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第11話 初めての依頼

 宿屋で朝食を取った後、私とニット君、セレスさん、マックスさんの四人は、昨日訪れた冒険者ギルドに向かった。

 ギルド内のリクエストボードに貼り出されている依頼の中で私とニット君ができそうなものを探すと、一軒だけあった。

 シルフィスの街の南東に行った街道沿いの小高い丘にゴブリンの集団が現れて街道を通る人を襲ったりしているらしい。

 そのゴブリンの群れの討伐依頼があった。

 ゴブリンの群れは6匹程度と少ない。そのため、このEランクのボードに貼り出されていた依頼書の中では最も報奨金が安かった。

 だから、誰も引き受けようとしていないのではないかとセレスさんは言っていた。

 私とニット君にとっては都合の良い依頼だと思った。

 たとえゴブリンであっても数が多ければ、私とニット君だけでは対処しきれない可能性がある。

「その依頼でいいだろうねぇ~。お嬢ちゃんとボーヤにとってはちょうどよさそうな依頼だと思うよ」

「ゴブリンの数も少ないし、ちょっと群れの出現場所が遠いがうまくいけば夜になる前には戻ってこれそうな感じだな」

「じゃあ、この依頼に決めます」

 私は、リクエストボードの依頼書を手に取ると、受付嬢のいるカウンターに向かった。

「この依頼を受けたいんですけれど」

 依頼書を受付嬢に渡すと「わかりました。依頼を受ける方は『冒険者登録証明書』を提出してください」と言われたので、私とニット君の証明書を手渡した。

「あの~、お二人だけですか?そちらの方たちは?」

 手渡したのが、私とニット君の証明書だけだったので、受付嬢の人はセレスさんとマックスさんの方を見た。

「あたいらは付き添いだよ。依頼を受けるのはその二人。まあ、あたいらも同行するけれど、よほど危険な状態にならない限りは手出しはしないで見守るつもりだよ」

 セレスさんの言葉に受付嬢は「はあ~」と気のない返事をしながら処理を済ませていた。

「では、アテナさんとニットさんはコンビ登録をされていますので、お二人での受注になります。出発はいつになさいますか?」

「えっと…これから行きます」

 私が答えると「わかりました。同行者を呼びますので、ちょっとだけお待ちください」と言われた。

「同行者?」

 何のことかわからず、私は首をかしげ、セレスさんとマックスさんの方を見る。

「そうか…同行者が付くのか」

「まずいねぇ~」

 二人は何やら小さな声で呟いている。

「あの~…同行者って何のことですか?」

「同行者ってのは、ギルドの職員が一人付いてくるって意味合いさ」

 ギルドの職員が付いてくる?って言われても意味が分からない。

「ギルドの依頼を受けた際、依頼の達成の仕方によってはギルド職員が同行者となって付いてくることがある。この街のすぐそばでの魔物討伐の依頼だったら、ついてくることはない。討伐した証拠に魔物の手や足とか首を持ってきて、どのへんで討伐したのかを報告すればギルドの職員が確認に行ってくれる。証拠の手足なんかが一致すれば依頼達成になる。昨日の俺たちのゴブリン討伐がそれにあたる」

「今回の依頼はちょっと遠いからねぇ~。ギルド職員が一緒に現地までついてきて、魔物の確認や討伐できたかなんかをその目で確認してくれる。一緒に戻ってくれば、すぐに報奨金ももらえるからいいと言えばいいんだけど…あまり付いてきてほしくはないねぇ~」

「何かデメリットでもあるんですか?」

 尋ねる私に「あたい達がもしもの場合に手を出した際にどう判断されるかが問題だねぇ~」とセレスさんが考えながら呟く。

「依頼を受けたのは嬢ちゃんとボーズだ。俺たちが手を出すわけにはいかない。だが、危険な場合は助けてやるから安心しな。ただ、手助けした場合、依頼達成と認められない可能性があるからな。ギルド職員がどれだけ寛容な判断をしてくれるかだが…」

