家電
第24回新風舎出版賞、3次審査落選作品(笑)
なんとか無事にようをたした私は、先程スーパーで買ってきた6枚切りの食パンの内、2枚を電子レンジに入れ、“トースト”のスイッチを押した。その間に、買ってきた他の物を冷蔵庫に入れた。ふと洗濯機を見ると、プラグがコンセントに差し込まれていたままだったので、私はそれを外した―
入居してからは、家電を買いそろえまっくた。といううも、実家の一人暮らしシミュレーション時には、ほぼ家電は揃っていたので、実際に買いに行った物は、電気器具とガスコンロと洗濯機だけだった。電気器具とガスコンロはあっさり決まったが、洗濯機選びで苦戦した。なぜならば、自分は全自動洗濯機という存在を知らなかったからだ。元々実家でも一人暮らしシミュレーション以降は自分で選択していたが、実家の洗濯機は二層式で、その時は、洗濯機はそういう物だと思っていたので、洗濯って、こんなにも大変なものなんだなといった感じだった。タイマーは手動だし、水を替える度に部屋から外に出て行かなくてはいけないし、タイマーを知らせるブザーは壊れていてならないし、脱水はうまい事入れてやらないとガタガタ!ガタガタ!と壊れるんじゃないかと思う位のとんでもない音がするし、今思うと、実家の洗濯機はかなり旧式だった。しかしどうだろう。電気屋さんに行ってビックリ。洗濯機はどれも一層式(全自動)ばかりじゃないか。当然、その時の自分には、一層式(全自動)洗濯機の存在は頭のどこにもない訳なので、それを見て、「何これ、脱水機能が付いてない洗濯機ばかりじゃん」と、自分の頭の中でのランク付けは、むしろ二層式より一層式(全自動)の方が下だった。しかしよく見てみると、一層式洗濯機には、どれも“全自動”という文字が書かれているではないか。そしてそこでようやく、全自動洗濯機という、自分にとって革命的な大発明品の存在を知る事になった。危うく、店員に「なんで一層式は脱水機能が付いてないのに二層式より高いんですか?」という、店員には冷やかしとしか思えない、なんだったら店長を呼ばれそうなアホな質問をぶつける所だった。危機を脱した自分は、最初から全自動洗濯機を買うつもりだったんだよ風な顔で、全自動洗濯機をお買い上げした。もちろん、そのまま家に持って帰るというワイルドさじゃ自分にはなかったので、後日、電気屋さんに配送してもらい、取り付けもお願いし、我が部屋は、いっそう狭くなった。というのも、部屋探しの自分の条件の一つに、部屋の中に洗濯機を設置出来るというのがあったからだ。なぜなら、外で洗濯すると音がうるさく、気を使い、洗濯する時間帯も限られてくるし、何より、洗濯している時に隣の人が出てきて、「あ、どうもこんにちはー」「あ、こんにちはー」「今日はいいお天気ですね」「そうですねー、温かくなりましたよねー」「そうそう、天気といえば…」といったトークをなるべく避けたかったからだ。そして洗濯機が来た当日、早速記念すべき第一回目の洗濯をした。プラグをコンセントに指し込み、水道の蛇口をひねり、洗濯機の電源を入れ、ノーマルの洗濯ボタンを押し、少し経って洗剤を入れた。そして数十分後、洗濯完了。いや、なんて凄いんだ全自動洗濯機。この洗濯機自身で洗濯物の重さを計って洗剤の量を割り出すシステム。この洗濯機自身で水を捨て、すすぎ洗いをし、更に脱水まで行うシステム。全自動の“全”の意味は、自分が思っていたよりも遥かに“全”だった。それ以上に、こんな自分自身何もしなくてもいい王宮貴族の様な洗濯は、自分という人間がダメになってしまう気さえした。やはり、今まで召し使いの様な洗濯に慣れていた自分にはそう思えたが、恐いもので、今では王宮貴族システムに慣れてしまい、召し使いシステムなんてありえないと思う自分がいる。一方、未だにそのありえない召し使いシステムを採用している実家に、いかに王宮貴族システムが素晴らしいかを調子こいて伝えると、前までの自分同様、二層式洗濯機が支流だと思っていたらしく、自分は確実にこの人の子だ。そう、その時確信した。
続く...




