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ホシタネの短編集

インサイド・シティー

作者: ホシタネ


 いつから疑念を抱くようになったのだろう。



 時計のアラーム音で目を覚ます。いつも通り6時丁度にだ。これは体に染み付いてしまっている。

 起きてリビングに行き、テレビをつける。これもまた習慣だ。ニュースをしていた。最近続いている連続行方不明事件について色々と考察を議論していた。

 ニュースを耳で聴きながら、スーツに着替えて鞄を用意し出勤の準備をする。いつものことだ。朝食もササっと済ませて、7時に家を出る。当たり前のことだ。

 会社に入り、自分の席について処理する。特になんと言う事もない。やがて課長に呼ばれて会議に参加する。


 …何故疑念を抱くのだろうか。


 何かが可笑しいのか、或いは自分が可笑しいのか。兎に角この当たり前の続く毎日がどうにも違和感を感じずにはいられない。そしてやがてとある事に気づいた。


 同じ事を繰り返している。


 会議は確か昨日もした筈だ。もっと言えば、かつて自分が7時ジャスト以外に起きた事がない。異様だ。だから違和感を抱いていたのだ。


 目の前では今も会議が続いている。何故か昨日と同じ話題、もっと言えばもう一週間も同じ話をしている。


 それでも最初はそれが当たり前だと思っていた。だから疑念を抱く余地など無かった。それなのに、いつからか疑念を抱くようになって、こうして違和感に襲われている。


 この可笑しい状態は狂っている。そうとさえ感じ始めていた。だから、行動に移した。


 会議の真っ最中に起立し、会議室を出たのだ。


 課長が驚いて止めようと大声を上げている。そうだ。それで問題無い。これまでと違う行動を取れば、課長もその事に気づくかもしれない。そう思った。そして、



 次の瞬間、自分は海の中にいた。



 「!?」


 スーツはそのまま海の中にいたのだ。ついさっきまで会社の中にいたのに。そうして考察をしている間にも、少しずつ息が出来なくなっていく。自分は泳げない。しかも相当深いところらしく、かなり暗い。生還は絶望的と言わざるを得ない。


 そして、何が起きたのか分からないまま自分はひっそりと目を閉じる。最期、脳裏に浮かんだのは行方不明になった母と妹の顔だった。



 …間一髪だったと思う。あと30秒放置していれば崩壊していたかもしれない。


 何の話かと言うと、三日前に某有名ゲーム会社が発表した新作だ。都市開発シュミレーションと言うのは過去作と一緒だが、今作はAIを搭載したことで行動パターンが無限大に広がっている。リアルに近づけるこの設定は評判を呼んだ。


 ただ、一つだけ欠点があった。それは、ゲーム内のNPCにも自我があり、ゲーム内である事を察知しかねない事。一つのNPCがそれに気づくと、瞬く間に他のNPCに伝播していきその内ゲームが崩壊する。


 だからこうやって疑念を抱くNPCを駆除しなければならない。大変な作業だが、しかしこのゲームの完成度が高いのは言うまでも無いので、誰もそこに文句を言う事は無い。


 さて、さっきの奴の所為で何人か疑念を抱くNPCが出来てしまった。順にカーソルを合わせて海のど真ん中に落としていく。これで良い。これでまた俺の世界は秩序を取り戻してゆく…。













 -貴方はこの世界が架空ではないと断言出来ますか?-

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