え間なく剣を振り回す。

 だけど、右に左に簡単に躱されてしまう。

 ゴブリン相手の時は、これで何とかなったのに、全く当たらない。

 何度、剣を振っても躱されてしまう。

「そら!」

 山賊が気合を込めて剣を叩きつけてくる。

 僕は、とっさに剣を横にして受け止めた。

 でも、力が違いすぎた。

 受け止めきれず、後ろに吹っ飛ばされて尻もちをついてしまった。

 ゴブリンの攻撃は受け止めることができたのに、全く受け止めることができなかった。

 マックスさんに剣の稽古をしてもらっているけれど、もっと筋力や体力をつけないと戦えないと感じた。

 今の僕は、弱すぎる。

「ガキと遊んでも面白くねえんだよ」

 山賊は、僕のお腹を蹴り飛ばした。

 吹っ飛ばされて地面の上をゴロゴロと転がる。

 悔しいけれど、今の僕の力じゃ、全く歯が立たない。

 せめて、この僕が手にしている小剣ショートソードに刃さえあれば、チャンスを見つけてやり返せるのに。

 蹴られたお腹が痛いけれど、我慢して僕は起き上がろうとした。

 山賊に向けた視線の先では、アテナ様も山賊の男と戦っているけれど、苦戦しているみたいだ。

 攻撃できなくて、防戦一方だった。

 何とかしなくっちゃ。

 セレスさんとマックスさんは、複数の山賊と戦っている。

 戦いなれているから、一人一人確実に倒している。

「何だ?その剣は?おもちゃか?刃もない剣で俺を殺そやろうってのか?やってみろよ」

 僕がしっかりと握っていた小剣ショートソードを覗き込みながら、山賊は馬鹿にしてきた。

 セレスさんが僕のためにプレゼントしてくれた大事な剣だ。

 プレゼントしてもらって、すごく嬉しかった。

 刃がなくて、切れないことにガッカリはしたけれど、僕のためにくれた剣だ。

 馬鹿にされて、すごく悔しかった。

「この剣で切れれば…あんな奴…やっつけられるのに…」

 僕は、小さな声で呟いていた。

 その呟きに応えるように、声が聞こえた。

「ジャア…チカラヲカシテアゲル…」

 空耳のようにも思ったけれど、僕には確かに聞こえた気がした。

 それも耳の奥で。

 辺りを見渡すけれど、誰もいない。

 女の子の声のような感じだった。

「誰?」

 尋ねても返事は返ってこない。

 不思議に思いながらも立ち上がる。

「アノヒトニムカッテ…ケンヲフルッテ…」

 僕の目の前にいる山賊…僕の小剣ショートソードを馬鹿にした男をめつける。

「剣を振ればいいんだね?」

 僕は、訳も分からずに小剣ショートソードを気合とともに横一文字に振り回した。

 まばたきした瞬間。

 山賊のお腹から血が噴き出した。

 僕の小剣ショートソードが届く距離じゃない。

 山賊とは、かなり離れている。

 だから、僕の小剣ショートソードは触れていないはずなのに、山賊は血まみれの状態で倒れていった。

 訳が分からなかった。

 けれど。

「切れた…本当に切れた!すごいや!」

 驚きとともに嬉しさが、こみあげてきた。

「モウイチド…」

 女の子の声が聞こえる。

「とりゃぁぁぁぁぁぁ」

 同じように剣を振るった。

 やや離れた山賊に向かって、僕の小剣ショートソードの刀身から三日月型の刃のようなものが飛び出した。

 驚き戸惑っている山賊に命中すると革の鎧ごと山賊を切り倒した。

「何をしやがった。このガキ」

 アテナ様と剣で打ち合っていた山賊が、僕に向かって突っ込んできた。

 僕はもう一度、小剣ショートソードを振るう。

 刀身から三日月型の風の刃が飛び出した。

 それは山賊の右肩から左わき腹にかけてを切り裂いていた。

 山賊は、その場に倒れて動かない。

「この剣…すごいや」

 僕は嬉しくなって、小剣ショートソードを大切に抱きしめていた。

「なんだかわからないけれど、ニット君、すごいじゃない」

 アテナ様が驚きながらも、興奮したように叫んでいた。

 だから、調子に乗ってしまった。

「どんどん行くよ」

 セレスさんとマックスさんが戦っていた山賊たちに向けて次々に剣を振るった。

 剣を振るたびに、刀身から三日月型をした風の刃が飛び出していく。

 それは次々に山賊を切り伏せて、倒していく。

