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狂った世界に私はいらない、狂った私に世界はいらない  作者: 毒の徒華


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対価を払えば許されるでしょう?




 あー、ムラムラする。

 誰でもいいから女を抱きたい。犯したい。抜きたい。

 今すぐに。


 最近は金に困ってる女が沢山いて、そこら中で立ちんぼしているから、少し金を出せば簡単にヤれる。

 まぁ、多少クオリティが低い奴もいるけど、それは立ちんぼしてる女の顔と体型を見れば自分好みの女を見つけることができるからいい。

 風俗に行くと写真と全然違うデブスが出て来たりするからな。


 俺は立ちんぼが沢山いる駅の近くまで来た。

 この周辺で立っている女の殆どが立ちんぼだ。

 俺は手頃な女を見定めるために歩いて、顔やら体型やらを観察した。


 あー……今日はハズレの日か……? ブスかデブ、ババアばっかりじゃねぇかよ。


「ちっ……」


 今日は天気が悪いからか、立ちんぼしている女の数が少ない気がする。


「2年前の未解決事件の情報があったらご提供お願いします」


 警察やら、その事件の遺族がビラを配っていた。

 警察がうろついてるから立ちんぼが少ないのか。


 誰でもいいからヤりたい気分だけど、せっかく金を払うんだから……と思ってなかなか「これだ!」という女が決まらない。


 あー、ブスでも胸が大きい女に袋でも被せてヤれば萎えなくて済むか。


 なんて、考えていたところ、バス停のバス待ちに、若くて美人でスタイル抜群の女が1人いた。

 立ちんぼしているような女とは違う雰囲気。立ちんぼ女は全員スマホをいじって立っているが、その女は本を読んでバスを待っている。


 あの女がいい。

 あー、もうムラムラが限界だ。

 経験人数少なそうなのがまたいい。病気も持ってなさそうだ。この前ムラムラしすぎてテキトーに選んだ女に性病移されて最悪だったからな。

 やっぱりできれば素人がいい。

 ここら辺の相場は大体、1万5000円。その倍くらい出せば乗ってくるだろう。まぁ、あのレベルなら3万でもいい。


「ねぇ、お姉さん何読んでるの?」

「……『ドグラ・マグラ』です」


 どぐらまぐら? なんだそれ? 名前はなんとなく聞いたことはあるけど、中身はさっぱり分からない。

 でも、ここで食いついて見せて好感度を上げる作戦に出る。


「どんな話?」

「……精神科病棟の話……ですかね」


 精神科病棟の話……? なんてコメントしていいか分からねぇ。「面白そうだね」っていうのも違う気がするし「難しそうな本だね」というのも自分が馬鹿であることを露呈しているような気がして違う気がする。

 ここは無難な返事をすることにした。


「へぇ、俺も読みたいな。今度貸してくれない?」

「図書館で貸し出してるのでそちらをどうぞ」


 俺に全く興味なしって感じでちょっと腹が立った。


「あのさ、“3”でどう?」

「はい……?」


 女は何を言っているのか分からないといったような顔で俺の方を見ている。


 そうか、立ちんぼじゃないから専門用語じゃ分からないか。


「3万円でどう……ってこと」

「3万円で……なんですか?」


 他のバス待ちのババアどもが俺を白い目で見ていたので、俺は睨みかえした。


「分からないかなぁ。3万円で一発ヤるってこと」

「あぁ……なるほど……そういうことですか」

「そうそう。3万円ならこの辺だと倍の相場だよ? お姉さん、めっちゃ好みだと思って俺、声かけたんだけど」

「3万円……()()だけなんですか?」


 お? 食いついてきた。

 やっぱりな。女って馬鹿だ。金を見せれば簡単に股を開く。

 これが金の力だ。


「俺としては一発だけじゃなくて何発もイキたいところだけど」

「そうですか。じゃあ一発とは言わず、何発ものコースでお願いします」


 ……ん? なんかこの女、何か勘違いしてねぇか……?


「? まぁ、そっちもその気なら助かるよ」

「それで、どこでするんですか?」

「どこがいいかな。俺は別にどこでもいいよ」

「そうですか。できれば人目につかないところがいいんですけど」

「じゃあ、あそこのホテル入ろう」


 やったぜ!

