花は美しいでしょう?
僕は植物を育てるのが好きだ。
植物を育てている人は沢山いるけど、僕みたいに植木鉢にこそ美学を持っている人も少ないだろうね。
実用的な植木鉢を使っている人もいるし、100円均一の植木鉢を使ってる人もいるけど、僕は貧相な植木鉢に植えてあったら植物の魅力が下がってしまう気がするんだ。
芸術は安っぽい額縁にいれたら勿体ない。
綺麗な額縁に入ってるから絵がより際立つのと一緒。
だからね、何かって言うと……
僕は人間を植木鉢にしているんだ。
色んな植木鉢を試したけど、これが一番芸術的なんだよ?
それに機能的なんだ。
水の代わりに血液を吸って成長するから、水やりもしなくていい。
普通の植物は人間の身体に植えても発芽しないんだけど、僕は植物の遺伝子を改良して人間に寄生する植物を作り上げた。
元々ほかの植物に寄生する植物だったんだけど、それをまずはネズミに寄生するように遺伝子組み換えで作って、その次はネコ……って感じでやったら人間でも大成功。
実はね……そうしようって思ったのには理由があるんだよ。
僕の結婚した女性がとんでもない人だったんだ。
最初は共働きで家計を支えようって話だったのに、結婚して少ししたら勝手に仕事を辞めちゃって「私は専業主婦になる」とか言い出したり
僕の稼いだお金を我が物顔で使ってブランド物とか、美容代とか、コスメとか買いあさっちゃって、挙句の果てにはこっそり借金まで作ってたり
僕の大切な植物とかフィギュアコレクションを「気持ち悪い」とかって理由で勝手に処分しちゃったり
極めつけは浮気したりとか、もうとにかくやりたい放題!
離婚するにも色々手続きとらないといけないからとにかく大変なんだよね。
そんな中、僕は唯一捨てられなかった植物を見ていて
「植物はいいなぁ、静かだし、水と肥料と太陽の光だけで僕を楽しませてくれるのに」
って思ってた時にひらめいちゃったんだよね。
妻を植物状態にしちゃおうって。
そうだよ。黙っていれば綺麗なんだから、黙っていればいいんだ。
高嶺の花なんて言われていた妻の性格は花のように可憐ではなかった。
花のように美しいのは容姿だけで、中身は下水道みたいな人だった。でもその下水の匂いに気づかなかった僕も悪かったのかなぁって思って反省してる。
殺して始末してしまっても良かったんだけど、せっかく外側は綺麗なんだからそのまま植木鉢になってもらうことにした。
脳を人為的にちょっと弄ってね、植物状態にしちゃったんだ。
妻はお酒に弱いし、そこに睡眠薬を数個混ぜ込めば意識は簡単に混濁させられる。
昔のロボトミー手術のやり方を調べてね、目と瞼の隙間から……なーんて、細かく説明しなくてもいいか。
表立っては妻は精神を病んでしまって自殺未遂をしてこうなったことになってるから。
僕はいろんな場所に種を植えてみたんだ。
皮膚が厚いところと薄いところとか、動脈の近くとか静脈の近くとか、お腹を開いて内臓に植え付けてみたりとか、色々してみた。
内臓に植え付けたのが根付いて、僕の妻のお腹には小さい苗が出来ているんだよ。
お腹の開いた部分は閉じておいたから、お腹から植物の苗が出てる状態だね。
しかも人間に寄生する植物の良いところは、人間は恒温動物だから寒さに強く育てることができるってことなんだ。
妻の方は点滴してるけど、思ったより植物の成長が早いから妻の容姿を保つのは大変だよ。すぐに頬がこけてきちゃうし。
もう目覚めることはないんだし、栄養剤に油とか糖分を混ぜてみたり、試行錯誤してる。
僕は毎日妻の植木鉢の植物を見て、心穏やかに暮らしているよ。
こんなに穏やかな気持ちは結婚する前以来かな。
本当、僕って女性を見る目がなくて嫌になっちゃうね。
でも、皆植木鉢にしちゃえば中身なんて関係ないし、いいよね?
性格がどんなに汚くても、外見だけ綺麗なら中身なんて血と内臓の詰まった皮袋に過ぎないんだからさ。
あぁ、この寄生植物がもっと大きくなったら植え替えしないと駄目だね。
これより大きい鉢にしないといけないから、今度は太ってる人でも引っかけてこようかな。
太ってる人って謙虚な人と傲慢な人がいるけど、なんであんなに極端なんだろう。
太ってて傲慢な人は植木鉢にはピッタリだね。
元の脂肪が沢山あるから暫くは植木鉢として持つだろうし。
売れ残りの肥満女性を引っかけてこようっと。
僕は血のような真っ赤な花を咲かせてくれるのを楽しみにしているよ。
***
「警察だ!」
警察が男の家に踏み込んだ時、むせ返るような血の匂いと甘い花の匂いがした。
奥の寝室に近づくほどにそれは強烈になり、寝室の扉を開けると酷い血の匂いと、嗅いだこともないほどの強烈な甘い匂いが警察の鼻孔をつく。
ざっと見て6人の人間がいる。全員、身体のどこかしらかから植物が生えている。
「……全員、かろうじて生きているみたいですね……なんなんでしょう、この植物……」
「これを生きているというかは怪しいがな……ホシにも植物が生えているな……これは尋問にはならなそうだ」
ホシ……容疑者の頭には頭蓋骨を突き破っているような太い植物が1本生えていた。
これはもう脳が浸食して壊れているかもしれない。
そのホシの男は満足げな笑顔を浮かべて、よだれを垂らしてどこか虚空を見つめていた。
END