表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂った世界に私はいらない、狂った私に世界はいらない  作者: 毒の徒華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/95

どこまで考えていますか?




 世の中詐欺ばっかりだ。


 何かにつけて金を毟り取ろうとする。

 サービスとか言って良い顔をするのも、結局殆ど詐欺だ。

 商売っていうのは、本人が儲かるように相手に支払わせるものだ。それが見合っているなら詐欺じゃない。

 でも、見合っているかどうかなんて、専門家じゃなかったら分からない。だから暴利をふっかけても無知な奴は金を払う。

 釣り合っていることなんてこの世にないと俺は思う。


 最近は保険料のサブスクがある。怖い時代になったもんだ。

 毎月3000円くらい。

 それで家の周りの設備が壊れたときとか、電気製品が壊れた時に保険金の支給が行われるシステムらしい。詳しくは知らない。説明の電話がかかってきたときも途中で切ったから。


 真っ当な“サービス”で詐欺にならない方法がある。

 どっかに小さく書いておくことだ。利用規約とか、契約書とか、パンフレットとかに。

 お得なサービスを大きく書いて、契約者に不利なことは小さーく書いておく。

 わざと読む気もしないような大量の文章の中に紛れ込ませて書いておく。


 結局それも殆ど詐欺だ。少なくとも俺はそう感じてる。

 いざって時に相手がゴネだして、結局金を払わないこともある。条件に合わないとか後でいくらでも言えるだろ。ここに書いてあるとか、小さく書いてある規約について色々言ってくる。

 真っ当なサービスですって顔をした詐欺だ。結局、保険会社が儲かるようにできてる。

 だから会社として成り立っているんだ。ちょっと考えれば解るだろ。

 例えば、保険者たちが全員でゴネ初めて、事故に遭い続けたら保険会社は破産する。割を食ってる奴がいるから保険会社ってのは成り立ってる。

 割を食わされても平気な馬鹿がいるから成り立ってるんだよ。


 奴らは全員同じだ。

 人間の負の感情に付け込んで金を巻きあげてくる。

 保険会社も、宗教も、詐欺も、暴力団も殆ど全部同じだ。


 その中で1番、たちが悪いのはどれだと思う?


 宗教だ。


 ありもしない偶像を、まるであるかのように言って金を献金させる。

 死後の世界の為か? 悪い悪霊がついてるから?

 本当にあるのかどうか証明してもらったか?

 死後の世界を見せてもらったか?

 悪霊が本当にいると、自分に納得できるように可視化してもらったか?

 そんな例はこの世に一度だってない。

 奇跡の力なんてないんだよ。

 宗教は詳しくないから分からないが、暴力団の方がまだマシだ。暴力を対価にしてる。金で暴力を提供してくれるんだ。提供してくれるものがあるだけマシだ。


 でも、宗教は金を渡しても何の対価もない。

 宗教で現実から目を背けても仕方ないだろ。状況は悪化していくだけだ。

 何かにすがりつくにしても、掴んでいるのはわらじゃない。有刺鉄線か、刃物を掴んでるようなものだ。

 それを掴み続けても、指や手が切れるだけで死の川から二度と身体をあげることなんてできないんだ。

 だったら手が使い物になるうちに放せよ。手遅れになる前に。


 本当に死後の世界なんてあると思うか?

 ちょっと考えれば解るだろ。

 お経を唱えて何になる? 死者が死後の世界で使う為の戒名? 死者の為の弔い?

 別に葬式なんてしなくてもいい。でも、葬式をするのが普通だって刷り込まれてるから葬式に200万も600万も突っ込む。

 心の整理をつけるためにそんなに金が必要か?

 心の整理に必要なのは金じゃない。時間だ。

 いくら金をかけて葬式をしても、死んだ者は生き返らないし、何も感じてない。

 ちょっと考えれば解るだろ。

 感じるには脳が必要だ。その脳がないんだから感じてるわけがない。


 冥福を祈るって言葉はあるけど、死んだ後の世界なんて不確かなものない。でも、それを食い物にする連中は沢山いる。

 だってそうだよな。人間は必ず死ぬんだから、廃れない産業だ。

 ちょっと考えれば解るだろ。

 悲しむ気持ちに付け込んでくる連中になんで金を払うんだ?

 死者を悼む気持ちに金は関係ない。

 よくあるだろ。フラれて悲しんでる女に優しくして簡単にヤる男は少なくない。そのときに優しくするのは、別に慰めたいからじゃない。ヤりたいだけだ。ちょっと考えれば解るだろ。


