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第1話 聖剣エクスカリバー

「聖剣の街…ブレーディアヘようこそ…?」

 私は、街の入り口に大きくかかげられた看板を見上げながら、声に出して読み上げていた。

「聖剣の街って何なのかしら…?ブレーディアって、確か『剣と慈愛の女神』の名前が『ブレーディア』だった気がするけれど…何か関係があるのかしら…?」

 ブレーディアという名は、数百年前に魔人の大群と戦い、命を落としたと言われている『剣と慈愛の女神ブレーディア』と同じだ。

 その女神様の名を街につけたってことなのかしら?

 考えてもわからないので、とりあえず門をくぐって街の中に入っていく。

 街の中は多くの人が行き交い、賑わっている。

 華やかなドレスやきらびやかな洋服に身を包んだ女性たちが優雅に街中を歩き、男の人たちは鎧や兜、盾などで武装して剣や槍などの武器を持って闊歩かっぽしている。

 荷車を馬に引かせてたくさんの荷物を運んでいる商人などの姿もある。

 レンガ造りの建物が多く、それぞれの家々は二階建てや三階建てが普通にそびえ立っている。

 古くからある街のようで、裏通りの方には古びた家が見え隠れしている。

 こういった大きな街の裏通りは治安が悪いことが多いので、極力近寄らないように私は大通りを歩き、街の中心目指して歩いていく。

 特に目的があるわけでもない。

 大体、どこの街も中心には大きな広場があり、そこには露店などがある。

 広場では、誰でも商品を売ったりできるバザーなどが開かれていて、掘り出し物があることもしばしばあるみたい。

 その広場周辺には宿屋や食堂などもあるので、私は安宿でもないかな~?と思いながら、街並みを見渡して歩く。

 街の中心付近までやってくると、何やら人だかりができている。

 何かを囲んで多くの人たちが騒いでいる。

 喧嘩でもしているのかしら?と思ったけれど、違うみたい。

 老若男女関係なく、そこは大いに賑わっていた。

「残念でした。さあさあ、次の挑戦者は誰だ?」

 煽り立てるような男の人の声が人だかりの向こう側から聞こえてくる。

 私は、気になったので近寄って覗き込んでみる。

 人垣は、私の背丈よりも高く、何があるのかすら見えないので、つま先立ちで何とか見えないかな?と背伸びをしてみる。

 全く見えない。

 でも、声だけは聞こえてくる。

「ああ、残念。このままだと、今日もこの剣を抜ける者は現れそうにもないな。さあ、次に挑戦したい者はいるか?いるなら、前に出て挑戦してくれ」

 煽り立てる声は、人だかりに向かって言っているみたい。

 何かに挑戦しているみたいだけど、何をしているのかしら?

 こうも見えないと、余計に気になってしまう。

 私は、何とかして人だかりの先にあるものを見ようとしていた時、後ろから勢いよく押し出された。

 人だかりを抜けて、一番前に出てしまい、ヨロヨロとよろめいた。

 何とか転ばずに済んだけれど、周囲の人だかりから一気に注目を浴びてしまった。

「おおっと、新たな挑戦者の登場だ。黒髪を三つ編みにした謎の美少女が名乗り出てくれたぞ」

 黒髪の三つ編み?

 それって私のこと?

 確かに私は黒髪でそれを三つ編みにしているけれど、美少女かどうかは置いておいて、一応女の子だ。

「いいぞ、お嬢ちゃん」

「頑張りな」

 嘲笑ちょうしょうともとれる言葉が私に投げかけられる。

 私は、自分の置かれている状況を改めて確認した。

 私の目の前には台座がある。

 その台座の上には、一本の剣が突き立てられている。

 つかの部分に真紅しんくの宝石が埋め込まれたとても美しい剣だ。

 刃こぼれ一つせず、陽の光を受けて刃がキラリと反射する。

 その剣に向かって階段が設置されている。

 まるで、階段を上って台座の上にある剣を引き抜けと言わんばかりの状況だ。

「あの…これはいったい…?」

 私は、周囲の人だかりをあおる男の人にそっと声をかけた。

「ん?もしかして、この剣のこととか何も知らないで挑戦しようとしたのかい?」

「何も知りません。私は、押し出されただけで…挑戦なんてする気ないですから…」

 困ったような表情で私は告げる。

「このお嬢さんは、勇気があるね~。この剣のことを知らずに挑戦しようとしたみたいだ」

 男の人が、馬鹿にするかのような言い草で聴衆に語り掛けていく。

「ここに集まった人の中にも知らない人がいるかもしれないから、説明しよう。この剣は、『聖剣エクスカリバー』。あの『剣と慈愛の女神ブレーディア』が愛用したと言われている聖剣だ。この聖剣は、女神が亡くなった後も、ここにずっと残されている。何百、何千、何万という人たちがこの聖剣を手にしようとしたが、今の今まで誰も引き抜くことができずにいる。まあ、簡単に引き抜かれては困るけれどね。この街の名物の一つだから」

 最初から、誰も手にすることができない剣を引き抜かせようとして、結局引き抜けないということを見世物にするってことか。

 最悪な見世物みたい。

 それに私が参加させられようとしているってこと?

