死んだ親友に捧ぐ(実話)
ずっと前から連絡が取れなくなっていた小学校からの親友が、数年前に死んでいるということを聞いた。
母親の会社に入って来た新人が、親友の親戚筋だったらしい。
「ショックなことだろうけど、言ってもいい?」
と、帰宅した母親に言われて「何?」と言ったら「●●●(親友)ちゃんが数年前に亡くなってるらしい」と言っていた。
私はショックを受けなかった。「もしかしたら死んでるかも」と、薄々思ってたから。
親友のことはあだ名で「サヴァン」と呼んでいた。
中学の時に西尾維新の作品『クビキリサイクル』に出てくるサヴァン(天才)からとってそう呼んでいた。
サヴァンは母親と2人暮らしで、その母親から虐待を受けて育った。
なんというか、今なら虐待だって分かるけど、サヴァンは常に勉強するようにと母親に厳しくしつけられていて、小学校で中学の勉強をして、中学の時には高校の勉強をさせられていた。
サヴァンがいじめられていたら、その母親が学校まで乗り込んできて文句を言っていた。
毒親って奴だな。
小学校から中学校まで同じ学校に通っていて、小学校からの付き合いだった。
ゲームを貸したり、一緒に遊んだりしてた。
サヴァンの親は私のことをよく思っていなかったようで、サヴァン本人に「付き合いをやめるように」と言われていたと本人から聞いた。
それでも学校では会うし、普通に遊んでたけどサヴァンと一緒に帰ったりすることはなくなった。親に見つかると色々面倒なことになったりしたから。
サヴァンは母親に勉強を強要させられていたこともあって、常に学年1位の成績だった。
それにちなんでサヴァン(天才)と呼んでいた。
サヴァンからは色々なことを教えてもらった。
小学校の頃はまだネットやパソコンがあんまり普及してなかったけど、サヴァンは小学校からパソコンを持っていて2ちゃんねるとか、AAとか、バンプオブチキンとか、西尾維新の戯言シリーズとか、サヴァンの影響で好きになったりした。
「サヴァンなら県内で1番頭のいい高校行けるよ」
と、私が言っていた通り、サヴァンは県内で1番いい高校へと行って
「サヴァンなら東大入れるよ」
と、私が言っていた通り、サヴァンは東大に入った。
東大に入るというのは、毒親とサヴァンの間での……なんていうのかな、約束があって、その内容は「東大に入ったら自由にさせてほしい」というものだった。
その通りに親の束縛から逃れて、サヴァンは東大に行った。
時々私と連絡が取れなくなっていたけど、その度に何かしらの方法で連絡先を聞いてなんとか連絡を取り合っていた。
意図せず再会したこともあった。
私が大学の休み中に教習所に行ったら、サヴァンも同じ時期に同じ教習所に通っていて再会した。
サヴァンは「東大に行ってるって言うと周りがざわめくから嫌だ」というような愚痴をこぼしていたと思う。
一緒に学科の授業を受けたりしてた。
それから東京で引っ越しの為にトラックを借りて運転してたら、どう頑張っても曲がれない道で借りたトラックを擦って賠償金を払う羽目になったという話をしてくれたり、過去に付き合ってた男性の話もしてくれた。
最後に会ったのは、サヴァンが東大卒業してから住んでいた調布のアパートに遊びに行ったときだ。
私は都会に慣れていなかったのであたふたしていたが、サヴァンはすっかり東京に馴染んで調布に住んでいた。
サヴァンに「なんで調布なん?」と聞いたら「調布は聖地だから、住むなら調布にしようと思ってた」と言っていた。
サヴァンのアパートに入って、色々話をした。
私が言うのもなんだが、サヴァンは結構変わり者で、全く何も書いてない真っ白なキーボードを使っていたり、タイピングの早打ちでめっちゃ早かったり、自分でプログラムしたアプリを見せてくれたりしていた。
私はFラン大学に行っていたので、学力には雲泥の差があったが、それでも変わり者同士仲良くやっていた。
寝る前に「絵しりとりしようぜ」という話になって、くだらない内容とくだらない絵で、2人で腹筋が割れるほど笑いながら絵しりとりをやった。
絵に熱中するあまり、しりとりというルールを忘れた私が「スウェーデン」を描いて絵しりとりは終わった。
それから一緒の部屋で寝て、次の日に解散したのが最後で、サヴァンと連絡が取れなくなった。
LINEが消えて、電話番号にかけても電話に出なかったり、それでも今までそういうことがあったので「またか」くらいだったが、それからずーっとサヴァンと連絡が取れなくなった。