「はあ…はあ…」

 なんだかちょっと息苦しい感じがする。

 身体が重たいような、疲れたような感じだった。

 剣を振り回しすぎて疲れたのかもしれない。

 息切れしてしまい、呼吸を整えていると「きゃあ!」とアテナ様の声が耳に飛び込んできた。

 振り向くと、アテナ様の後ろから、小太りの山賊のリーダーが腕を首に巻き付けるようにして羽交い絞めにしていた。

 剣をアテナ様の首元に突き付けている。

「変な動きを見せたら、この女を殺すぞ」

 リーダーの男は、大きな声を張り上げた。

 山賊の男たちは、ほとんどを倒した。

 残るは、アテナ様を人質に取っている奴だけだ。

「武器を捨てろ」

 アテナ様を人質に取られては手も足も出せない。

 マックスさんは、手にしていた巨大な剣ドラゴンバスターを足元に投げ捨てた。

 セレスさんも両手に持っていた短剣ダガーを地面に投げた。

 この状況じゃ、どうすることもできない。

 アテナ様を助けなきゃ。

 でも、助ける方法がない。

 気持ちばかりが焦る。

「アノヒトヲタスケタイノ?」

 また、女の子の声が聞こえる。

「助けたい。アテナ様を助けたいよ。でも、今の僕には何もできない」

「ダイジョウブ…アノヒトニムカッテ…ケンヲフルッテ…」

「できないよ」

「ワタシヲ…シンジテ…ケンヲフルッテ…」

 僕は、耳の奥に聞こえてくる女の子の声と会話をしていた。

 姿は見えないし、幻聴かもしれない。

 でも。

 この声は…信じてもいいのかな?

「早くしないか、クソガキ」

 リーダーの男は、イラついた声を張り上げて、剣を大きく振り上げていた。

 アテナ様に向かって、その剣が振り下ろされる。

「やめろぉぉぉぉぉぉ」

 僕は、反射的に叫ぶと同時に剣を横なぎに振るっていた。

 小剣ショートソードの刀身から三日月型の風の刃が飛び出した。

 それはアテナ様に向かって一直線に飛んでいく。

 それを見た瞬間、僕は青ざめた。

 山賊を何人も切り殺したものがアテナ様に向かって飛んでいく。

 待って。

 行かないで。

 その人を…アテナ様を僕から奪わないで。

 僕は手を伸ばして風の刃を掴もうとするけれど届くはずがない。

 風の刃は、アテナ様のお腹に吸い込まれていった。

「ああ…」

 僕は、なんてことをしてしまったんだ。

 後悔とともに、大切なもの失った恐怖で、声を張り上げていた。

「アテナ様ぁぁぁぁぁ」

 僕は駆け出す。

 手を伸ばし、走る。

 アテナ様は、山賊の男とともに仰向けに倒れていく。

 真っ赤な血が霧のように舞い、僕に逃れようのない絶望を突き付けてくる。

 目の前がかすむ。

 涙が溢れて止まらない。

「アテナ様ぁ~」

 仰向けに倒れたアテナ様のそばに駆け寄って声をかける。

 僕の目からあふれる雫がアテナ様の頬を次々に濡らしていく。

 アテナ様の右手が僕の頬を優しく撫でる。

 ごめんなさい。

 僕は謝ろうとしたけれど、声が出なかった。

 後悔と絶望に押し潰されそうになりながら、微かに微笑んでいるアテナ様を見つめることしかできなかった。

 アテナ様の目が閉じられた。

 僕は…

 僕は…

 涙を流すことしかできなかった。

 後悔し、自分のしたことを悔やむしかなかった。

 自分の手で大切な人を…失ってしまった。

 アテナ様に触れることができなかった。

 もう僕に優しく声をかけてくれることはない…

 微笑んでくれることはない…

 それを受け入れるのが怖かった。

 自分のしでかしたことなのに。

 怖くて認めたくなかった。

 だから、僕はアテナ様の安らかな顔を見つめることしかできなかった。

 ………

 ………

 ………

 どれくらいの時間が経ったんだろう。

 長い時間、僕は涙を流していたことだろう。

 でも、実際はほんの数分だった。

 アテナ様の目がゆっくりと開いた。

「アテナ様!」

 僕は驚き、声を張り上げた。

「私…死んでない?」

 三日月型の風の刃が当たったはずのお腹をアテナ様の手がまさぐっている。

 見れば、服は切れていない。

 血も出ている様子はない。

 どういうこと?