「こればかりは何ともねぇ~」

「討伐しても依頼達成として認められない場合は、報奨金はもらえないんですか?」

「そうじゃあないよ。報奨金はもらえるさ。魔物を討伐さえすればね。あたいらが手助けをしたってことで、ランクアップするための評価が下がってしまうってことだよ。依頼を達成すればランクは上がりやすくなる。けれど、依頼を達成できない場合は評価を受けられずにランクがなかなか上がらない。そうなれば、高額報酬の依頼を受けることができなくなっちまうってだけさ」

「まあ、そんなにお金が必要な状況ではないので、そこそこあればいいと思うんですけれど…」

 そんな話をしていると「お待たせしました」と声をかけてきた人がいた。

 振り返ると、眼鏡をかけた女性がそこにはいた。

 20歳前半くらいの金色の髪を後ろに流して蝶々の形をしたヘアクリップで止めている女性だ。

 くすんだ草色のパーカーのようなものをまとい、そのパーカーの丈は足元までのブーツを覆い隠すほど長かった。

 背中には、小さなリュックを背負っている。

 なんだか旅慣れた感じの雰囲気の人みたい。

「今回同行させていただく、キルシェ・キルエルと申します。ゴブリン相手なので、私は一切手出ししませんので、ご承知ください」

 キルシェと名乗ったこの女性は、抑揚もなく淡々とした口調で挨拶してきた。

「アテナ・アテレーデです。よろしくお願いします。こっちはニット君です」

 私は自己紹介し、私の足元にいるニット君を紹介した。

「そちらの方たちは?」

 キルシェさんは、セレスさんとマックスさんの方を見る。

「あたいはセレス。こっちはマックスだよ。その二人の付き添いだから気にしなくていいよ」

 セレスさんは簡単に自己紹介をしていた。

「アテナさんとニットさんは、初依頼のようですね。何か説明は必要ですか?」

「説明?え~と…キルシェさんと一緒に行って、ゴブリンを退治すればいいだけですよね?」

 確認のために尋ねてみた。

「そうです。今回はそれだけです。非常に簡単です。私はともに同行して依頼達成か否かを判断するだけですので、討伐はお二人でお願いします」

「は…はい」

 私はちょっとだけ、気圧けおされていたかもしれない。

「じゃあ、早速行くとしようかねぇ~」

 セレスさんは、そう言うとギルドの外へと向かって歩き出した。

 私たちは、その後を付いて行くように足を向けた。


 シルフィスの街を出て、街道を南東へと進んでいく。

 お昼前には目的地付近にやってきていた。

 結構な距離を歩いたので、休憩がてら昼食にしようとセレスさんが言いだして簡単な食事をとった。

 干し肉と水を補給する。

 なんだか緊張してしまって、私は干し肉を二枚だけかじっただけだった。

 昼食を終えて、歩き出してしばらくすると小高い丘の上に人影が見えた。

「ゴブリン」

 私の声にみんなが足を止めた。

 キルシェさんは、リュックから双眼鏡を取り出してゴブリンを確認している。

「あの群れに間違いないようです。ただ…ゴブリンは8匹いますね」

 依頼内容では、6匹のゴブリンの群れを討伐する依頼だったはず。

「どうするんですか?」

「まあ、相手はゴブリンなので、8匹すべて討伐してください。たまに、依頼内容と数が違う場合がありますが、今回は誤差の範囲です。8匹討伐出来たら2匹分は報奨金を上乗せでお支払いします」

「もし6匹討伐して、2匹逃がしてしまった場合はどうなるんですか?」

「依頼は6匹なので達成になります。しかし、街道が危険な状態であることには変わりないので、私の判断で追加で討伐依頼をあなたに受けてもらうことになります。拒否することもできますけれど、拒否すればランクアップの評価は下がります」