 その「ちょっと考えれば解る」ときじゃないときを狙ってあいつらは金を巻き上げる。


 悲しみに暮れている時、苦しみに喘いでる時、不安に押しつぶされそうな時。


 そういうときに甘い言葉を囁いて、自分の思い通りにやり込めようとするようなクソみたいな連中ばっかりだ。

 それが世の中だ。


 俺の親が「ちょっと考える」ことができない人間だった。

 何が何だか分からない宗教に身も心も捧げて、考えることを放棄してた。

 結果、多額の借金とボロいアパート暮らし。

 献金の為に借金したり、果てにはもうそんな歳じゃないってのに身体まで売って金を作って、教祖に献金してた。

 借金取りに追われて転々としたこともある。闇金なんて最悪だった。どこに逃げても何か嗅ぎ付けてやってくる。

 闇金で暴力団には酷い目に遭わされたけど、でも宗教よりはマシだ。


 俺も宗教のことは色々教え込まれたし、子供の頃は信じてたけど……子供がサンタクロースをいつの間にか信じなくなるように、俺は宗教を信じなくなっていった。

 学校行って友達と話してる時に感じた違和感と白い目、今でも鮮明に思い出す。学校で教祖が言っているようなことは何一つ教えていなかった。

 俺が信じたのは科学だ。

 科学は実在する。元素とか、微生物とか、目視で見えなくても存在してる。目視では見えなくても、顕微鏡で見れば確かに本に載ってるものは存在してた。


 教祖の言っている死後の世界とか、悪霊とか、そんな話を真面目に信じてる方がおかしいってちょっと考えれば解るだろ。

 幽霊見た奴いるか? 幽霊に殺されましたって発表された奴いるか? エイリアン見た事あるやついるか?

 もし「殺人事件がおきました。これは悪霊の仕業によるものです」ってニュース流れたらどう思う?

 ちょっと考えれば解るだろ。

 なんで分かんないんだよ。

 だからいつまで経っても搾取される側なんだよ。


 だから、俺は決めたんだ。


 教祖を殺そうって。


 教祖がどんな生活してるか知ってるか?

 女が何人もいる。めかけだよ。一夫多妻制とか言えば聞こえはいいかも知れないけど、日本じゃ認められてない。

 それに、信者からの多額の献金で好きなもん食って、ぶくぶく太って豚みたいだ。

 違法薬物もやってるし、大麻育ててる。

 それが大麻だって知ってる奴は少なかった。献金した信者に「神の涙」とか訳の分からない名前をつけて渡してた。

 それで「幸せ」を得てるとか。


 そりゃ大麻で幸せになってたら考えも鈍るわな。

 馬鹿馬鹿しい。


 結局俺の母親は大麻で逮捕された。

 母親は馬鹿だったから、教祖の教えを守ってた。

「神の涙」の出どころを誰かに話せば、地獄に落ちる以上の酷い目に遭うって。

 だからどこで大麻を入手したか黙秘したから罪は重くなった。


 馬鹿馬鹿しい。

 ちょっと考えれば解るだろ。

 ほんの少し……1分でいい。1分冷静に考えれば気づくはずだ。

 これが馬鹿げてるって。


 でも、一生気付かない人もいるんだ。

 うちの母親がそうだ。

 今は刑務所にいる。たまに手紙とか面会とかするけど、母親はずっと宗教の話ばっかり。献金がどうとか、こんなにひどい目に遭ったのにまだ言ってる。

 死後の世界がどうとかこうとか……もううんざりだ。

 本当に、文字通り話にならないよ。

 別の世界の人間と話してるみたいな気持ちになる。

 本当、これが「死後の世界」かって感じるくらい。別の次元にいる人間と話してても話が通じないのと一緒だ。

 大昔、雨が降らなくて雨乞いの為に生贄を神に捧げてた時代の人間と何にも変わらない。

 進化してない人間だ。

 おかしいだろ。日本は義務教育があって、発展国で、戦争も無くて、図書館に行けば無料で本が読める。スマホも普及しててネットもできる。

 なのに、なんで「神」なんだよ。

 もうちょっと考えてくれよ。


 困ったときはいつも神頼みか?

 自分で考えて知恵絞って努力しろよ。

 その「ちょっと考える」ことができるやつらは、ちょっと考えられない奴らから金を毟り取る。

 かなり考えている奴らはもっと多くの金を毟り取る。

 もっと考えている奴は俺みたいに元凶を排除しようとする。


 更に考えてる奴は絶望して自殺する。


 そんなクソみたいな世の中さ。




 ***




 結局、俺は教祖を殺した。

 俺は拘置所から出たら刑務所にいくだろう。当然有罪判決だ。それでいい。

 でも、どっかの報道記者が面会に来た時に教えてくれたけど、俺の母親がどっぷりハマってた宗教はまだ解体されてないらしい。

 心底残念に思った。

 俺は教祖だけを殺したけど、新しい教祖は元の教祖の兄弟らしい。

 結局、俺も「ちょっと考えられない」人間だった。


 刑務所から出たら、今度は皆殺しにする。

 ちょっと考えれば解ったはずなのに、俺は怒りで目を曇らせていた。

 教祖を殺すだけじゃ、もう収まりきらなかったんだ。


 俺も母親と同じ。

 今度は「もうちょっと考えて」みる。

 いや、「ちょっと」じゃない。刑務所では考える時間は沢山ある。

 今度こそ上手くやる。

 気付くんだ。必ず。


 たくさん考えて、必ず皆殺しにする。




 END




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