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13 王太子殿下は癒そうとしてくれています

 クレイ王太子殿下に呼び出されたのは、ジェニットの前で大泣きしてから数日後だった。


 今までは図書室などでお会いしてお話しする事が多く、温和で知的な優しい印象の方だが、陛下に続いてアンドリュー殿下に怒っていたのを見た時には怖さも感じたのも本当だ。


 だけど、クレイ殿下が私に優しいのは変わらない事実ではあるし、怖い思いはしないと自分に言い聞かせて、私は侍女を連れて王城に向かう。


 取次の方に案内されたのは小さな中庭で、噴水とテーブルと椅子、沢山の花が咲いた、今日のような晴れた日には特別気持ちよさそうな場所。


「よく来たね。——アンドリューの事を君に謝りたくて。あの場では、皆怒りを露わにしていたから君も怖かったろう? 君に対してもちゃんとした謝罪がまだだった。座って、ケーキもあるよ」


「クレイ殿下……、ありがとうございます」


 ジェニットに続いて、私に目を向けてくれる人は二人目だ。


 アンドリュー殿下の所業について怒ってくれるのは、嬉しく無いわけじゃ無い。有難いと思ったし、ジェニットの前で泣いてみて分かったけれど、本当に……傷付いていた。


 家のため、国のため、と思って私を押し殺して、私は泣いたり怒ったりできなくなっていた。


 クレイ殿下の気遣いが素直に嬉しい。少し涙ぐみながら席に座ると、使用人がお茶を淹れてくれた。


 そして彼らが下がって、私も侍女を目で下がらせた。アンドリュー殿下の話をするのに人目は無い方がいい。


「本当に、すまなかった。愚弟のせいで、君はとても傷付いたね……、気付かなかった私たちもいけなかった。心から、君に謝るよ」


「……私、親友にこの間、もっと怒りなさい、って怒られたんです。そしたら、怒ったら、悲しかったと分かって……、こうして私に目を向けてくださって、ありがとうございます」


 本心だった。許すとは言えない。許せはしない。悔しい思いはまだあるし、傷付いていることを自覚した。


 だけど、こうして目を向けてくれた事には心から感謝している。私の傷を、私だけじゃなく、癒そうとしてくれる心遣いが嬉しい。


 クレイ殿下にはそもそも非がない。家族なのに気付かなかった、というのは、この広い王宮で立場が違えば仕方がない事だ。


 常に家族に見張りをつける人など居ないように、そして、使用人はアンドリュー殿下は定例会に行っているのか? と、聞かれれば、確かに来ていたのだから、はい、以上は答えられない。


 アンドリュー殿下が口止めしていれば尚更だ。本当の事を言え、とクレイ殿下や陛下が疑ってかかるのなら別だけれど。


 そして、疑ってかかった結果、使用人たちの証言が集まった。少し表現が柔らかくなっていたのは……立場上仕方がなくも思う。


「前にクリームチーズのケーキが好きだと言っていたのを聞いていたから、季節のイチゴと合わせて作ってもらった。口に合うといいのだけど」


「そんなちょっとした雑談まで覚えていてくださるなんて……お優しいんですね」


 私が黙って思案していたのをどう受け止めたのか、クレイ殿下はケーキの話に切り替えた。


 そして、本当に驚いた。私の好きなお菓子の話なんて、そんな些細なことを覚えてくれていた事に。


「君の事はいつも……一所懸命で、気にかけていた。あの日も……使用人の様子がおかしくて、問い詰めて……間に合わなかったけれど」

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