 キルシェさんは淡々と話す。

「とりあえず、あの8匹のゴブリンを倒せばいいんですね」

「そういうことです」

「じゃあ、ニット君。行くわよ」

 私は鞘から『聖剣エクスカリバー』を抜き放つ。

 キルシェさんの目がエクスカリバーに釘付けになっている。

「その剣…冒険者になりたてのあなたには不釣り合いな気がします」

 キルシェさんは、なんだか失礼なことを表情一つ変えずに言ってきた。

 『剣と慈愛の女神ブレーディア』が愛用していたと言われる『聖剣エクスカリバー』ということは知らないようだ。

 あえて言う必要もないし、自慢する気もないので、私は愛想笑いをしてニット君を伴って慎重にゴブリンの群れに近づいていった。

 ゴブリンたちは、私とニット君が近づいていることに気が付いていないみたい。

 背後から岩などに隠れながらゆっくりと近づいていく。

 ここからなら奇襲をかけられそうな距離だ。

 私は、ニット君に立ち止まるように手で合図した後、一気に岩陰から飛び出していった。

 背後から一匹のゴブリンを袈裟懸けさがけに切り倒す。

 突然のことにゴブリンたちは驚き戸惑っている。

 その隙に2匹目と3匹目も切り伏せることができた。

 ゴブリンたちは思い思いの武器を手に取り、私とニット君から距離を取った。

 奇襲攻撃で3匹倒せたのはラッキーともいえる。

 残るは、あと5匹。

 ゴブリンたちは、襲ってきたのが私一人だと思ったみたい。

 余裕の表情をしていた。

 1匹が私に向かって飛びかかると、他の4匹も私に向かって飛び掛かって来た。

 私は、後ろに下がって攻撃をかわす。

 ゴブリンは追撃しようと追ってきた。

 岩陰に隠れたままだったニット君の小剣ショートソードが、1匹のゴブリンの頭を強打する。

 そのゴブリンは目を回して倒れた。

 突然現れたニット君の存在に、ゴブリンたちは慌てふためいていた。

 私はすかさず、『聖剣エクスカリバー』を振るってゴブリンを切りつける。

 4匹目、5匹目と切り倒す。

 ニット君が殴り倒したゴブリンが、頭を振るいながら起き上がって来た。

 そこへ再びニット君が小剣ショートソードで殴りつける。

 ニット君の小剣ショートソードは、刃がないので切り裂くことはできない。

 そのため、ゴブリンに致命傷を与えることができない。

 けれども、何度も殴りつけた結果、そのゴブリンは動かなくなっていた。

 これで依頼された6匹は倒した。

 残るは2匹。

 ゴブリンに向かって剣を振るう。

 ピョンピョンと素早く跳ねまわって、私の攻撃を躱す。

 結構すばしっこい。

 2匹同時に相手しようとしたけれど、1匹に狙いを定める。

 ゴブリンの短いさびびついたナイフは、空を切る。

 ゴブリンの動き全体を見ながら、どんな動きをするのかよく観察した結果かもしれない。

 冷静にゴブリンのナイフを私は躱していた。

