後編:新人騎士の高鳴り
皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!
前編投稿からだいぶ間が空きましたが、いよいよ後編でございます。思っていたのと違う騎士団生活に不満を抱える青年・エリオット。彼に訪れる転機とは……!?
本編スタートです!!
※ この企画の開始日である6/22は、企画の主催である橘結衣様のなろう登録日だったとのこと。遅ればせながら、お誕生日(?)おめでとうございます!
「うっ……酷い目に遭った……」
「んな後込みしながらじゃなあ……猫にも『おっ、こいつは弱いぞ』って悟られちまうんだろうなぁ」
引っ掻き傷だらけになって呻く僕を横目に、クラーク団長がさもおかしそうに笑う。いや、この団長ただ後ろで囃し立ててただけじゃん。もっと手伝ってくれたっていいのに『これは新人である坊主がこの騎士団の仕事に慣れるいい機会だ』とか言って……。
「ま、とりあえず酒場の主人も喜んでたしよ、一件落着ってことだ! せっかく一仕事終えたんだし、あいつんとこで祝い酒くらいは奢ったぜ?」
「いいですよ……僕は仕事中なんだから」
本当なら“は”を強めて言ってもよかったくらいだけど、さすがに上官相手にそこまでできるほどの肝は僕にはない──もっとも、クラーク団長ならそんなの気にしなさそうではあるけどさ。
まぁ、第七騎士団に入った時点で何となく覚悟はしてたけどさ……。
* * * * * * *
第七騎士団は、騎士団として認知されないこともある組織だ。主な仕事は城下町の住人に寄り添い、彼らの生活がより快適になるよう計らうこと──要は、町の便利屋みたいなものである。
たまに町の治安を乱す狼藉者を取り締まったりすることもあるけど、実はどの仕事も既に市民たちが自発的に結成している団体のしていることと重なってしまっている。
だから、よっぽど正装していない限り騎士というよりそっちの市民団体だと勘違いされることも多くて、その辺りの子どもたちから「よっ! このまちにはなれたのか、新入りエリオット!」なんて先輩風吹かされることもままある。いや、それ自体は別に、子どもたちも微笑ましくていいんだけど、やっぱりこう……騎士に対して抱いてたイメージが……うん。
「それもあの緩い団長の下じゃなぁ……」
クラーク団長は、はっきり言って“緩い”。
さすがに国王陛下やその近辺にいる方々の前では畏まっていると思うけど、少なくともこの町では本当に、ちょっと身なりがいいだけでその辺りの酔いどれおやじたちと何ら変わらない。酒場で飲んだくれてはホラを吹きあったり賭け事に興じたり、何が面白いのかわからないことで笑ったりしている。僕とかはまだ「騎士らしい威厳がない」くらいで済んでいるけど、団長に至っては酔い潰れてるところを幼子が見ないようにと視線を遮ったりするような有り様だ。
どうやって騎士団長になったのか、不思議で仕方ないよ。
なんてぼやいている僕は、今日は休日だ。国を守る騎士団に休日なんてないんだけど、クラーク団長がいうには『うちは人員が足りすぎてるほど足りてるから、たまには休養日もあったっていいだろ?』とのこと。
『特に坊主は、うちに来てからずっとキリキリ働いてたしな。たまにはゆっくり休め!』
なんて笑ってはいたけど、いざ休むことになると何だかもて余しちゃうな……。ぽっかり空いた時間を埋めがてら、城下町を見て回ることにした。
本意ではなかったとはいえ、ここが僕の仕事場になるんだ。こないだの猫探しでも道を把握してないばかりに手こずったところあるし、やれることはやっておこう!
「そうか、この道を行くと詰所から広場までほぼまっすぐ行けるのか……先輩たちやけに早かったもんな、集まるの。あ、ここのパン屋って酒場で薦められたところかな、ここにあったのか……、ん?」
うろうろ見て回って、それなりに収穫があったと満足しそうになったとき。
なんだか妙な動きをしながら路地に入っていく男たち数人を見かけた。この町じゃ見かけない顔だけど、もしかしたら余所の国で食い扶持をなくした傭兵崩れかも知れない。市門を守る衛兵たちだけでは目が行き届かず、どこかから入り込んで、大体はそのまま町に溶け込むけど、中には問題を起こすのもいるからよく注意するようにって言われていたっけ。
一応持っててよかった──そう思いながら実家から譲り受けた剣が腰に付いているのを確認して、じっと様子を窺う。
すると。
アバーーッ!!!
突然、路地裏に悲鳴が響く!
まずい、周りには僕しかいないぞ!? 恐る恐る声のした方を窺うと、肉屋の店主が男たちに絡まれている……!?
