6 王妃様とお母様がお怒りです
「ネルコム夫人と私が愛用しているブティックの一点もののドレスが、阿婆擦れの服ですか?」
「あら、まぁ。今この場にいる私たち3人、同じマダムに仕立ててもらっておりますのに、若い殿方にはそう見えるのですね」
あ、お母様もこれは、一番怒っている時の声だ。
私もそうだが、我が家は納税額が多い事は国の貴族なら誰でも知っている。その侯爵夫人と、王妃様が同じお店でドレスを仕立てるのはなんら不思議な事では無い。
むしろ、店にとっては箔がつくというもの。王室御用達、ネルコム侯爵家御用達ともなれば、店もはずかしい仕事はしないし、そのお値段が支払えない人も利用しない。
従兄弟の公爵閣下の御夫人も利用されていたはずだ。全てでは公爵家の財政が傾いてしまうので、本当に大事な場に着て行くときに。
私もそこのマダムと相談して、なんとか品を保ちつつも女性的な魅力の出るドレスをせっせと打ち合わせては仕立てて毎月着てきていたのだけれど……阿婆擦れ。
アンドリュー殿下が連れていた女性のように、スリットから網タイツとハイヒールを覗かせたり、胸が半分は出ているようなドレスは、私には無理だった。
レースで首から胸の谷間が少し覗くあたりまで覆い、肩が出たドレスや、片側だけ肩を覆い、もう片側は透け感のある生地で袖を作った身体のラインが出るドレスなど、工夫して作ってもらっていた。この、肩を出したり、多少谷間が透けて見える繊細なレースのドレスが、阿婆擦れ……。
今日は大事な話し合いの日なので、マダムに以前仕立ててもらった濃い紫をメインにした正統派のドレス姿だ。恥ずかしい事など何も無い。
こちらの方が私の本来の好みだし、落ち着く。仕立てて貰ったドレスはどれも1分でその役目を終えてきたが、生地も縫製も、どれもしっかりした物だったし、ショールを羽織っての夜会に着ていくにはいいかもしれない、と思っていた。
そのエスコート役になるはずだった方は、今マダムと、私と、この国で最も怒らせてはいけない女性2人……つまり、王妃様とお母様だが、を、敵にしてしまった。
「アンドリュー、服を脱ぎなさい」
「は?」
「は? ではありません。貴方の服は私たちのドレスを仕立てたマダムの弟子が営む男性服の店で仕立てた物です。遊び人、下町の男と罵られたくないのなら、脱ぎなさい。上着、タイ、シャツ、見苦しいので下着は残してあげます。さぁ、お脱ぎなさい」
「お、お待ちください、私はこの女の事を言ったのであって……!」
「この女、ですか?」
お母様の冷笑は、王妃様と相まって、もはや氷の大地をこの部屋にもたらしている。
ここで服を脱いだら風邪をひくのではないかと思うほど、冷たい。
視線でアンドリュー殿下に服を脱ぐ事を促したお母様と王妃様に、アンドリュー殿下は逆らう事ができず、この場で服を脱いだ。
はっきり言って見苦しい。が、馬鹿にしたのはご自身なので、これ以上逆らうと剥かれると思ったのか、上も下も肌着姿に靴下という情けない姿で立たされている。
「私の娘、リーンによくもまぁ……あのような現場を見せつけておいて、この女呼ばわり。まだご自分の立場がお分かりでないと見えます。ねぇ、あなた」
お母様の冷たい声に呼応するように、そして反対に、口髭を蓄えた細身の父は怒りに顔を真っ赤にして答えた。
「そうだな、話にならない。陛下、申し訳ありませんが我が家はこの国から離脱も考えなければなりません」
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