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狂った世界に私はいらない、狂った私に世界はいらない  作者: 毒の徒華


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これが望んだ世界ですか?




 ついにポストアポカリプスの時代が日本にもきた。

 私がずっと望んでいた世界だ。

 そして私はそのポストアポカリプスを満喫している。


 法も秩序もない世界。

 気に食わないと思った人間がいたら、殴ったり、蹴ったり、切ったり、刺したり、殺したりしても何の罰もない。

 だから私はそうしてる。


 まぁ、いつかはこうなるかもって思ってたけど、なんでこうなったか簡単に説明すると……


 政府が国民を全くかえりみない政策を次々に発表。

 増税、増税に見えないような増税、後は増税とか、増税とか、まぁ、過剰な増税が原因だと思う。

 少子化で高齢者は増えるばかりだったから、なんか保険料とか大変だったんだろうね。

 それにプラスして政治家の裏金問題が多発したりして。最悪の状況だったと思う。

 結局、国のお偉いさんたちは国民の年金を削ったり、増税したり色々してまで自分たちの金だけは確保しようとした。


 いくら温厚な日本人とはいえ、国民の怒りは爆発。大規模なデモが起きた。当たり前と言えば当たり前だよね。

 それで、デモだけでは収まらず、暴動になった。

 運が悪かったのは、そのときに他の国で戦争が起きていたことで、火炎瓶の作り方の動画が広く拡散されていた事かな。

 国会議事堂に大量の火炎瓶が投げ込まれた。あの時の中継は地獄絵図だった。燃えてる国会議事堂と、出動した警官や自衛隊と暴動人たちと報道陣たちの乱闘騒ぎ。

 でも、怒れる民間人の数の方が多かった。数の暴力には勝てなかった。いくら暴動を起こしているとはいえ、丸腰の民間人を国の人間は撃てなかった。

 制圧しきれず、国会議員は人質に取られた。立てこもり事件発生。


 普通だったら、ここでも人間の性善説が生きてくるんだろうけど、今回は政府が完全に悪かったね。自業自得。

 そこから緩やかに崩壊が始まった。

 政府が所得税をあげたもんだから、労働ボイコットがそこら中で発生した。

 子供の為、老人の為って税を使って来たみたいだけど、あまりに子供の為やら老人の為に税金を使って、働く世代をないがしろにしすぎた。

 大手企業でも中小企業でも、もうなんていうか、働いている世代が働くなった時期があった。


 私はその辺りからポストアポカリプスの予兆を感じて、ホームセンターで武器になりそうなものを片端から買っておいた。

 まだポストアポカリプス前だったから、食料は皆買ってたけど、チェーンソーとかハンマーとかナイフとか包丁とか、ガソリン、ライター、とにかく武器になりそうなものは全部。


 そんなことを私がしている間に世の中大混乱になっていった。

 火事場泥棒って言葉あるでしょう? 徐々に無法地帯が広がっていった。多分、都心部の方から無法地帯が広がっていったんだと思う。

 人の家には平気で強盗が入って、違法薬物は嗜好品になって、暴行、強姦……果てには殺人も日常化してきた。


 それで、みんなどうなったかって言うと、まずは老人がターゲットにされた。

 それに財産を貯め込んでいるのは老人だったから、老人の家に強盗が押し入るようになった。街中を歩いている老人がいたら拉致されて、人質にされて、あらゆる方法で金品を奪われた。それだけじゃなくて、殺される人も沢山いた。


 でも、ポストアポカリプスでは金品なんて何の価値もないってみんな知らないんだね。

 お金なんて持ってても、自販機でジュース買うくらいしか役に立たない。

 金を持ちたがる人もいたけど、金属の塊なんて役に立たないって知らないのかな。


 それが初期断簡。

 老人の次に狙われたのは女。

 私も女だから対象になった。でも、そんな私は完全武装して入って来たろくでなしどもを全員ぶっ殺した。

 殺したとき「なんだ、こんなもんか」って思った。

 秩序も法も機能してた時に殺人なんてしたら、大変なことになる。でも、今はもうなんでもありのポストアポカリプス。

 とりあえず、私は「私を狙ったらこうなるぞ」ということを知らしめるために、家の前に無残に殺した死体の山を積み上げて、ホームセンターで板と木の棒を買ってきてこう書いた。