 躱したのち、一気に間合いを詰める。

 私の剣の攻撃範囲リーチは長い。

 突き出した切っ先がゴブリンの喉元を深々とえぐった。

 気色の悪い断末魔を上げてゴブリンは、ぐったりとして倒れこんだ。

 これで7匹倒せた。

 残るは1匹のみ。

 その1匹とはニット君が戦っていた。

 ゴブリンの手には、木製のこん棒が握られていた。

 太い木を削って持ち手を作ったようなお粗末なものだけれど、力いっぱい振り回せばそれなりの威力はある。

 ニット君は、マックスさんとの剣のお稽古の成果が出ているようだった。

 無理にこん棒を剣で受け止めようとはせずに、身をひるがえして躱している。

 ゴブリンは、こん棒を大きく振りかぶって、叩きつける。

 それは、地面を叩いて手が痺れたみたい。

 ゴブリンの動きが止まった。

 ニット君は背後に回り込むと、ゴブリンの脳天に剣を振り下ろした。

 刃がない小剣ショートソードなので、切ることはできなかったけれど、刃があればニット君の勝利は間違いなかった。

 ニット君は、そのまま何度も小剣ショートソードを叩きつける。

 ゴブリンはその連続攻撃から逃れることができずに、地面に倒れ伏すと動かなくなった。

 とりあえず、ニット君が倒したと思われる2匹のゴブリンに私は剣の切っ先を突き立てておく。

 もしものことを考えての処置だった。

「やったね。ニット君」

 私はニット君に向かって左手を差し出した。

「うん」

 嬉しそうに微笑んで、ニット君は私の左手に自分の左手をタッチする。

 ハイタッチだ。

 勝利の余韻よいんに浸っていると「お嬢ちゃん、ボーヤ。気をつけな」とセレスさんの鬼気迫る声が耳に飛び込んできた。

 私は慌てて剣を構えると周囲を見渡す。

 8匹のゴブリンが倒れている。

 セレスさんの警告の意味が分からず、私は彼女の方に視線を向ける。

 セレスさんとマックスさんが慌てた様子で私たちの方へと駆け寄ってくる。

「嬢ちゃん、上だ!」

 マックスさんの叫び声に、私は上を見上げる。

 私とニット君がゴブリンに奇襲をかけたときに使用した岩の上に人影が見えた。

 何かわからなかったけれど、岩の上にいた人は私に向かって飛び掛かって来た。

 反射的に『聖剣エクスカリバー』を横にして突き出していた。

 『聖剣エクスカリバー』に堅いものがぶつかる衝撃と金属音が同時に私を襲った。

「きゃあ!」

 私は悲鳴を上げていた。

 なぜなら、私に向かって飛び掛かってきたものは、恐ろしい顔をしたものだったからだ。

 狼の顔をした人間?

 いえ、人間が狼の頭をかぶっているのかしら?

 それにしては全身が毛皮に覆われている。

 フサフサの尻尾もある。

 手には不釣り合いなほどに長い爪があり、私をめつける眼光は狼そのもので、突き出た鼻からは荒い鼻息が強い獣臭を放ち、突き出した口からは牙が見え、舌なめずりする赤い舌が見え隠れしていた。

 狼人間?

