封じられていた思い出
ジェファーソン一家、脱出当日の記録……
(※想像すると残忍な場面があります)
「アンナ、大変……あいつらが来る。準備して」
「皆さん急に伺って大丈夫なの?」
「あいつらが来るのを知らせてくれたんだ、快く引き受けてくれるって……さあ、エレナを起こしてきて。僕はマルコとカルロを起こしてくるから」
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「父ちゃん、どしたのさ。まだよるだろ?」
「いいか、今からお前達は母ちゃんと一緒に家を出るんだ。後で父ちゃんが迎えに行くから、待ってるんだぞ」
「えー、父ちゃん一緒に行かないの?」
「父ちゃんは、後から行く」
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「いいかい、今から家を出て……まずガストンさんの家にピエトロを預ける。次にディアスさんの農場にカルロを預ける。ブライアントさんの家にマルコを預けたら、エレナは母さんと一緒に橋を渡ってサン・トリスタンで待っていて。後から父さんが3人を連れて追うからね」
「どうして別々で行くの?」
「橋を一度に渡るのに人数制限があるからだよ。大人1人と一緒に渡れる大きい子供は1人。小さい子供は2人。大人が背負った歩けない子供は数に入らない……だから、大きい子供のエレナは母さんと一緒に渡りなさい」
「……わかった」
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「マル、歩ける?」
「おれ赤ん坊じゃねえもん、歩ける!」
「じゃあ大丈夫だね。カルは、歩くの遅いから母さんの背中にいてちょうだい。ピエは歩けないからエレナ、あなたが背負ってね。エレナには重いだろうけど、ガストンさんのところまでだからね」
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「とうとうこの日が来ちゃったんだね……ピエトロはニコラスが来るまで預かるよ」
「ありがとうございます……」
「困った時はお互い様さ、アンナ。エレナちゃん、重かっただろ」
「ううん、大丈夫だった……ピエ、寝てる?」
「ああもうグッスリだよ。ピエトロが眠ってる今のうちに先を急ぎな」
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「全員一緒に渡れたらよかったのにね……脱出ルートがあのボロ橋だけだなんて」
「仕方ないです、ないよりましだと思いますし」
「そうだね、あるんだから贅沢言っちゃいけないね」
「では、カルロをお願いします」
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「マルコ、ブライアントさんのおうちで待っててね」
「やだ、いっしょにいく!おいていかないでよぅ!」
「マルコは赤ちゃんじゃないんでしょ?泣いちゃダメ。父さんが来るのを待っててね」
「父さんが、来たら、母さんと姉ちゃんおいかけるの?」
「そうだよ。父さんがピエとカルを連れてここに来るから、そしたら一緒に追いかけてきてね」
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「見つけたぞ!異国民の女と、娘だ!」
「エレナ、走るわよ!」
「どこまで」
「橋まで、行くわよ……っっ!」
「……母さん!?」
「追いつくから、私にかまわず行きなさい!」
「でも!」
「私を待たなくていいから、渡ってしまいなさい!追いつくから!」
「母さん!?」
「行きなさい……行け、走れ!!」
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母さんが、転んだ。
マントのおっさんとカチャカチャいうやつらの前で。
追いつくから、待たなくていいから橋を渡ってしまえと言われ……一度だけ振り返ったら。
「行きなさい……行け、走れ!!」
母さんが叫んで、そして。
マントのおっさんが、光るものを振り上げて、母さんに……。
嫌な音がして……母さんは、もう立ってなかった。
カチャカチャが4つ追っかけて来たから、走った。
こわい。
こわい!
こわい!!
こわい!!!
手に持っていたカバンを後ろに投げて、走った。
やだ、どこまで来るのよこのカチャカチャ達!
国境の橋は、本当は走っちゃいけない。
だけど、カチャカチャ達に捕まりたくないから。
後で怒られてもいいから、走ろう!
カチャカチャ達に捕まったら……母さんと同じめにあわされる!
まっすぐ、一気に、走り抜けた。
地面に足がついた。
私が来たほうを見たら、何もなかった。
私が走って来たはずの橋が、なくなってた。
まわりには、誰もいなかった。
ああ、カチャカチャ達から逃げ切れたんだ……。
安心したら、動けなくなった。
気がついたら、黒っぽい服を着たお兄さん達が近くにいて、いかめしい顔だけど優しい目をした大きなおじちゃんが、私をのぞきこんでた。
「どこから来た?名前は?」
……私に、訊いてるの?
知らない、わからない。
「とりあえず、おじさんの家に一緒に来てくれるか?4歳の息子がいるから全然静かじゃないけど」
軽々と抱っこされてから背中におぶわれて、そのまま大きなおじちゃんの家に連れていかれた。
「なーなー、ねえちゃんさー!ウチのかーちゃんのスープうまいから食えよ!何ならオレのおかわりの分ねえちゃんにやるよ」
食事中だった男の子が私に声をかけてきて、お母さんに「早く食べてしまえ」としかられてた。
男の子のお母さん……おじちゃんのおくさんと、そのお友達のおばちゃんが私にいろいろたくさん女の子の名前を呼びかけてくれた。
私が名前を言わなかったからだと思うんだけど……私、なんだかこわかった事しかおぼえてなくて。
なんて呼ばれてたかも、あまりおぼえてなくて。
「ヘレン?」
……なんか、そう呼ばれた事があったような気がした。
「じゃあ……エレナ?」
あ、そうだよ……大人が私を、そう呼んでた……気がする。
私は、返事するかわりに顔を上げておじちゃんのおくさんを見た。
ジェファーソン家の4姉弟が結果的に離散に至った1日の出来事でした。
「いかめしい顔だけど優しい目をしたおじちゃん」。
自称「熊」なんですけどね……。