 こんな上玉を3万で買えて、しかも何発もデキるなんて最高じゃねぇかよ!

 あー! もう股間が熱い! すぐにでも抱きたい!


「じゃあ、行きましょうか」


 と、俺はその女と一緒にラブホテルに入った。ホテル別3万だったから、ホテルはできるだけ安いところを選んだ。

 部屋はどこでもいいと言ったので、せっかくだしSM部屋を選んだ。

 こんないい女とSMプレイとか最高過ぎるだろ。


「へぇ……SM部屋ってこんな感じなんですね」

「シャワー先に浴びる?」

「いえ、すぐに始めましょうか」


 そう言って女は俺を強引にSMプレイ用の、手枷のついているベッドに誘導して俺に手枷と足枷をつけた。


 この女、Sかよ。

 もう最高だ。3万はちょっと高いけど、こんないい女に攻められてイケるなら安いくらいだと思う。


「自分でとれなさそうですか?」


 ガチッ……ガチッ……


「とれない」

「じゃあ、ちょっと待ってくださいね。準備しますから」


 女は服を脱ぎ始めた。

 上半身、下半身の服をゆっくりと脱いでいく。下着姿になったところで、女はこっちを見て妖艶に笑った。


 早く! 早く!

 もう俺の股間は限界なんだ! 早くしてくれ!


 と、興奮していた矢先、女は自分の鞄からレインコートを取り出した。

 取り出した黄色いレインコートを着始める。


 え、なんでレインコー……


 ゴッ……!


 顔に、凄まじい痛みが走って、何が何だか分からなかった。

 それを俺が理解する前に、俺の反り立った股間にも同様に強い衝撃が走る。


 ガッ……! ゴッ……!!


 やっと俺の理解が追い付いて、「殴られているんだ」ということを理解したときには絶叫していた。


「ぎゃぁああああああああああああっ!!! ムグッ……!!」


 俺が口を開けると、そこに風呂場から持ってきたタオルを強引に詰め込まれた。


「SMプレイってこんな感じですか?」

「んー!! んんんんんーーー!!!」

「なーんて……冗談ですよ。冗談。だって、3万円で()()()()()()()()んですよね? 私もどこを殴ったら死ぬのかくらい知ってますから、そう楽には()()()()()()()。楽しみましょう」


 その間にも、女は俺の身体を何発も殴った。もうそこかしこに激痛が走るので、叫ぶこともできないときすらあった。

 涙で前が良く見えなかったけど、女は鉄の棒を持っている様だった。


 なんだこれ、なんだこれ!? なんだよこれ!!?

 ありえないありえないありえないありえないありえないありえない!!!

 こんなはずじゃなかった! 俺はただ女を抱きたかっただけなのに!!

 警察がこんなヤバイ女放っておく訳ねぇ!!


 女のレインコートには俺を殴った返り血が飛び散っていた。


「ふう……レインコートって室内で着て棒振ってると結構暑いんですよね」


 え…………


 俺の聞き間違いや、思い込みじゃなかったら、この女、これが初めてじゃない……?


「んんんー!!! んー!!!」


 やばい。

 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいこの女ヤバイ!!!


 そう言えば思い出した。

 2年前の未解決事件。同じようにラブホテルで男が殴殺された事件だったような……


 まさか、この女が……?


