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アルヴィノーラの森で 外伝  作者: ありかわつぐみ
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あの日の君へ、そして未来の君へ。



マリリンの回顧。






軍人だった父は、いろいろな物の作り方を教えてくれた。



よくしなる棒の両端に糸をくくりつけて弓。

折れたほうきの先を削って槍。

落ちてた戸板に持ち手をつけて楯。

空き瓶に揮発油を詰め布で栓をして投てき弾。



何らかの問題があるとしたら……父の子供は娘である私1人だということ。

「女の子にそんなもの教えるなんて!」と阻止するであろう母は、私が4つか5つの頃までに亡くなったらしい。

曹長だった父は私を1人家に置いて出動するわけにいかないので、同世代の上役である少尉のお宅へ私を預けて行った。

そこには私とほぼ年が一緒の女の子がいたので、すぐに仲良くなった。

その子・アリアドネもお母さんがいなかったけど、執事さんやメイドさんがいるような大きなおうちだったから少尉や父がいなくても寂しくはなかった。




11歳になった時。

父が前線から傷病者となって戻ってきた。

敵方の新型火薬武器の爆風を真正面から食らって後ろに吹っ飛び、岩に背中一面を強く打ちつけたとの事。

医師館か薬剤師館で長期療養する必要があると軍医から言われ、父と2人家族なのを知ってる少尉の紹介もあって、王家直轄領にある家族も一緒に滞在できる薬剤師館へお世話になる事にした。



王家直轄領の薬剤師館は隣が医師館になっていて、療養中の患者が薬剤師の手に負えなくなったらいつでも即医師を呼べる体制になってる。

医師館側も、急きょ薬剤師立ち会いが必要な薬を使う事態になった時にはいつでもSクラスの薬剤師を呼べる。

……創設者が医師と薬剤師の夫婦だったから、こういう仕組みになっているんだそう。



この薬剤師館で、父は2年お世話になった。

前線での戦闘中での事だったので、療養費と未成年者の生活費はすべて軍負担。

医衣食住すべてをまかなってもらって……一度も寝台から起き上がる事なく、礼拝堂から旅立って行った。


薬剤師館と医師館共通の礼拝堂は、文字通り礼拝する所。

療養中の患者の回復を祈る。

患者の快癒の感謝を捧げる。

そして……神に「御霊がそちらへ向かう」と告げる。

そういう場所。

私は快癒の感謝を捧げる事ができなかった。




13歳で1人遺された私は、今後どうするか訊かれた。

「シグナス曹長……いえ中尉のご実家へ行かれるのですか?」

「いいえ。そんなものがあれば父と2人になった時点でそこへ行っていると思います」

「……そうですよね」

訊きに来た軍の事務官が頭を抱えた。

「父がよく言ってたんです、自分に今できる最善の事をせよって。これ、もちろん知ってますよね」

軍の訓示でよく言われる言葉らしいので、事務官もよく知ってるはず。

「だから、私も自分に今できる最善の事をしようと思います」

一呼吸おいて。

「この薬剤師館に置いてもらって、将来的には薬剤師になろうと思います」




――――――――――――――――――




子供の頃の夢を見て、目が覚めた。

隣には、父と同じような雰囲気をまとった人。

そしてあと2ヶ月位したら生まれてくる赤ん坊。

この子が生まれた後、もしも私やこの人に何かあったら……この子は私と同じように「自分にできる最善の事」を見つけなければならない、自分1人で。

その時はできれば来てほしくないけど、選択肢は多いほうがいい。

させておいたほうがいい事は、すべてさせる。

やりたいという事は、すべてやらせる。


そうする事が、子供に対する親の立ち位置。


父が私に教えた弓や槍や楯や投てき弾の作り方は、今までの私には不要だったけど……自分の知る限りの事を子に教えるという姿勢は学んだ気がする。




とうちゃん、ありがとね。







「自分に今できる最善の事をせよ」。


5歳児に大人用の剣を与える夫を咎めなかった原風景がここにありました……。




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