 初めて見るその姿に私は驚愕して、硬直してしまった。

風刃乱舞ふうじんらんぶ

 セレスさんの声とともに、狼人間に向かって刃とかした風が一直線に向かっていく。

 狼人間は、大きく跳躍してそれを躱して着地した。

「大丈夫かい?お嬢ちゃん?」

 私のそばまで駆け寄ったセレスさんは、私の前に立ち、狼人間との間に割って入る。

「はい…何とか…あの人は何ですか?」

 気味の悪い狼人間に視線を向けながら、私は尋ねた。

「ウェアウルフだよ」

「ウェアウルフ?」

 聞いたことない言葉に首を傾げた。

「人狼って呼ばれることもある、人のような姿をした狼の魔物だよ」

「狼の魔物?人間ではないってことですよね?」

「人間のようにも見えるけれど、狼の魔物だねぇ~」

 セレスさんは、両手に短剣ダガーの『白銀しろがねの刃』と『黒鉄くろがねの刃』を構えていつでも攻撃できる体制をとっている。

 ニット君のそばにもマックスさんが駆け寄って、『ドラゴンバスター』を構えている。

「こいつは、嬢ちゃんたちには荷が重すぎる。俺とセレスでやる。手を出すなよ」

 マックスさんが叫んだ。

 狼人間ウェアウルフは、二足歩行で立ち、猫背気味で身構えている。

 マックスさんが地面を強く蹴ってウェアウルフに向かって飛び込んでいく。

 『ドラゴンバスター』の刃をあっさりとジャンプして躱す。

 しかも、脚力が強いみたいで、マックスさんの頭の上を飛び越えていく。

「逃さないよ」

 セレスさんは、手にした短剣ダガーの刀身に風をまとわせている。

切り裂く風エアスラッシュ

 二本の短剣ダガーを振るって扇型の風の刃を打ち出す。

 ウェアウルフの肩口とわき腹から真っ赤な花が咲く。

 風の刃がかすったみたい。

 着地したウェアウルフは、素早くマックスさんに向かって鋭く長い爪を突き出す。

 状態を逸らして、マックスさんは紙一重で躱す。

 躱しながら、『ドラゴンバスター』を叩きつけていく。

 身をよじってウェアウルフは『ドラゴンバスター』の軌道から逃れる。

 ウェアウルフの意識はマックスさんに向いていた。

 そのため、セレスさんが放った扇型の切り裂く風エアスラッシュに気づかなかったみたい。

 ウェアウルフの背中をザックリとえぐり、青白い体毛に赤が混じる。

とどめだ!」

 マックスさんの声とともに、ウェアウルフの後頭部に『ドラゴンバスター』の刀身が叩きつけられた。

 嫌な鈍い音ともにウェアウルフの首が不自然な方向に曲がり、地面の上に倒れ伏して動かなくなった。

「ふぅ~…危なかったねぇ~」

 安堵の溜め息をつきながら、セレスさんは短剣ダガーを太ももにくくり付けた鞘に戻していた。

「まさか、狼人間ウェアウルフが出るとはな。付いてきて良かったってもんだ」

 マックスさんも『ドラゴンバスター』を背中の鞘に戻している。

「さすがBランクの冒険者ですね。ウェアウルフもあっさりと片付けてしまうなんて」

 パチパチと手を叩きながら、抑揚のない声でキルシェさんが言った。

「この場合、お嬢ちゃんたちの依頼はどうなるんだい?」

「ウェアウルフが現れる前にゴブリン8匹を倒しているので、依頼は達成です。ウェアウルフが現れたのはイレギュラーでしたね。さすがに新人冒険者の初依頼で倒せとは言いませんよ。私もそこまで鬼ではありませんから」

 キルシェさんは、そう言いながらも周囲を警戒して見回している。

「あなた方に依頼をしてもいいでしょうか?周辺の状況調査をお願いしたいのですが…?」

「周辺の状況調査?」

 私は、何のことを言っているのかわからず首を傾げた。

「ゴブリンの討伐がこの依頼の内容だったけれど、狼人間ウェアウルフが現れちまったからねぇ~。他にも魔物がいるかもしれないから調査をしてほしいってことさ」

「それで、魔物がいたら退治しろって言っているわけさ」

 セレスさんとマックスさんが答えてくれる。

「安心してください。新人のアテナさんとニットさんにお願いすることはありませんから」

 なんとなく…あなたたちは役に立たないから必要ないと言われているようなそんな口ぶりでキルシェさんは言った。

 悪気はないのかもしれないけれど、ちょっと心にチクリと来た。

「その依頼は、あたいとマックスが引き受けるよ。けれど、移動するのはお嬢ちゃんとボーヤも一緒だよ」

「ゴブリン程度なら何とかなるのはわかったが、別行動して嬢ちゃんたちの前にウェアウルフみたいなのが現れたら厄介だからな」

 セレスさんとマックスさんは、私とニット君のことを心配してくれているみたい。

 ちょっと嬉しい。

 

