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狂った世界に私はいらない、狂った私に世界はいらない  作者: 毒の徒華


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美しいままがいいでしょう?




 僕の趣味は標本作り。


 子供の頃から昆虫を捕まえて来ては標本を作っていた。

 最初は蝶、それからカブトムシ、クワガタ、コガネムシ……


 もう少し大人になってからは昆虫だけではなく、鳥類や哺乳類の標本を作るのに夢中になった。


 美しい姿そのままに、永遠に僕のものになるという感覚がたまらなく気持ちよくて、満足感があった。

 特に僕のお気に入りは孔雀の標本であった。

 あの美しい羽根を広げた状態で標本にして、僕は何日もそれを眺めて満足してた。


 正規のルートでは手に入らないので、僕は動物園で働いていた。

 そこで死んだ(殺したというべきか)孔雀をこっそりもらってきた。闇売買でも手に入るけど結構値段が張る。


 それで暫く満足していたのだけど……


 僕はある日、とても美しい少女を見つけた。

 長いサラサラの黒髪、ぱっちりとした大きな瞳、白い肌、柔らかそうでそれでいて細い四肢。

 年齢は多分、6才くらいだと思う。


 よく両親と一緒に動物園にくる少女で、少し見ないうちに少女の成長は目覚ましく、身長が少しずつ伸びて行って、少女の面影を残すことのない醜い別の生き物になっていってしまう。