「自分とこの棚に並びたくないだろ、だったら……」
「なっ、何をするだァーッ!」
ゆるさん!と叫ぶ店主の抵抗むなしく、男たちは店内に保管されている金目のものを探して店内をうろついている。うわ……何だ、これ?
思わず後退りしそうになる……けど、それじゃ駄目だ。
思ってたのと違ったって、僕は騎士なんだ!
「ま、待てぇぇ、」
「あぁん?」
震えて、虫の鳴くような声だったのに、男たちはどうやら地獄耳だったらしい。すぐに気付いてこちらを振り向き、柄の悪そうな傷だらけの顔で睨み付けてくる。
「うっ……、」
思わず声が漏れる。
こんな相手どうしたらいいんだ? しかも、見えているだけで3、4人……しかも物陰には更にいるような気配まで!
うぅ、でも……それでも!
「そ、それ以上この肉屋に妙な真似はさせないぞ……!」
見つかったからには覚悟を決めて、せめて肉屋が逃げた時間だけでも稼ぐ──そう腹を決めたときだった。
「ったく、ひとりで突っ走りやがって」
「え?」
すぐ傍でそんな声がしたかと思うと、僕の周りにいた数名の男たちが一斉に武器を取り落として、手を押さえて呻きだした。そして驚く間もなく、開け放たれたドアからドッと押し寄せてきたのは……え、騎士団のみんな!?
普段ぼんやりしていたり団長と一緒になって酒盛りしている印象のあった面々が、手元を押さえている男たちを取り押さえたり店主の安全を確認したり、荒らされた家の見分みたいなことまで始めている。
「え、何これ……」
思わず声を漏らしていると、上から頭を掴むように手を置きながら、クラーク団長が「よっ!」といつものように笑いかけてきた。
「肉屋から悲鳴が上がったって聞いて急いで駆けつけてみりゃ、休みのはずのオメェが傭兵崩れ相手に啖呵切ってるじゃねぇの。休めっつったのにとんだ働きもんだ、怪我はねぇか?」
「えっと、あ、はい」
珍しい姿に呆けていたからか、つい声が上擦る。そんな僕をおかしそうに見ながら、それでもいつもより少し真面目な瞳で。
「お手柄だったなエリオット、よくあの店主を守った」
「────、」
初めて見た、本気の姿。
いつも呼ばれない名前。
普段見ない真面目な顔。
それら全部が、一気に僕の全身を駆け抜けたような気がして。なんだか、それまでとは世界が一変したような、そんな感覚。
「あ~懐かしい、オレもあれでやられたんだよなぁ」
「これであの新入りも、本格的にうちらの仲間入りだな!」
茶化すような、見守るような声がどこかから聞こえる中。
僕は、胸元に着けた第七騎士団のブローチを強く握り締めていた。
前書きに引き続き、遊月です。今回もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪
騎士団というとやはり某移動王国の楽曲を思い出してしまう私ですが、他にもとある魔法使いの小説シリーズに「不死鳥の騎士団」とかありましたね。ちなみに私が小説(もちろん和訳版ですよ)を読んでいたのも確かこの辺りまでだったなと思い返したりしておりました。この辺りのハリ●、若干性格悪いよねなんてことを母と話したり話さなかったりした記憶があります(だからハーマ●オニーも●ンとくっついてよかったんじゃない?みたいな)。
ということでそんな某魔法使いシリーズなのですが、私が推していたのは主人公の母親に片想いし続けて、彼女の死後には忘れ形見である主人公を陰ながら守っていた、無愛想ながらもそこはかとなく漂う陰キャオーラが我々を引き付けてやまないあの先生ですね。あの片想いっぷりったらないわけです。子どもの頃からの淡い思慕を中年といって差し支えないであろう年齢になっても引きずってあまつさえそれに殉じる男……私の大好物ですよ。「●の秘宝 Part2」がテレビ放送されたときなんて、HDDの容量不足から消さざるをえなくなりそうなところス●イプ先生の記憶を辿るくだりだけはDVDに焼いて逃がしたくらいですからね! いや、本当にね……本当にああいう中年男大好きなんですよ(中年ですよね?)
閑話休題。
これは私の性癖の話なのですが、普段はだらしないおじさんがここぞというところでキメる姿って最高だと思いませんか? 私はそう思いました(書けるとは言っていない)。
実はこの企画が催されていた頃、お誂え向きに「いい子だ / 悪い子だ というイケオジ」という概念が私のよく使うSNS上で流行っていたので、それも混ぜ込もうとしたら何だか、(私の)性癖サラダボウルみたくなりました。
カッコいいおじさん、実は私の好物なんです。
ということで、また別のお話でお会いできればと思います。
そして、このような素敵な企画を主催してくださった橘結衣様に多大なる感謝を込めて。
ではではっ!!




