第13話 世界創生
『フォルトゥーナ』
私の作り上げた世界は、のちにそう呼ばれるようになりました。
世界の大半はどこまでも続く大海に支配され、陸地は限られた部分しか残りませんでした。
それでも、私が創造した人間と呼ばれる命ある者は、その限られた陸地で逞しく生き、そして勢力を拡大していきました。
ここは、その陸地の一つ。
『エレイスクラン大陸』
この大陸には、六つの大国がいつしか出来上がりました。
一つは、『剣国ソードアタック』
一つは、『盾国シールドディフェンダー』
一つは、『兜国ヘッドヘルム』
一つは、『靴国ダッシュブーツ』
一つは、『籠手国ガントレットアーム』
一つは、『鎧国ボディーアーマー』
この六つの大国がある『エレイスクラン大陸』の西側にやや離れた形で少し小さな『メサリアス大陸』があり、そこは『魔法大国マジックワンド』と呼ばれていました。
『魔法大国マジックワンド』は、魔法の研究が盛んで、一番栄えていた超大国でした。
しかし、その国に住む人々は、自分たちがこの世界を支配する者と主張しだし、恐ろしい研究を始めてしまったのです。
人間が神になる研究をしだしたのです。
私が作り出した『神の姿に似せて作った人間』たちが、神になろうとしていたのです。
愚かなことと思いながら、その行為を咎めずに傍観していました。
私が生み出した人間がこんなにも愚かだったとは、思いもしませんでした。
人間に神は作り出せないと高を括っていた時、人間たちは偶然にもありえない奇跡を起こしてしまったのです。
神ではないが、人ではない者。
『魔人』が誕生してしまったのです。
『魔人デスゲイザー』と彼女は名乗っていました。
生み出された『魔人デスゲイザー』は、激しい憎悪と殺意、そして狂気にまみれ、魔物の大軍団を生み出して自分を作った人間を虐殺して次々に滅ぼしていきます。
私の愛する人間たちが無残にも殺されていきます。
それを見過ごすことは、できませんでした。
私は、神の軍団を率いて、『魔人デスゲイザー』と彼女が次々と生み出す魔物の大群と戦いしました。
けれども、『魔人デスゲイザー』と魔物の大群は激しく抵抗をし、神々は次々と打倒されていきます。
私たちは、残った神々の力を結集して、手に負えない強さを持つ『魔人デスゲイザー』だけでも大地の奥深くに封じることにしました。
私も剣を持って『魔人デスゲイザー』と戦いました。
『聖剣エクスカリバー』を振るい、死闘の末に『魔人デスゲイザー』を『魔法大国マジックワンド』に叩き落とすことができました。
他の神々は最後の力を振り絞って『魔人デスゲイザー』を多重に張り巡らせた結界の中に封じ、『魔人デスゲイザー』ともども魔法大国を海の底深くに沈めてしまいました。
私は、『魔人デスゲイザー』との戦いで傷つき、命を落としました。
もう、神々は誰一人として、この『フォルトゥーナ』には存在しません。
でも、人間たちは、自分たちの力で文化を築き、文明を発展させていきました。
そう、人間たちは、立派に成長していっているのです。
私たち神は、もう不要なのです。
あとは、人間たちにこの世界を任せます。
私は、ただ人間たちの行く末を見守ることにしました。
もう私自身、この世界に存在すらしていないのだから。
私は、女神ブレーディア。
のちに『剣と慈愛の女神ブレーディア』と人間たちに呼ばれることとなる存在です。
願わくば、この『フォルトゥーナ』と呼ばれる世界に幸多からんことを願うばかりです。
セレスさんから、この世界が出来上がったとされる世界創生の伝承を聞かされました。
『剣と慈愛の女神ブレーディア』が、この『フォルトゥーナ』を創造して生み出したと言われても、私には壮大すぎて想像できません。
「ブレーディアって女神様は、アテナ様が持っている剣を所有していた人ってこと?」
ニット君が、私の腰にぶら下がった金色の柄に真紅の魔法石が埋め込まれた剣を見つめながら尋ねた。
「人ではなく、神だけどね…『聖剣エクスカリバー』を振るって魔人と戦ったとされているねぇ~。それも数百年前のことだから、本当か嘘かは誰にも真実はわからないけれどねぇ~」
野宿の準備を終えて、焚火を囲みながら、私たちは干し肉を齧っている。
