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戦いの合図は教会の鐘で 5

「どうしてロベルト様がサインを……」

 ロベルトのような立場の人間がサインをするなど、普通はありえないことだ。


「いつまでたっても結婚のけの字もないお前に頭を悩ませて、このような強硬手段となったようだな」

「強硬手段にも程があるだろう!」


 手にしているものを今すぐに破り捨てたくなる衝動をカメリアはどうにか押し止める。

 ロベルトが見届け人としてサインをしているということは、つまりこのカメリアとセロイスの婚約は王命ということになる。


 いつまでたっても結婚する気のないカメリアにも問題があるとは言え、王命をもって婚約を命じるなど、これまで聞いたことがない。


「大体、どこに結婚を前提に初夜を迎えろという人間がいるんだ!?」

 これでもカメリアは十六歳の年頃の娘だ。

 いくら結婚する気がないとは言え、さすがにこんな状況になるとは予想していなかった。


「今更かもしれないが、年頃の娘があまり初夜などと叫ばない方がいいと思うぞ」

「それこそ、今更だろう!」


 順番どころか何もかもがめちゃくちゃなこの状況で、カメリアからしてみればそんなことはささやかなことにすぎない。

 むしろ、そんなことを気にしている余裕などカメリアにあるはずがなかった。


「第一、私は己の剣を捧げて騎士になると決めた時に、女であることを捨てたんだ……騎士である私が結婚など考えるわけがない」


 騎士となったあの日、カメリアは決めたのだ。

 己の全てをもって、この剣を捧げると。

 女であることを捨てて、騎士として生きていくと。


(それなのに……)

 無意識のうちに手を強く握り締めるカメリアの姿をセロイスは横目で見ていた。


「だからこそ、こんなことになったんだろうな」

「それを言うなら、お前もだろ!?」


 落ち着いた様子を崩すことのないセロイスにカメリアは苛立ちを覚えた。

 何故なら、この事態を招いた原因はセロイスにもあるからだ。


「聞いているぞ。お前は自分に来る見合い話をすべて切って捨てるように断り続けているらしいな」

 セロイスはその整った容姿から女性達からの人気が高く、さらにこれまでに数多くの騎士を輩出してきた歴史ある騎士の名家の出でもある。


 ――整った容姿に高い家柄。

 これでセロイスをほうっておく女性の方が珍しいだろう。

 実際にその人気ぶりは、セロイスに興味のないカメリアの耳にも届いている。


「切って捨てるとは心外だな」

「心外も何も、本当のことだろう。噂は私でも知っているんだ」

「どんな噂かは知らないが、俺はずっと想っている相手がいる。だから、見合い話を断っているだけにすぎない」


 剣一筋のセロイスが誰かに恋心を抱いて、その相手を想い続けているということが、カメリアにとってはひどく意外なことに思えた。


「そんなに驚くことか?」

「正直、驚いた。お前にまさか想う相手がいるとはな……」

「そういうものか」


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