 何が何だかわからなかった。

 でも、これだけははっきりとわかる。

 アテナ様は生きている。

「アテナ様!よかったぁぁぁぁ」

 僕は嬉しさのあまり、アテナ様に抱き着いた。

 嬉しさのあまり、声を張り上げて泣いた。

 それほど嬉しかった。

 アテナ様が生きていてくれたことが…

 心の底から嬉しかった。

「何が起きたんでしょうか?」

「わからん」

「けれど、お嬢ちゃんは生きているよ」

 セレスさんもマックスさんもアテナ様も何が起きたのかわからないみたいだ。

 僕だって、わからない。

 山賊のリーダーは、お腹をバッサリと斬られて死んでいた。

 見るも無残な血まみれの状態で倒れている。

 アテナ様の手が優しく僕の頭を撫でてくれている。

「ワルイヒトダケ…ヤッツケタヨ…アナタノ…タイセツナヒトハ…マモッテアゲタワ…」

 あの声が聞こえる。

 女の子の声だ。

 僕が横を向くと、目の前に小さな女の子がいた。

 長い金色の髪の毛の女の子。

 尖った耳と緑色の服なのかな?模様みたいなもので身体が覆われている。

 身体全体が透けて向こう側の景色が少しだけ見えている。

 風に揺られながら、空中に浮かんでいる。

 どこかで見たことがある女の子だった。

 この女の子の声がずっと聞こえていたみたい。

 ニコニコと笑顔をたたえていて、すごく優しそうな女の子だ。

「何が起きたのか、ニット君にはわかる?」

 僕の顔を覗き込みながら、瞳を濡らす涙をアテナ様の指がぬぐってくれている。

「このが…アテナ様を助けたいなら、剣を振れって言ったから…振ったんだよ…」

 言葉に詰まりながらも、声を絞り出した。

「この?」

 首を傾げたアテナ様は、目の前に移動した小さな女の子に驚いて小さく悲鳴を上げていた。

 突然、目の前に現れたら驚くよね。

 でも、この女の子のことはセレスさんとマックスさんは、見えていないみたいだった。

 けれど、アテナ様には見えているし、声も聞こえているみたいだった。

 どうして?

 僕とアテナ様には、この女の子の声が聞こえるし、姿が見えるんだろう?

 考えてもわからなかった。

 この女の子は、自分は『風の精霊シルフ』だと言った。

 しかも、『シルフィード・シルフィーユ』とも名乗っていた。

 名前が長いので、『シルフちゃん』でいいかな?

 セレスさんは、シルフちゃんの名前をアテナ様から聞くと、頭を抱え込んだ後、笑い出した。

「ボーヤは、風の精霊の女王に気に入られたようだ」

 セレスさんに頭を激しく撫でられた。

 なんとなく褒められているみたい。

 シルフちゃんは、力が必要な場合はいつでも呼んでと言い残して消えてしまった。

 しばらくすると、疲れたような疲労感から解放されたような感じがした。

「風の精霊を呼べるってことは、ボーヤには魔力があるってことだよ」

「じゃあ、僕も魔法を使えるの?」

 そう聞き返した僕は、気が付いた。

 剣を振るって風の刃が飛び出したときに徐々に疲れていったのは、魔力を消費していたせいなんだと。

 セレスさんから、むやみに風の精霊を呼び出さないように注意をされた。

 魔力を使いすぎると死んじゃうこともあるみたい。

 怖いから、そこは注意しようと思った。

 僕が手にしていた小剣ショートソードをセレスさんは手に取った。

 すごい剣を偶然、手に入れてしまったと喜んでいた。

 その剣の刀身には、古代文字が浮き上がっていたみたい。

 セレスさんは、その古代文字を読み上げていた。

『エアブレード』

 古代文字は、そう書かれていたみたい。

 それが僕の小剣ショートソードの名前みたいだった。

 カッコ良い名前なので、僕はすごく気に入った。

『エアブレード』を鞘に戻しながら、僕は思った。

 この剣は悪い人や魔物を切ることができるようになった。

 もう刃がない剣とか言わせない。

 けれど、すごく危ない剣でもあることが分かった。

 僕は絶対にアテナ様に向けて剣を振るわないことを心に強く誓った。

 僕が望まない限り切れない剣だけれど、もし間違って今回みたいなことになってしまったら…

 取り返しのつかない状況になってしまったら…

 後悔してもしきれない。

 だから、アテナ様に向かっては絶対に使わない。

 セレスさんとマックスさんに対しても同じだ。

 もう悲しい思いはしたくない。

 僕自身の手で、大切な人を失いたくないからだ。

 アテナ様は、僕にとって大切な女神アテナ様だから。

 どんなことがあっても失いたくない、大切な人なんだ。

 だから。

 僕は、命を懸けて守るんだ。

 たとえ、僕が死んだとしても…

 絶対に女神アテナ様だけは守って見せる。

 僕は、自分自身に強い誓いを立てたのだった。


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