 私たちは、周辺を探索して他に魔物がいないかを確認して回った。

 一通り確認したけれど、魔物の姿はなかった。

 そのため、シルフィスの街に戻ることになった。

 シルフィスの街に辿り着くころには日も沈みかけていた。

 そのまま冒険者ギルドに行く。

 キルシェさんはギルドに辿り着くなり、カウンターに座り、今日の出来事をまとめ始めた。

 私とニット君が受けたゴブリンの討伐依頼は、ゴブリン8匹の討伐で達成となった。

 冒険者登録証明書の『依頼内容』の項目に今日の日付とともに『ゴブリン8匹の討伐依頼達成』の文字が書き込まれて渡された。

 それとともに、カウンター越しに皮袋が私に渡された。

「これがアテナさんとニットさんの報奨金になります。ゴブリン6匹の依頼とさらに2匹の追加討伐ですので、報奨金は少しだけ上乗せされています」

 私は、お金を受け取った。

 初めての冒険者ギルドの依頼で得たお金。

 ほんの少しのお金だけれど、ズッシリと重く感じた。

 二人で達成したのだから、ニット君にも分けてあげないとね。

「そして、これがセレスさんとマックスさんの報奨金になります」

 カウンターに置かれた皮袋がパンパンになっている。

 私が受け取った報奨金よりも多いのは明らかだった。

「ウェアウルフのイレギュラー討伐と周辺調査の協力金となります」

「棚から牡丹餅ぼたもちとは、このことだよねぇ~」

「いい稼ぎになった」

 セレスさんとマックスさんは、ほくほく顔だ。

「特に何もなければ、以上となります」

 キルシェさんに、「今日は、ありがとうございました」とあいさつをして私はギルドを出ていこうとした。

「お嬢ちゃん、ちょっと待ちな」

 不意にセレスさんから声をかけられた。

 リクエストボードの方へ向かっている。

 私はニット君をともなってリクエストボードへと向かう。

「どうしたんですか?まさか、今からまた依頼を受けるんですか?」

 討伐依頼の処理をしてもらっている間に、もう夜になってしまった。

 さすがに今から出かけるのはちょっと辛い。

 ゴブリンとの戦いで疲れているし、ニット君も眠そうにしている。

「良さそうなものがあれば、今のうちに依頼を受けておくのも手だよ」

「なぜですか?」

「良い依頼は取り合いになる可能性があるからねぇ~。早い者勝ちだから、今良い依頼があれば受けておくのを進めるよ」

「ただし、ここに書いてある『達成期日』ってところに注意しな。いつまでに達成しなきゃならない期限付きの依頼もある。期限付きの物は、その期限内に達成しなきゃならんが、期限のないものは急ぎじゃないから、こういったものは引き受けておくと、あとで受けておけばよかったなんてことにならなくて済むからな」

「こまめにリクエストボードは確認しておいた方がいいんだよねぇ~。おっ…これなんかいいんじゃないかい?期限なしで、村のそばに出没しているゴブリンの討伐依頼だねぇ~。15匹程度なら、問題ないだろう?」

 セレスさんは簡単そうに言うけれど、今日戦ったゴブリンの倍以上の数。

 私とニット君は囲まれたら、どうにもできなさそうなんですけど。

「たぶん、この依頼なら同行者はなしで行けるはずだから、受けようじゃないかい」

 セレスさんは勝手に依頼書を取るとカウンターに行ってしまう。

 キルシェさんが座っているカウンターにだ。

 そして、私とニット君は、シルフィスの街の西にある村の周辺に出るゴブリン15匹の討伐と周辺調査の依頼を半ば強制的に受けることになってしまった。

 ただ、今回は同行者はついて来ないということになったみたい。

 村からの依頼なので、ゴブリンを討伐したら村長さんに声をかけて討伐したゴブリンの確認をしてもらい、依頼書に討伐確認のサインをしてもらえば、それが討伐の証拠になるらしい。

 私たちは宿に戻って夕飯を食べると、お風呂に入ってから早々に眠りについた。

 明日は、このシルフィスの街の西にある村まで行って、ゴブリンを15匹も相手にしないといけない。

 ゆっくり休んで明日に備えよう。

 ニット君は、ベッドに入るとあっという間に寝てしまった。

 私も同じベッドに横になると、いつの間にか眠りについていた。

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