 そのときも監視カメラのない安いホテルで捜査が難航してるとかなんとかネットニュースで見た気がする……


「んーーーーー!!! んんんんんーーーーー!!!!」

「大丈夫ですよ。顔も最終的にぐちゃぐちゃにしますし。前回は歯を残してしまったせいで誰か分かってしまいました……失敗です」


 ひたすらに振り下ろされる棒。

 それに伴って俺の身体に走る激痛。

 女は慣れていないのか、体力がないのか、適度に休みながら俺に棒を振り続けてきた。

 休み休みのせいで、俺の激痛は長時間続いた


 叫んでも、叫んでも、俺はタオルが口に入っているせいで声にならない。

 訴えたいことも伝える事はできなかった。

 ただ、一方的にヤられた。

 女は俺が気絶するたびに水をかけてきて、無理やり起こされた。


 何の怨みがあるんだ。

 俺がお前に何をしたっていうんだ。

 俺はただ、自分の欲望を満たそうとしただけなのに。


 あー……そうか。この女も自分の欲望を満たそうとしているだけなのかもしれない。

 だってそうだろ。

 普通の女が読んでる本って言ったら、ダイエット方法の本とか、流行のファッションの本とか、そういうのだろ。

 なんだよ、精神科病棟の本って。

 そこで異常者だって気づけばよかった。


「そう言えば、なんで私がこんなことをしているか疑問に思ってる頃でしょうから、()()前に教えてあげますね」


 俺が疑問に思ってることを、女は話し始めた。

 どうせ俺はもう助からない。

 脚がぐちゃぐちゃになってるのは分かるし、もう逃げられる状態じゃなかった。

 SM部屋なんか選んだからこんなことになったんだ。

 でも、きっとこの女はSM部屋じゃなくてもヤっていたと思う。そういうヤバさをこの女からは感じる。


「貴方と同じです。もう、殺したくて殺したくて仕方がないんです。毎日。でも、私はそれを抑えて生きているんです。でも、貴方たちってお金を払えば簡単に欲望を叶えられるって思ってるじゃないですか。羨ましいなぁ。私だって3万円で殺りまくれるならそうしてますよ。あーあー、なんで買春は3万円で良くて、殺人は駄目なのかなー?」


 あー、いつも俺が女にしている事と同じなのかもしれない。


 もう痛みが限界まできたからなのか、悟りの境地に達してきた。

 俺はいつも金を払って、女を好き放題にしてきた。

 この女も、俺に3万円で好き放題にしようとしているだけなんだ。


 ゴッ……ガッ……!!


「いいなぁいいなぁいいなぁいいなぁいいなぁいいなぁ!!!」


 ゴンッ! ガンッ!!


「っていうか3万円ごときでお前に身体売る訳ねぇだろこのクソ野郎が!!! 100万円でも、1000万円でも、お前の×××なんか触りたくねぇっつーの!!!」


 ガンガンガンガンガン!!!


「あぁあああああ!!! もうどれだけ殺っても気が収まらない!!! 3万円って! 安く見られたところもさぁ!!! この恥知らず!! クズ野郎!! ()()たいんだろ!!? 早く()()よ!!!!!」


 もう、俺の意識なんてなかった。

 いくら水をかけられても、意識を取り戻すことはなかった。


 もう俺は死んでいたんだから。


「はぁ……はぁ……死んじゃいましたか。まぁ、3万くらいの価値はあったと思います。3万円、どうぞ」


 女は俺のぐちゃぐちゃになった死体の上に3万円置いた。




 ***




「本日未明、ラブホテルハートフルにて、男性の遺体が発見されました。現在、男性の身元の確認を急いでいます」


 女はバスの中のニュース番組を見ながら、本を読んでいた。

 今日読んでいるのは『ビジュアルで解る! 解剖学』の本だ。内臓や血管、神経などの絵が分かりやすく図解で乗っている。


「ねぇ、その本面白い?」


 隣りに座ってきた男から声をかけられた。


 男って馬鹿ばっかり。

 とりあえず読んでいる本の事をいつも聞いてくる。本当は、私の持っている本になんて少しも興味ないくせに。


「図書館で貸し出しているので気になるならそちらをどうぞ」


 女が返す言葉はいつもそれだ。

 本当に本に興味があるならそこで話が終わる。

 でも、いつもそこで話は終わらない。


「あのさ……“2”でどう?」


 今日も天気は雨。

 レインコートは鞄に入っている。

 でも、昨日の今日で殺したら目立ちすぎてしまうから、別の方法にしよう。


「2で、車出してくれますか? いきたい場所があるんですけど。ちょっと山奥なんですが……」


 この辺りの山奥と言ったら、ラブホテルが乱立している地域がある。


「全然いいよ。あの辺だったらおすすめの場所があるんだけど」

「私もお勧めの場所があるんですよ」


 お勧めの、自殺の名所が……ね。




 END




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