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重なる想い、重ならない想い 1

「どこに行っていた?」


 城へ帰ってきたカメリアを出迎えたのはセロイスだった。

 先程のこともあって気まずさを感じるカメリアだったが、何故セロイスがいるのか。そんな疑問を抱くカメリアにセロイスは答えた。


「お前を待っていた」

「私を?」

「あぁ、行くぞ」


 セロイスはカメリアの腕をつかむと歩き出した。

 こうして腕をつかまれたことはこれまでにもあったが、どういうわけかひどく落ち着かない。


「腕を引かれなくても私は歩ける」

「さっきのこともある。それにどこかに行かれてはたまらない」

「私は子供じゃないんだ……」


 セロイスはカメリアの言葉を無視して歩いていくが、進む先はロベルトの執務室とはまったく違う方向だった。


「おい、どこに行くつもりだ? それに兵の指導は、ロベルト様の護衛はどうしたんだ?」

「俺達の仕事なら、今日は他の騎士達が担当している」


 先程のことを理由にすれば、カメリアを護衛からはずすことは簡単だ。

 そしてセロイスはカメリアの婚約者であることを理由にして護衛からはずしたのだろう。


 同じ騎士という立場にいるならば、婚約者の不手際として責任を問うことができる。カメリアだけでなく、若くして蒼の騎士となったセロイスを妬む者にとって、今回のことは絶好の機会だっただろう。


「……すまない」

「なぜ謝る?」

「私のせいでお前にまで迷惑をかけてしまったからだ」

「お前が騎士であるのは、お前の実力あってのことだ。ちがうか?」


 セロイスのその言葉は今のカメリアにとって救いであると同時に、カメリアの胸を傷付けるものだった。

 たとえセロイスは言うように実力があったとしても、カメリアを騎士であるとは認めてくれない。騎士であることを認めてもらえないのであれば、騎士ごっこにあけくれる子どもと変わらない。


「……それより兄上はどうしたんだ?」

「ルベールに頼まれた。お前を守るようにとな」

「兄上が、そんなことを……」

「そうだ」

 セロイスは足を止めるとカメリアを見た。


「だから、俺はお前を守る。お前を守ることが、ルベールの願いだからな」

「……兄上の願いならば、お前は何でも聞くつもりなのか?」


 カメリアからの問いかけにセロイスは少し悩むと、やがてゆっくりと口を開いた。


「俺に叶えられる願いなら、きっと俺はそうするだろう……それくらいのことしか出来ることはないからな」


 そう言ったセロイスはどこか寂しげに目を伏せた。

 再び目を開けたセロイスに先程までの表情はなかった。

 そこにいたのはひとりの騎士であり、そして蒼の騎士であるセロイスだった。


「お前はここ数日に起こったことをどう考える?」

「同一人物による仕業と考えるのが、妥当なところだろう」


 ここ数日間のできごとをただの偶然で片づけてしまうには、あまりにもタイミングが合いすぎている。

 ルベールと共にいた青年がこの件に関わっているのだとすれば、ルベールに近付いたのは何らかの情報を引き出すためだろう。


 ルベールがそう簡単に情報を漏らすとは思えないが、青年と関わりがあったことがあきらかになれば処罰の対象となるかもしれない。


「しかし、一体何が目的なんだ?」

「ルベールが言ったように、王子を狙ってではないのか?」

「だとすれば、大勢の目の前で、わざわざあんなことをするか?」


 あれでは逆に自分の手の内と、狙いがロベルトであると皆に知らしめているようなものだ。暗殺というにはあまりにもお粗末すぎる。

 何か別の目的があるにしても、別の目的とは一体何なのか。


「……目的がお前だとは考えられないか?」

「私が?」

「あの場にいたのは、俺とお前の他にルベールとロベルト様だけだ。更に言えば、ロベルト様の一番近くにいたのはお前だ」

「だから狙われているのは、私だと? しかし私を狙ってどうなる?」

「言いにくいが、お前を妬み、お前の持つ地位を狙う者はいくらでもいる。そうした奴らの仕業の可能性を否定することはできない」


 カメリアがいなくなれば、紅の騎士の椅子はたしかに空く。

 しかし必ずしもそこに座れるとはかぎらない。

 そんな確実に手に入るかわからないもののために、カメリアを狙うだろうか。


 この件には何か裏があるのではないか、カメリアはそんな気がしてならなかった。

 セロイスも何かを感じ取って普段以上に言葉が多いこともあってか。

 互いの距離が近いように感じた。


(私を守ろうとしているのか)


 セロイスがカメリアの隣にいるのは、ルベールの願いを叶えるためだ。


(そんなにもセロイスは兄上のことが……)

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