 今は白い肌もシミやくすみだらけになり、張りのある皮膚は弛み垂れ下がってしまい、やがて大人の女になれば神聖さも失われるだろう。


 僕は、その少女を一刻も早く標本にしようと決めた。


 そう決めた僕は計画を立てた。


 まずは少女の両親に軽く顔を覚えてもらう程度に話しかけることを考えてた。


 少女のお気に入りの動物は兎だ。

 兎はふれあいコーナーがあるので、僕はそこの担当になれるように上司に交渉した。


 しかし、そう簡単にはいかなかった。

 兎の担当は足りているとのことだったので、僕の意見は通らない。


 なら、兎の担当が足りなくなればいい。


 兎担当の職員の車に細工をして、兎担当を交通事故に見せかけて殺した。

 どうせ事件にはならない。

 車の整備不良での死亡事故として扱われるだろう。


 突如いなくなった兎担当のポストに僕は見事に滑り込むことに成功した。


 兎担当になって、ふれあいコーナーで少女とその両親に接触する。


 変に馴れ馴れしくせず、爽やかに僕は対応した。

 それを3度……5度くらい繰り返したときに、季節は夏になる前だった。


 僕は夏に向けて「熱中症対策としてお客様に飲み物やアイスをお出しするのはどうか」という提案を上司に事前にしておいた。

 上司はそれを前向きに検討してくれて、アイスは難しいとのことだったがジュースなどを売る売店を夏の間だけ設置することになった。


 兎のふれあいコーナーは室内にあるため、お客様もそこで水分補給をして休憩できるという訳だ。


 そこで、僕は少女とその両親が来た時に、両親の方の飲み物に下剤を大量に入れた。

 下剤の効果はすぐ現れ、両親はすぐにお手洗いにかけこむことになった。


 あまりに急な腹痛だったのだろう「室内で待っていなさい」と少女に指示を出して慌てて出て行った。

 暫くは戻ってこられないだろう。


 そして5分程した後、僕は他の従業員に「お腹が痛い」と言ってお手洗いに出る為に抜け出す。忙しい時間帯であったため、僕の行動など気にもしなかっただろう。


 僕はジュースを飲んでいる少女に僕は話しかけた。


「お父さんとお母さん遅いね。一緒にお手洗いに見に行こう」


 少女は僕の言葉を信じ切って簡単についてきた。


 監視カメラの死角になって人目のないルートは事前に調査済み。

 誰の目にも留まらない場所で、僕は少女の腕に注射をした。

 簡単に言うと、注射すると相手は気絶するような薬品。


 ここで殺してしまっては、剝製にしたときの仕上がりが変わってしまう。死後硬直もあるし、僕が剥製を作り始める前まで生きていてもらわなければならない。

 それに今は夏だから、すぐに腐り始めてしまうだろう。


 この暑い中、ただ単に少女を車に押し込んでしまうと熱中症で死んでしまう可能性があった。

 しかし、円滑に運ぶために車に入れておくのは必須。


 そこで、キャンピングカーを借りておいた。

 兎のふれあいコーナーから駐車場までは結構近い。あらかじめ最短ルートになるように場所は確保済み。


 その室内で空気を入れて膨らませるプールに水を張っておいて、そこに少女を横たわらせる。

 溺れない程度の水の深さで、顔の位置を上向きになるように固定する。

 それから万一に備えて口にチューブを入れて気道を確保しておいた。


 僕の仕事が終わるまで起きることはないだろうけど、起きても動けないようにほどけないように紐で身体を縛る。

 大人の縄抜けの達人でも抜けられない縛り方だ。


 少し無理な体勢になるが、頭の位置は固定しているし暴れても溺れることはないだろう。


 少女を手早く処理してから、僕は何食わぬ表情で職場に戻る。

 まだ両親は戻ってきていないらしい。


 何気なく職場に戻り、仕事を続ける。


 当然、少女が行方不明になったのだからその後警察沙汰になっただろうけど、僕はその日は腹痛が酷いという理由で早退した。

 これは不自然に思われるかもしれないけど、少女を攫った後にジュースの元の大きな入れ物に下剤を入れておいたから、不特定多数の人が腹痛になったはずだ。


 色々後で問題になるだろうけど、僕が使った下剤は検査で検出される頃には分解されるようなものを使ったから、何が原因なのか特定するのは難しいだろう。

 世の中、調べれば何でも出てくるから便利だ。


 勿論、僕のパソコンやスマホから検索履歴は消しておいたし、購入ルートも分からないようにしておいたから足がつくこともないと思う。


 さて……そんな与太話はどうでもよくて、楽しい楽しい少女の剝製を作る段階の話をしよう。


 …………と、うきうきした気持ちで話したいところなんだけど、人間の剥製は動物の剥製とは全然違ったんだ。

 人間は体毛に覆われていないし、皮膚も薄いし、少女の可愛い顔をそのままに再現することができなかった。

 初めての人の剥製だから、失敗してしまった。


 もっと、練習しなければ。


 そうすると、動物園に働いているメリットはなくなった。

 子供と沢山触れ合える職業に転職しよう。

 子供の行動特性を把握できるような職業。

 勿論、職場ではやらないよ。すぐに足がついてしまうから。

 子供を攫うなら、田舎に行って攫ってくるのがいいかな。


 そうだな、まず小学校の教師になろう。

 大学に行って教職免許をとって子供の観察をしよう。


 大丈夫、僕はコツコツ物事を進めるのは得意だから勉強も苦にならないし、可愛い少女を剥製にして飾れるなら努力もできる。


 上手くできるようになるまで、不本意ながらホームレスでも攫ってきて人間の剥製の練習をしよう。

 それか、トー横にいるような家出少女を攫って来てもいい。


 今の時代、人間を攫うのなんて簡単だ。


 ちょっとお金をチラつかせれば、馬鹿なやつらはすぐに罠にかかってくる。


 そうと決まれば、まずは大学で教員免許をとるために大学入学の勉強に勤しもう。




 ***




「本日のイブニングニュースです。2032年の行方不明者は前年度の行方不明者から約3万人増え、12万3756人となりました。2年前に行方不明になった蘿蔔すずしろ弥生やよいちゃん5才のご両親は、今でも弥生ちゃんを捜索しています」


「弥生は川で遊んでいるうちに行方不明になりました。遺体が発見されていないので、まだどこかで生きていると信じて探し続けています。どんな些細な情報でも結構ですので、情報提供お願いいたします」


 大丈夫だよ、お母さん。


 ちゃんと僕の部屋で美しい姿のまま永遠に生き続けているから。




 END




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