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愚lead  作者: ゆうき目々
3/3

報酬と代償とハンバーガーと。1

少年は夢を見る。姉と、知らない男と女。4人で囲む食卓には暖かいご飯が並べられ、皆が笑顔で語り合っている。

知らない2人に名前を尋ねると笑顔で答える。いつもそこで夢が終わる。

目を覚ましたヒューマ。ここから彼の物語が始まる…。

 


 夢だ。姉と知らない男と女、そして自分の4人で食卓を囲っている。机の上には暖かいご飯。笑顔で語り合っている。

 知らない2人に名前を尋ねると笑顔で答える…。






 新首都東京街-住居地区某所

 とあるマンションの一室。



 目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。

 どうやら生きているらしい。



『ここは…。』

 そう呟きながらヒューマは辺りを見回した。



 知っている女がいる。

 あの革ジャン男と一緒にいた女だ。



『あら?お目覚めね坊や。よく眠れたかしら?』

 流石に室内ではライダースは着ておらず、デニム生地のズボンに薄手のセーターを着た女は優しく声をかけてきた。



『えっと…名前、ヒューマ。坊やじゃねぇ』

 坊や呼びは恥ずかしいので直ぐに訂正したかった。ついでに相手の自己紹介も煽れる。



『そう。ヒューマ君おはよう。私の名前はメルクリア。メルって呼んでくれるかしら?』

 メルは優しい声で望み通りに自己紹介をしてくれた。



 君ってのも小っ恥ずかしい。普通に呼んでほしいもんだが他に聞きたいこともあるしこれ以上はよしておこう。



『それで?何から聞きたいのかしら??』

 メルはこちらの心を読んでいるかのように質問を促してきた。



 そうゆうことならまず1番最初に聞きたいことがある。



『姉ちゃんはどこだ?』

 ストレートに聞いた。姉の姿が同じ部屋には見当たらない。あの状況なら一緒に助けられているはずだ。



『お姉ちゃんのこと、大好きなのね…』

 意味深な笑みを浮かべながらメルが続ける。



『大丈夫、ちゃんと無事よ。今は隣の部屋で治療中なの。でも絶対開けちゃダメよ。』-メル



 それを聞くとヒューマはすかさずメルが隣の部屋と言っていたドアを開けに行った。



『姉ちゃんっ!!』

 ドアを開けると白衣を着た白髪の若い男がベッドで横たわる姉に何かしている。



『てめぇ!姉ちゃんになにしてやがるっ!!』

 思わず白衣の男に飛びかかった。



『うわぁっ!!なんだっ!?』

 白衣の男は急に飛びつかれ驚いた様子でヒューマを振り払った。そして顔を見るや否や深く溜息をついた。



『はぁ〜…。開けるなって聞いてなかったかな?いま君の大事なお姉さんの治療中なんだけど???』

 白衣の男は呆れた様子でヒューマを見ると、手でシッシッと犬を払うような素振りをして姉の前に戻った。



『ヒューマ君、お姉ちゃん大丈夫だから。信じて?さあこっちでご飯にしましょ?』

 メルが少し困った顔で諭してくる。



『姉ちゃんになんかあったらぶっ殺すからなっ!!』

 あの手術室でのことがフラッシュバックし、イラつきが収まらずにいた。この白衣を着た男は別人だ。悪い奴にも見えない。完全に八つ当たりだった。



『おう、坊主。起きたのか。』

 つい最近に聴き覚えのある図太い男の声がする。

 振り向くと革ジャン男がこっちを見ながら立っていた。流石に室内でサングラスはかけていないようだ。



『てめぇ、なんのつもりだ?』

 状況がよくわからない。あの状況だったのでうろ覚えではあるが、この男が俺達を助けたのはわかる。けど何のために?ペンダントはあのクソ野郎を殺して取り戻したはずだ。他に用はなかったはず。



『あん?おめぇ命の恩人に向かってなんだその態度は?あ?コラァ?』

 革ジャン男はマジギレ気味で突っかかってきた。多分精神年齢はそんな変わらないんだろう。ある意味冷静になれた。



『何で助けた?』

 冷静を取り戻し質問を変えた。



 質問が難しかったのか、革ジャン男は険しい顔をしながらしどろもどろしている。



『その〜、なんだ…あれだ。ついでだよついで!』-ガイ



 何とも曖昧な答えが返ってきて拍子抜けだ。



『意味がわからねぇよ…』

 ヒューマが呆れた様子でいると男はまた不機嫌そうな顔をした。



『ガイウスったら、ちゃんと答えてあげなきゃダメでしょう?』

 メルがそう言いながら男の方をじっと見つめる。



『わあったよ、ったく…。あれだよあれ、お前がちぃーっとばかし俺らの仕事に役立ちそうだから連れてきたんだよ』-ガイ



 正直この答えには拍子抜けだった。俺が役立つ?革ジャン男達が何の仕事をしてるかもわからないが、俺ができることなんて[盗む・殴る・走る]くらいしかない。自分で言うのも何だが読み書きは全くできないし、正直言って考えるより先に手が出るタイプで頭もそんなに良い方ではない。