なぜ、世界創生にまつわる話になったのかは覚えていないけれど、話をしているうちにそうなってしまった。
「じゃあ、神様はこの世界にはいないの?」
「神って存在に会ったことはないから、確かめられないので、あたいには答えられないよ。ただ、そう言い伝えられているだけだからねぇ~」
セレスさんは、困ったような顔をしている。
誰も真実は知らないし、知ることも不可能だと思う。
数百年も前のことだもの、その時に生きていた人間は今はいない。
伝承などでしか伝わっていないので、正確性に欠けるお話が広まっている場合もありそう。
「この国は、なんていう国なの?」
私たちがいるこの国のことが気になったのか、ニット君が尋ねてきた。
「今、私たちがいるこの国は、『剣国ソードアタック』になるわね」
自信満々で答える私に「それは大きなくくりで見ればの話さ」とセレスさんが意味深な物言いをしてきた。
「大きなくくり?」
「そう、お嬢ちゃんが言う様にこの大国は『剣国ソードアタック』だよ。でも、剣国の中には、これまたいくつかの国がある。剣国のほぼ真ん中にあるのが『中央国ブレード』、その中央国から見て東に『龍王国ドラゴンキングダム』、南に『商業国アルテイシリアル』、西に『剣聖国ソルティア』、北東に『槍騎兵王国エリアリア』、北西に『砂上王国サンドリアンド』、南西に『六連湖国フュージリア』の七つの国が集まったものが、『剣国ソードアタック』と呼ばれているのさ」
「なんだか、ややこしいですね…」
「大国と呼ばれるのは、海に沈んだ『魔法大国マジックワンド』を除けば、この『エレイスクラン大陸』には六つあるってことだ。その大国の中には、それぞれ小さな国がいくつかある。どこの大国もそんな感じになっているらしい。ちなみに俺たちが今いるここは『中央国ブレード』の領内になる。王都ブレードは、俺たちがやって来た東の方にある。嬢ちゃんがエクスカリバーを手に入れた聖剣の街ブレーディアよりもさらに東の方だな」
「私たちは、西へと進んでいるので、そのうち『中央国ブレード』を出て西にある『剣聖国ソルティア』でしたっけ?その国の方へ向かっているってことになるんですか?」
「まあ、そのまま行けばそういうことになるねぇ~。何か目的があれば、それを目指すんだけれど、特に目指すものが何もなければ、どこへ進もうと自由だよ」
「それなら、僕はドラゴンを見たいなぁ~」
ニット君が何気なく呟いた。
「それはダメだ。『龍王国ドラゴンキングダム』は、行くようなところじゃない」
突然、マックスさんが大きな声を上げて、立ち上がった。
私とニット君は、マックスさんの大きな声に驚いて互いに抱き合っていた。
その時のマックスさんの剣幕は、尋常ではなかった。
何かあったのかしら?
龍王国ドラゴンキングダムで…。
「ああ…すまない」
マックスさんは、何か思いつめたような表情を見せると、ゆっくりと腰を下ろした。
セレスさんも何か浮かない顔をしているように見えたのは気のせいではないかもしれない。
私は何も尋ねることができず、ニット君はちょっとだけ怖がっていた。
私は「大丈夫よ」と小さく声をかけて、ニット君の背中を優しく擦ってあげた。
それで安心したのか、ニット君は私に甘えるように抱きつき、ちょっとだけ笑顔を見せてくれた。
「話はこれくらいにして、そろそろ寝ようかねぇ~」
セレスさんはそう言って、毛布に包まると横になった。
「私たちも休みましょう」
ニット君を毛布に包み、抱きかかえながら私自身も毛布に包まって、横になった。
辛い思いや悲しい思いをしてきたのは、私だけではないと思った。
ニット君も酷い目にあわされてきた一人ではある。
人それぞれ、様々な思いを抱いて生きているのだろう。
私は…この先、どんな人生を送っていくのかと考えたが、想像すらできず、いつしか寝息を立てて眠ってしまった。
先のことを考えてもどうにもならない。
なるようにしかならないからだ。
若い頃の自分に言ってやりたい。六つの大国の名前をもっとカッコいい感じにしろと。28年前に考えた設定のまま、とりあえず書いていきます。まあ、これも一つの思い出と思ってそのままにしておこう。