08
最近、彼女の束縛が少し強い。いや少しじゃない、かなり強い。
最近は頻繁にLineが来ることが多く、やれ今なにしてるのだ、やれ今日のスケジュールはなんだと聞いてくる。仕事場でも周りの目を気にしなくなりはじめ、やけに俺にデスク周りにいることが多くなった。
恋が始まるのも突然。だから恋が冷めるのも突然なのかもしれない。
「別れよう」
彼女の部屋で、そう告げる。正直、束縛が強いタイプはダメだ。一人の時間が欲しい時も彼女は構って欲しがり、常に一緒にいたがるようになった。いつからかそれが煩わしく感じ始めた。
だから別れを告げる。
「……ちょっと待ってて」
そういって彼女は寝室へ向かう。え、俺は何を待つの?
しばらくすると彼女は金属バットを持ってこちらに戻ってきた。
「――は?」
彼女はためらいなく、そのバットをこちらへ振り下ろした。頭を殴られた俺はすぐに意識を手放した。
しばらくして意識を取り戻す。床に転がされており、耳からはブーンと車が走る音が聞こえる。
「……うっ」
目をあけると、そこは真っ暗闇で車で運ばれているということだけ分かる。手足は縛られまともに動くことが出来ない。
「いって……」
頭が痛い。あの女は躊躇いなくバットを振り下ろしてきた。殴られた箇所がまだ痛む。その状態で辺りを探るが、とにかく乗り心地が悪いということしか分からない。
「……車のトランクか?」
窓もシートも無く車で運ばれている状況から、それしか考えられなかった。昔読んだ記事でトランクを内側から開けるのは難しいと読んだことがある。
くそっ
必死になって何かないか探すが手足を縛られた状態では、うまく体も動かせない。
「おい! 誰か! 助けてくれ!」
必死に大きな声をあげるが反応がない。このまま車で運ばれていくことに嫌な予感しかしない。
まずい、まずい、まずい。
しばらく声をあげたり、脱出する方法がないか探っていると車が止まった。
カツカツという足音が近づいてくる。
まずいまずいまずい!
パカッという音と共にドアが開く。外は既に真っ暗闇だが、やけに彼女の顔が鮮明に見える気がする。
「あ、起きてる」
「おい、ふざけるな! 何考えてるんだ!」
「……よいしょ、っと」
こちらを無視して、俺を雑に持ち上げて引きずりながら移動する。地面にこすられて痛い、やめろ!
ようやく止まり、彼女がバックの中をゴソゴソと漁りだす。中からは以前みた鍵の束が出てきた。そのうちの一つを使い、目の前にあるコテージのドアをあける。
きぃぃ、というドアが開く音。
まずい、この中に連れ込まれたら本当に終わってしまう。ドアの向こうの暗闇がそう予感させる。
「おい、やめてくれ! 俺が悪かったから!」
そんな俺の言葉を無視して、彼女が俺を引きずりながら中に入る。椅子に座らされ、鉄の鎖で更に縛られた。彼女は、目の前にある机の上に俺の携帯を立てかけ録画を始める。
「みててね」
「おい! 話を聞けって!」
彼女は木材を斬るような、骨切り鋸を持ち出してきた。
「やめ、やめてくれ!」
彼女は俺の首に、鋸の刃をつける。そしてそのまま一気に横に斬り割いた。
「君は……こういう子が好きなんだよね?」