『何だ坊主?そんなに驚いたってのか?』-ガイ



 相当抜けた顔になっていたらしく、革ジャン男ごときに見抜かれてしまった。



『ほんとにそんだけかよ?他になんかないのか?』

 疑心暗鬼だ。それに姉を助けた理由がわからない。仕事だけなら俺だけ助ければ良かったはずだ。



『お前、なんで嬢ちゃんも助けたんだって言いたそうな顔してんなぁ』-ガイ



 また革ジャン男に見透かされた。そんなにわかりやすいんだろうか俺は。



『嬢ちゃん助けたのはな、お前と取引する為だ。』

 革ジャン男はさっきまでと変わり強い目をしている。



『取引って、姉ちゃん人質にするってことかよ??』

 取引の内容を考えてみる。もし断ったら姉ちゃんは殺されるかどっかに売られるんだろうか?今の時点で逃げるには、最低でも目の前にいる2人を動けなくしてから、姉ちゃんを担いで…。そんな画策が頭をよぎる。



『まあ落ち着けよ。そんな人質になんてこたぁしねぇよ。お前がいますぐ嬢ちゃん連れて出て行きたいって言っても別に止めやしねぇ』-ガイ



『ただよ。おめぇもわかってるとは思うが、嬢ちゃんはこのままだとそんなに長くねぇ。そうならない為にゃ、ある程度の環境で治療を続けないとならねぇ。かなり金もかかる。ただここならそれができるってこった』-ガイ



 何となくわかってはいた。この革ジャンの男がそんなに悪い奴じゃないことは。



『つまり取引ってのは、俺があんたらの下で働き続ける代わりに、姉ちゃんのことを面倒みるって事だな?』

 正直願ってもないことだ。俺がこいつらの仕事を手伝えば姉ちゃんを助けられる。



『どうすんだ坊主?中々の好条件だと思うんだがよ?』

 ガイは不適な笑みを浮かべている。勝利を確信したような顔で腹が立つ。だが断る理由もない。



『一つだけ…ひとつだけいいか?』

 この機会にダメ押しで条件付け加えてやる。



『なんだ?言ってみろ?』

 ガイが質問に構えた。



『飯…1日1回は飯が食いてぇ。姉ちゃんと俺2人分。』

 流石に言い過ぎたかもしれない。1日1人分にして姉ちゃんの分だけでも確保するべきだっただろうか?