「私にメリットってないんじゃないですか?」

「いや、あるよ。この聖剣エクスカリバーは、引き抜いた者が所有者になる。剣を引き抜きさえすれば、抜いた人の物になるってことさ。引き抜くことが出来さえすれば、メリットはあるよ。女神が使っていた聖剣だよ。売れば一生遊んで暮らせるくらいのお金に換えられる。こんなに魅力のある見世物に参加しないなんてことはないよね?」

 意地の悪い顔つきで私を見つめてくる。

 ものすごく不愉快だった。

 だけど、もうこの状況はどうにもできなかった。

「早く、引き抜いて見せろ」

「どうせダメなんだから引っ込め」

 様々なヤジが飛んでくる。

「ほらほら、早く挑戦しちゃいなよ。それとも、注目を浴びたいのかな?」

 周囲の人たちをわざと煽り立てて、私の逃げ場を完全に塞いでくる。

 まあ、デメリットはない。

 挑戦するのにお金を払ったりする必要はないみたい。

 ただ、引き抜くことができずに笑いものにされるだけ。

 悔しい気持ちをぐっと堪えて、「挑戦します」と、私は気丈に振舞ふるまった。

 台座の上にある剣に続く階段を一段一段登っていく。

 絞首刑にあう人の気持ちってこんな感じなのかしら?と思いながら上がっていく。

 剣のそばまでやってきて足を止める。

 遠目からはわからなかったけれど、金色の柄には赤い宝石が埋め込まれている。

 その周辺には細かな細工が施されていてとても美しい。

 刃の部分には、何かの文字…古代文字というものなのかわからないけれど、何かがうっすらと浮き出るように掘られている。

 見とれてしまうくらい、美しい剣だった。

「これが、『女神ブレーディア』が愛用していた剣…『聖剣エクスカリバー』…」

 私は、大きく深呼吸をすると、右手を柄にかけた。

 私の手に吸い付くような不思議な感じがした。

『…女神………ィア……』

 私の頭の中に、何かの声のようなものが響いた。

 何と言ったのか正確にはわからなかったけれど、何かが聞こえた。

 その時。

 ズズッ…

 台座から少しだけ剣が動いた。

 周囲の人だかりからは、全く見えなかったと思う。

「抜ける?」

 私は、勢いよく聖剣を引き抜いた。

「おおっ!」

 周囲から驚きの声が上がった。

「抜けちゃった…」

 私自身も驚いた。


挿絵(By みてみん)


 なんとなく、抜けるような気がしたから思わず力を込めて一気に引き抜いてしまった。

 聖剣は、私の手にしっかりとなじむような感じだった。

 かなり大きめの剣だけれど、重さは感じない。

 羽のよう?…いいえ、私の腕のようと言えばいいのかしら。

 まるで自分の腕を動かしているみたいな感じだった。

「えっ?抜けたの…?」

 先ほどまで煽り散らしていた人が、ほうけた顔をしている。

 他の人たちも驚き、口を開けてポカンとしていた。

「確か、剣を抜いたら貰えるんでしたよね。じゃあ、これは私の物で良いですよね?」

 確認するように尋ねると、男の人は魂が抜けたような顔をしたままうなずいていた。

「うおおおお…聖剣が抜けた」

「あんな女の子が剣を抜いちまったぞ」

「その剣を売ってくれ」

 周囲にいた人たちが歓声を上げる。

 それを聞いた私は冷静になる。

 剣が抜けるとは思ってもいなかった。

 剣が抜けた場合、どうなるかを想像もしなかった。

 人々の注目が一斉に私に集まる。

 私は危険を察知して、その場から一目散に逃げだした。


 そういえば、自己紹介がまだだったので、自己紹介をしておきます。

 私は、アテナ。

 アテナ・アテレーデ。

 18歳の女の子。

 偶然にも、『剣と慈愛の女神ブレーディア』が愛用していた『聖剣エクスカリバー』を引き抜いてしまい、所有者になってしまった女の子。

 この日を境に『聖剣エクスカリバー』を欲しがる人たちに追い回される羽目になるのでした。

28年も前に漫画として描こうとして考えた作品です。長い間、設定やストーリーをメモしていたものが、段ボール箱の中に眠っていたので、それを小説という形で書いていこうと思います。


挿絵を追加で入れてみました。2025.07.27

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