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フリンツ王国 商業ギルドにて

フリンツ王国首都リ・ハマルに置かれた商業ギルド本部のギルド長室。

ギルド長のサカイ=エル=スールの妻と娘が、豪奢なソファに腰かけて会合に出ている父の帰りを待っていた。


「浮かない顔ですね、アキナ」


そう声をかけられたギルド長の娘は、酷く憂鬱な気持ちで父の帰りを待っている。

商才があると認められ12歳の頃から5年間、父の補佐としてこの部屋で仕事をしているが、来年に成人となる身には結婚の2文字が迫ってきている。


「お父様の地位を狙った縁談がまた多数来ているのかと思うと、ご迷惑をお掛けすることが心苦しいのです」


俸給を与えられ国に仕える、いわゆる法衣貴族である父だが、領地を持たずとも商業ギルド長かつ伯爵の位というのは魅力的に映るらしく、忌み子である娘にも婚姻の申し込みは多数合った。

しかし、父はこれまでその全てを断っている。


「かわいい娘を、地位にしか目が向いていない人間にやるなどもっての他です。アキナが気に病む事ではありませんよ」


そうは言っても、悪神の1柱である氷神を思わせる銀髪の娘など、政略以外の理由で私を娶る人などいないだろう。……母の手前、それを口にするのははばかられたので、別な形で自分の意思を伝える。


「ありがとうございます。それでも、私の事より家の事を優先してくださいね」


そう言うと、母は少し悲し気に目を伏せた。




暫くの静寂の後、数人の足音の後に部屋のドアの開く音が響いた。

父と秘書だろう。


「嫁ぎ先は、商売にかかわる家であればいいなあ」などと考えていたアキナを待っていたのは、まったく別の話であった。




「戦争になるかもしれん」


青白い顔をして帰ってきた父から放たれた重い一言。

遥か南方の魔族の地との門がすべて閉じられて数百年、北部の国々は互いに不可侵を結び平和に暮らしてきていた。

その平和が破られようというのだ。


「どういうことですか、お父様」


「辰神の眷属と思われる邪竜が竜神山脈で確認されたのだ。幸い、竜神様が行使したと思われる魔法で撃退されたようだが……門が開かれた可能性がある」


悪神の1柱、辰神。この地を守護する竜神様と敵対する存在。

その眷属の力はすさまじく、邪竜1匹を討伐するのに騎士団と魔法兵団が総出で掛かる必要があったと書物で読んだ事がある。


「竜神様の行使された魔法は山を削り取るほどだったようでな、先日の地震がどうやらその影響であると魔導士ギルドから報告があった」


龍神山脈より遠く離れたこの地まで影響がある魔法。

それ程の魔法を使わなければ撃退できない邪竜。

そんな邪竜を南方の地より転移させうる辰神の門。

何もかもが恐ろしい話だ。

しかし、何よりも恐ろしい事がある。


「……それ程の力の行使があったということは、竜神様は疲弊されている可能性が高いのですね」


山を削るほどの大魔法でなければ討伐できない存在を相手にして、いかに神とはいえ消耗は避けられないはず。

その隙を狙って魔族の侵攻が起きうると、父は予想しているのだろう。


「……帝国魔法院やエルフ領と連携を密にせねばな。だが、まずは何よりも竜巫女様と連絡を取らねばならん。すまんが、アキナの婚姻の話は暫く待ってくれ」


「国家の一大事ですもの、私の事よりそちらを優先してください」


商業ギルドは物と情報の流れを取りまとめている。

今頃、各国と竜神山脈へ兄を含めたギルドの要職を務める商人が向かっている事だろう。

国の為でもあるが、商業ギルドが大きく力を得る機会でもある。


両親への後ろめたさを感じつつも、婚姻の話をしばらく聞かずにすみ、これから大きな金が動くであろう事に少しだけ心が弾むアキナであった。

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