 ガイとメルが驚いた様子でお互いの顔を見合わせている。



『ブッ、ブッハァッハッハッハッハッ!!』

 ガイが大声で笑う。



 メルもクスクスと笑っているようだ。



『なっ、何がおかしいんだよ!?』

 人が真剣にお願いしたのに笑われている。内容が無茶過ぎてもはや笑えるってことかよ。



『おめぇ面白れぇな!気に入ったぜ!!』

 ガイがやたらと肩をバシバシ叩いてくる。



『よっしゃ、なんなら2人まとめて1日3食飯付きおかわり自由の高待遇で迎えてやるよ!!』-ガイ



『…おいっ!?いまなんつった!?』

 聞き間違いでなければ、1日3食飯付きでおかわり自由だと言っていた。そんなのもう最高じゃねぇか。



『だからよ、3食飯付きおかわり自由、シャワー付きでここに住んで構わねえよって言ったんだ!』

 ニヤつきながらガイは言った。



『今の言葉…ぜってぇ二言ねえな???後から変えるとか無理だかんなっ!!』



『あー無いぜ!よし、んじゃ取引成立だ!!これからビシバシしごいてやっから覚悟しろよ坊主?』-ガイ



『おう、望むところだ!なんでもやってやるよ!!』



 こうしてガイとの取引が成立した。



 〜契約内容〜


 無期限


 仕事を手伝う代わりに姉の治療


 3食飯付きおかわり自由


 風呂付き


 部屋付き


 姉の治療費と2人分の生活費を差引いた報酬を給金とする。



 である。



『さぁ!さっそくご飯にしましょう♪』

 話がひと段落ついたところで、機嫌の良さそうなメルが食事を促してきた。



 椅子の4つ置かれた木製のテーブルにそれぞれ腰掛ける。遅れて白衣の男も部屋から出てくると、そそくさと椅子についた。



『とりあえず、できることは一通りやったよ。あとは心因的なものだろうね。明日には目を覚ますかもしれないし、1年後か、それよりもっと先かもしれないね』

 白衣を着た男がおそらく姉ちゃんのことについて、隣に座るガイに報告している。



『心因的ねぇ。ま、あんなことがあった後じゃあしゃーないわな…』

 腕を組みながら考え込む様子でガイが返事をした。



 姉ちゃんはどうやら目が覚めないらしい。話によると命に別状はないようだが。あんな事があったとはいえ、とにかく無事でなによりだ。



 そんな話を聞いて安堵しているうちにメルが料理を運んできた。



(これ、食えんのか…?)

 産まれてから一度も見たことのない飯が目の前に出された。



 なんとも言えない食欲をそそる独特な香りの液体が、白い飯の(カタワラ)によそられている。匂いだけで美味いものだとわかる。



 そんなふうに目の前に出された飯について考えていると、ガイが意地悪そうにニヤつきながら俺の方を見ているのに気がついた。



『何だぁお前、カレー見たことねぇのか??こいつは世界共通の料理だと思ってたんだがなぁ』-ガイ



 なんだか無性に腹が立ったが、今はとにかく腹が減っているので我慢だ。こんなことで楯突いて、せっかくありつけた飯を取り上げられたら今すぐにでも餓死してしまう。



『では食べましょうか♪』

 カレーという飯の乗った皿の横に、色んな生の野菜が入った皿を置いたメルが隣の席に座った。



『さ、どうぞ召し上がれ♪』

 メルは笑顔でそう言うと、さっそく横にある銀色の食器を器用に使いながら生野菜を口に入れた。



 白衣の男もガイもそれぞれ銀色の食器でカレーや生野菜を食べ始めた。



『食わねぇのか??冷めちまうぞ?』

 ガイはそう言いいながら、目の前の皿の中身を一瞬で平らげそうな様子でモリモリと食べている。



 食器が使えない。今まで箸か手でしか食べたことがなかった。とにかく初めて見た高価そうな食器を使いながら、見よう見まねで食べてみる。



『うめぇ…。』

 産まれて初めて食べたカレーという飯に感動した。泣きそうになるほどおいしい。



 横に座ったメルが優しそうな顔でこちらを見ているのに気付き、慌てて顔を逸らした。



『どう?美味しい?』

 メルは笑顔でそう問いかける。



『うめぇ…正直めちゃくちゃうめぇよ…』

 震えた声でそう答えるとメルは嬉しそうに微笑んだ。



『大盛りでおかわりだっ!』-ガイ



『はいはい♪』-メル



 ガイは飯を平らげた皿をメルに渡してからコップに注いだ水を一気に飲み干した。



『そういやぁ坊主、自己紹介がまだだったな。改めて…俺の名前はガイウスだ。好きに呼んでくれ』

 唐突にガイが自己紹介を始めた。



『んで、こっちのひょろいヤブ医者が…』

 そう言いながら白衣の男の方の肩を叩く。



 白衣の男はめんどくさそうに自己紹介を始めた。

『はぁ…。リアンだよ。ちなみに僕はヤブ医者じゃなくて立派な軍ィ…あー、じゃなかった。と、とにかくあんな医者もどきと一緒にされたら困るからね!!』



 まったくもうと言わんばかりの様子で、自己紹介が終わるなり食事を再開した。



 医者もどきというのはきっとアイツのことだろう。俺が八つ当たりしたのを気にしているのだろうか??



 その前に言いかけていたことも気になるが、こちらも自己紹介を返すことにした。



『俺はヒューマだ。』

 なんだか恥ずかしかったのもあり、できるだけ簡単に済ませた。



『よろしく頼むな!坊主!』-ガイ



 名乗ったのにも関わらず坊主呼びだ。この男には何を言っても無駄な気がしたのでとりあえずスルーした。



 そうこうしているうちに食事も終わり、リアンは姉ちゃんのいる部屋に戻り、メルは食器を下げて洗い物を始めた。



 俺はガイと今後について話した。



『坊主、お前にはまず仕事をするにあたって足りねぇもんを補ってもらう。そうだなぁ、とりあえず2年ちょっとはその時間に当てるぜ』

 ガイが満腹そうな様子で腹をさすりながら話してきた。



『ちょっとまてよ。まだどんな仕事かも聞いてねえのにいきなり足りねぇとか言われても何のことかわかんねぇよ!しかも2年って仕事始まる前に姉ちゃんが目覚ますかもしれねぇだろ?』