私はサヴァンの夢を良く見ていた。
いつも夢で「お前、連絡取れなくなって探してたんだぞ」と言う夢だ。
そんな夢を見るので、サヴァンのことはずっと気にかけていたが、結局今日、数年前に死んだという情報が私のところに入ってきた。
私は「そうか」と思った。
サヴァンは虐待されて育ったということもあって、病んでいる節があった。
死因がなんなのかは知らないが、数年前に死んだと聞いて「自殺かもな」とぼんやり思った。
親友が死んで「悲しい」の一言もないなんて、本当に親友だったのかとか、なんて冷たい人間なんだと思うかもしれないが、私の言う親友は全員がさっぱりした関係だ。
ネトネトしたべったりした関係ではない。
それに、サヴァンは病んでいたし、親と縁を切りたいけど切れないと苦しんでいたのも知っていた。だから「楽になったのかな」とも考えた。
生きている内に、せめて死ぬってことは変わらないにしても、最期に連絡くらいよこせよとは思ったが、不思議とずっと探していた親友がもういないと知って、やっとそのもやもやした感覚がなくなった。
もう私は、サヴァンを捜さなくていいのだと思うと、肩の荷が下りたような気持ちになった。
いつかサヴァンの元まで届くような小説を書いて、サヴァンを見つけようと思っていたけど、遅かったな。
輪廻転生とか信じてないけど、もし生まれ変わったらまた友達やろうや。
また絵しりとりしたり、くだらない話したり、恋バナしたりして遊ぼう。
本当は連絡が取れていたら、私の婚姻届けの証人欄、サヴァンに書いてもらおうと思ってたんだぞ。
一生結婚しないと思ってた私が結婚したんだ。
どういう経緯で知り合ったとか、どういう経緯で結婚したとか、そんな話をサヴァンとしたかった。
小学校から中学校にかけて喧嘩してた時期もあったけど、サヴァンがまた話しかけてくれて友達に戻れた。
何で喧嘩してたかとか、覚えてないけど……また話しかけてくれて嬉しかったよ。引っ込みがつかなかったからさ。
「内申点が良くなるように、授業中に挙手してたりしたんだ」
って言ってたな。一方私は学校では問題児。
私とサヴァンは正反対だったし、結構あっさりした関係だったけど、それでも私は親友だと思ってるよ。
サヴァンがどう思ってたかは知らないけど、私が調布に遊びに行った後に「友達が遊びに来てくれた」ってブログ書いてたな。
mixiとか一緒にやってたり、なんか懐かしい。
「じゃあお前はサヴァンだな」
って言ったとき、サヴァンは照れてたけど、漠然とした確信の通り東大入って、薬学部入って、凄いよ。
「大学院にはお金がなくて行けなかった」って言ってたな。
「親と縁を切りたいけど、未成年が何かするには親の承認が必要で終わった」って言ってたな。
サヴァンの好きだった西尾維新の戯言シリーズを親に破り捨てられたり、家にお金がなくて大変だって言ってたな。
私がもっと賢かったら、虐待の通報をしてシェルターとかに入れてやれたかもしれない。
サヴァンに『ファイナルファンタジータクティクスアドバンス』を貸したとき、「こいつ、私のデータ消しちゃうんだろうな」って思ったら、本当にデータ消しちゃってたな。別に悪意があって消しちゃうだろうと思ってた訳じゃなくて、子供の頃の私はやけに勘が鋭くてさ、不思議と思ったことが現実になってたんだ。
だからデータ消された時も怒らなかった。「本当に消したんだ」って思ったくらいで。
サヴァンの家の前で「マトリクスしながらブリッジしてエクソシストやって」って無茶ぶりしたときに、サヴァンは本当にマトリクスしながらブリッジしてエクソシストを道路でやってた。
その時は「マジかよ。すげぇ」って思ったよ。
他のゲーム貸して、特定のキャラをレベル99にして見せてきたこともあったよな。
学年2位の子にサヴァンのこと聞かれた事もあったな。ずっとサヴァンは不動の学年1位だったから。
まぁ……色んなことがあったけど、サヴァンは凄い奴だったし、良い奴だった。
もう会えないと思うと残念には思うけど、行方不明だったサヴァンがどうなったのか知れて良かったよ。
サヴァンに再会する夢、もう見なくなるかな。
遅いか早いか分からないけど、そのうちそっちにいくからさ。
そしたらまた、絵しりとりでもしようぜ。
今度はスウェーデンで終わりにして負けないようにするから。
また遊ぼうぜ。じゃあな。




