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「ヤンデレはいいぞ」
場所は会社の喫煙室。そこで後輩と二人で一服していた時に、ふと昨日見つけた漫画にいた女性について話し出す。
「なんすか急に」
「昨日漫画に出てたヒロインがヤンデレだったんだが、ゾクゾクする感じがまたいいんだ」
喫煙中の他愛もない雑談。
「なんすかヤンデレって」
「ヤンデレっていうのはな、病んでる女の子のことだ。相手を好きすぎるあまりに、いじめたり殺しちゃうとか、そういうやつ」
「それ、何がいいんですか?」
いいから黙って家に帰ったら読んでみろと、お勧めの漫画を伝えておく。
「俺、普通にツンデレとか、そういうのがいいっすわ」
「ツンデレなんて、現実には養殖しかいねーよ」
よく考えて欲しい。普段ツンツンしてるのに二人っきりのときだけデレデレするやつなんて狙ってやってるとしか思えない。
その点、ヤンデレは欲望の延長線上にあるといっても過言ではない。
一人でいるのが辛くて『寂しい』というLineを相手に送る依存型のヤンデレ。それが100件以上になったりするだけだ。
相手が心配で何をしているか常に確認をしておきたい過干渉型のヤンデレ。それが自分無しでは生きられないようにするところまで持っていくだけだ。
相手が好きなあまり他の人に取られたくないとなる独占型のヤンデレ。それが同性だけでなく家族とかも含まれてくるだけだ。
好きな人を自分のものにしたいという欲求から少し攻撃的なヤンデレ。それが人殺しまで発展してしまうだけ。
ヤンデレは、人間の欲望の延長線上にあり、愛ゆえに狂ってしまう。それがヤンデレ。
「そこの二人! いつまで休憩してるんだ、仕事に戻れ!」
「は、はい!」
つい熱くなってしまい、休憩時間をオーバーして女性上司からお叱りが入ってしまった。
「……主任のあれは、ツンデレですかね?」
「違うアレは、ただの怖い人だ」
俺たちは、いそいそとオフィスへ戻った。