 疑問に思ったことを問いただすと、待ってましたと言わんばかりの様子でガイが答えた。



『けっ、オメェに足りねえのはそうゆうとこだっつんだよ。仮に嬢ちゃんが先に目覚めるんなら別にそんときゃそんときで考えればいい。また元の生活に逆戻りしてぇんなら止めやしねぇよ。』-ガイ



 少し言い方が癪に触るが、たしかに元の生活には戻りたくない。もし姉ちゃんが目覚めたとしてあんな生活をしていれば、またいつ悪くなってもおかしくない。ガイの言うとおりだ。



『おう、わかったかよ?んじゃ話つづけるぜ』

 ガイはこちらの納得した様子を察したように話を続けた。



『さっきも言ったが、足りねえ事を補ってもらうって事を前提にするとしてだ。その上で仕事をするまでに最低でも2年だ。それ以上はあってもそれ以下はねぇ。』-ガイ



『仕事って具体的には何すんだよ??』



 改めて疑問を問いかけるとガイは先にも増して待ってましたと言わんばかりの呆れ顔をして答えた。



『ったく、オメェは話の腰をいちいち折るんじゃねぇよ。俺がお前に話しても問題ねぇと思ったら話すってんだ。それから人の話は最後まで聞け』-ガイ



 静かに頷くと、ガイはそのまま話を続けた。



『2年間お前には、俺が直々に修行をつける。それからたまにメルクリアとリアンからも学んでもらう。その上でだ。守らなきゃならねぇルールがある』-ガイ



 ルールか。少し唾を飲み込みながらガイの言葉に耳を傾ける。



『いいか?まず俺が許可したとき以外は今後一切ひとりでの外出はダメだ。それから俺たちの事、ここに住んでいる事の口外も禁止。この2点は絶対のルールだ。必ず守れ。』

 少し強い口調でガイは言う。



 ほぼ軟禁に近い状態ってことか。

 つまり、俺みたいなガキを匿ってるって知られたくないわけだ。そりゃ無理もねぇ。こちとら物心ついたときからずっと盗みやスリを繰り返して生きてきてんだ。面倒見てもらう以上、迷惑はかけられねぇ。



『ああわかった。約束するよ』

 素直にそう返事をした。



『まあ2度は言わねぇ。しっかり守れよ。』

 ガイはそう言うと具体的な修行の内容は特に話すことなく、今いる街の説明と俺のことについて、いくつか質問をしてきた。



 ここはどうやら俺らが住んでいた難民地区からは壁を隔てて都心部側に位置する地区らしい。つまり富裕層達が住む事を許されている街だ。こっちでは、俺が元々いた難民地区より向こう側を[外]壁を挟んで今いるこっち側を[内]と呼び分けているらしい。



 距離はそんなに離れてないが、それだけでずいぶんと遠くに来た気がした。



『それでよ?オメェと嬢ちゃんはどうしてあんなところに住んでたんだ?』-ガイ



『なんでって…そりゃ金がねえからだよ。あの街にいるやつは、あんたらの言葉で言う[内]側から出てきてる商売人か、悪い事してる連中以外は、だいたい似たようなところに住んでる。あの街じゃ大人だってろくな仕事はねぇからさ。姉ちゃんが元気なときは、しょっちゅう山のほうまで行って、食えるもん取ってきたりしてた。』