「私に手を出そうとしたらこいつらの仲間入り」


 他の女たちがどうなっているかは分からなかったけど、少なくとも女の人が出歩いているのを見たことがない。

 まぁ……察するに……監禁とかされて性欲処理にでも使われているんじゃないかな。

 興味はないけど。


 それからしばらくして、そこら中の女は子供を産んだらしい。

 ポストアポカリプスで少子化解決……って訳にはいかなかった。だって、そんな生まれたばかりの乳幼児を育てられる環境はなかったし、子供たちは次々に死んでいった。

 病院で出産した訳じゃないから、出産も命がけだ。女も沢山死んだ。

 強姦が多発しているから、そのサイクルが繰り返された。だから子供は生まれるけどさっさと死ぬ。出産した女も徐々に死んで少なくなっていく。

 それで、私は数少ない女になっていった。


 でも、私は負けた事はなかった。

 相手が集団でやってきたときも火炎放射器とか使って追い払ったり、どこから手に入れたのか分からない銃(多分、警察とか自衛隊からだろうけど)で脅されたりしたけど、あれは映画の見過ぎ。片手で動いてる物体に弾丸を当てるのがどれだけ難しいか知らなかったみたい。訓練しなかったらそう簡単に当たる訳ない。

 私は銃もゲットした。


 家にいて武器に囲まれている生活は良かったけど、食べ物がなかった。


 なーんてね。

 そう思うでしょう?

 でも、食べ物なんてそこら中にある。


 やってくる人間を新鮮なうちに食べればいい。


 水は近くに川があったから、その川の水を沸騰させて消毒してから飲んだり、料理に使ったりしていた。


 でも、いざポストアポカリプスになったけど……ネットも繋がらないし、テレビも映ったりするけどもう意味を成してない。カメラマンとかリポーターも襲われるし、主に監視カメラの映像を映すような感じだ。

 その映像も子供に見せられないようなものばかりだ。

 そこら中に死体は転がっているし、腐敗臭もするし、火葬場だって機能してない。


 私はそれが楽しかったけど、やっぱり少しずつ飽きてきた。

 まぁ、政府のせいでこうなったんだし、自分で打開策を考えても私はリーダーには向かない。

 新しい日本国を作ろうなんて愛国心はないし、どうしたもんかなと思っていた。


 そんな中、私を訪ねてくるまともな人間もいた。


「匿ってほしい」


 いや、やっぱりまともじゃない。だってこんな世の中で他人に自分の運命を簡単に預けるような人がまともな訳がない。

 助けてほしいなんて身勝手なやつ、馬鹿馬鹿しくて見てられない。


「悪いけど、匿えない」

「お願いだ……この辺で生き残ったのは貴方だけだ……」

「そうだろうね。なんでだと思う?」

「……なんで?」

「人間を食ってるから。お前も食料にされたくなかったら消えろ」


 そう言ったら男は逃げだした。


 そんな生活をしていて、転機が訪れた。

 噂を聞きつけた暴力団のような犯罪のプロ組織から狙われた。流石に素人と現役の暴力団員は違った。簡単にはいかなかった……でも、彼らの目的は私の強姦じゃなかった。

 組への勧誘だ。

 ヤクザ組織に入れば物資もあるし、やりたい放題できる。私の身の安全も保障されていた。


 まぁ、暇してたから面白半分に私はヤクザの人たちと行動するようになった。


 でも、なんかこういうのってポストアポカリプス感がない。

 私は安穏とした暮らしよりも、混沌とした世界で悠々自適に生きていきたい。

 幸いこれはゾンビパンデミックじゃない。

 どういう流れか分からないけど、多分このポストアポカリプスになった日本に各国から応援要請を受けた軍隊が送り込まれて鎮圧されるだろう。


 そうなったら、多分留置所と拘置所と裁判所はパンクする。


 私も散々ぶっ殺しまくったから、無罪放免という訳にも行かないだろう。

 まぁでも、やりたい放題できたこと、私は後悔していない。


 少し訪れたこの束の間を満喫する。


 その「束の間」がいつまで続くかわからないけど。




 ***




 国とか政府というよりも、過激派と秩序派の組織が対立するようになった。

 国が崩壊したところで、秩序派は新しい国を新しく作る流れになった。

 でも過激派はこのポストアポカリプスを楽しんでいる。


 別にどっちがどうとかはないけど、まだこれは続きそう。


 まぁ、仕方ないよね。

 温厚な日本国民をブチ切れさせるようなことをした政府が悪かったんだから。

 私は楽しいからいいけど、そこら中で死体が転がってるのが日常。


 もう見飽きた。


 殺すのは日常になっていて、何の罪悪感もない。

 ポストアポカリプスなりに大切なものとか見つけて、それを守るために戦うみたいなドラマ性はここにはない。

 普通に人肉を食べて、普通に川で水を汲んできて沸騰させる。

 たまに訳の分からないやつが来たら殺して、また食料にする。

 毎日肉ばかりだ。

 今更スーパーに言っても腐ってるものしか残ってないし。

 待ちわびたポストアポカリプスがこんな風になって残念。


 これはただ、破滅に向かう日本の物語さ。




 END




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