『親はどうした?最初からいなかった訳じゃねぇだろ?』

 ガイがそう質問をすると、台所のほうからメルがやってきて話を割り込んだ。



『あらあら、この人ったらほんとにデリカシーの欠片もないわね。人それぞれ色んな事情があるのよ。ごめんなさいね、ヒューマ』-メル



『あ、あぁそうかっ!わるかったな!』

 ガイが少し悪びれた様子で謝ってきた。



『別にいいよ。親は…知らねえ。俺が小さいころは姉ちゃんと一緒にジジイの家にいたけど』

 ぼんやりした記憶をたどった。俺と姉ちゃんとジジイ。ほんとのじいちゃんかわからないが、とにかく物心ついた時には姉ちゃんと一緒にそいつのところにいた。



『そのジジイはどうした?』-ガイ

 ガイが質問すると、横のメルが呆れ顔で頭を抱えていた。



『ジジイは死んだ。死んでからは姉ちゃんと一緒にこの前んとこに移り住んだ。』

 そう。ジジイは死んだ。おそらく病気で。姉ちゃんが泣きながら墓を作っていたのを覚えてる。先の出来事を除いたら、姉の涙を見たのはそれっきりだ。



『そ、そうか…なんだぁその…わるかったな?』

 ガイは困ったような様子で頭の後ろを掻いている。ほんとにわざとやってるのかと思うくらいデリカシーの欠片も無いが、別に然程気にしていない。



 それからはもうあれこれ聞かれることもなく、ガイは外へと出掛けていった。メルは掃除やら洗濯やら家事をしていて、手伝うかと聞いたが『ゆっくりしてて』とのことだった。



 姉の顔を見るためにリアンの部屋兼病室にしばらくいたが、俺がいると部屋の主はあまりおちつかないらしく(読んでいた本を何度も取り替えたり、コップの中身をこぼしたりしていたので)、割と早めに部屋を出てやることにした。



 この家の間取りは、だいぶ大きくつくられている。広めの個人部屋が3つ(おそらくは先住人の3人がそれぞれ使っているであろう部屋)に、シャワールームとトイレ、さっき飯を食ったスペースの横に、目が覚めたときに寝ていた大きめのソファーが置いてある居間がある。ベランダからは、周りのビル群や、首都の内と外を隔てる為に作られた馬鹿デカいコンクリの壁がよく見える。ベランダだけでも元々住んでいた部屋より広い気がする。



 夕日で赤く照らされたベランダで、柵に手をかけて深呼吸をした。



(ほんとに遠くまできちまったな。あいつら元気してっかな…)

 特にやることもなく、そんなことを考えながら過ごした。



 日が落ちてからガイが帰宅し、また同じ席に座って皆で夕食を済ませた。(ちなみにメルは中々の料理上手らしく、夕食は焼いた肉や野菜などが出てきたが、どれも文句なしに美味かった)



 食事が終わるとリアンはそそくさと部屋に戻っていき、メルは洗い物をはじめた。ガイはなにやら見た事もない四角い機械を、でかい手を器用に動かしながらいじくり回している。



『それ、なんだよ?』

 気になったので触っている機械について質問した。



『お?これか??こいつはスマホってやつだ。この辺じゃみんな使ってるけどな』-ガイ



 なるほどな。どうやら俺の知らないことがこの世界には多過ぎるらしい。きっと物知りのケイトも知らねえだろうな…。



 そういやあいつらとは[また明日]って言ったきりだったか。今頃大騒ぎして探してんのか。あれから何日経ってるかもわからないが、アイツらのことだから今頃は街中探しまわってるに違いねえな。無茶してなきゃいいけどよ。



『なぁ、一つだけ頼んでいいか?』

 そんなことを考えながらダメ元でガイに頼んでみることにした。



『なんだ?改まって?』-ガイ



『難民地区にダチがいんだよ。一度でいい、会いに行かせてくれねぇか?』



 ガイは考えた様子で黙った。しばらくして口を開く。



『会ってどうすんだ?会ったとしてもてめぇの今の状況も、ここに住んでることも話せねぇ。たとえお前が今までより幾分かマシな生活することになるからって、そいつらは変わらず[外]で今まで通り生きる訳だ。俺がそいつらの面倒も見てやる義理はねぇし、むしろ残酷な話なんじゃねぇのか??』-ガイ



 少し考えた。会ってどうしたい?俺いまアイツらに会ったからといって、次に会える保証はない。それに俺だけが良い思いをしてるのも事実だ。無茶しないように俺が無事な事をただ伝えればいいだけだ。それに今後もアイツらは飢えを凌ぐために、盗みやスリをしながら生きていくだろう。捕まって酷い目に遭わされるかもしれねぇし最悪殺されちまうかもしれない。



 色んな考えが頭を回った。心配、罪悪感、姉ちゃんの事。



『じゃあ、わたしが無事を伝えてこようかしら?』

 メルが察したかのように提案してきた。



 結論は出た。今は直接会うべきじゃないだろう。ただ無茶をしないでくれればそれでいい。



『俺は無事だ。でも今はまだ会えない。けど必ずまた会える。そう伝えてほしい。』



『わかったわ。たしかに伝えるわね』

 メルはそう言うと伝えてほしい人物の特徴を聞いてきた。



 3人の特徴やよく集まっていた場所などの情報をできるだけ事細かに伝えた。



 今はまだ会わなくていい。まずは姉ちゃんを何とかする。ただいつかは必ずアイツらの力になる。そのためにここでがんばらねえと。



 ヒューマの決心も固まり、いよいよ修行の日々が始まる。






 〜つづく







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