第九話★
あの時は、リリナージュに出会って本当に助かった。移動中にした怪我を薬で癒してもらい、その後突然毒の苦しみがなくなって驚いた。薬のせいかと思っていたが、自分の足に巻かれていたのは、傷を治す薬草のみ。
「キュア」と言っていた事を思い出し、魔法を使ったのかもしれないと思いつく。
俺がビスナの元へと戻ると、彼女は姿を隠した。リリナージュの姿だから隠れたのだろう。彼女は、二つの名前と姿を持っていた。自分を偽る為に……。
彼女に興味も持った。恩返しもしたい。だからビスナに相談をしたんだ。
「わかりました。彼女の薬師としての腕を確かめた上で、王宮薬師として雇うか決めましょう。陛下を診て頂くのはやめておきましょう。それより、聖女様がお越しになる予定が最初からあるのですから、その時に診て頂きましょう」
「しかし、あのままでは……」
「わかっておいでですか? 王族が獣人族などと知れれば、大変な事になるのですよ。秘密を知っている者は増やさない方が宜しいです。聖女様は、いずれレイサード様の妻になる方」
それは勝手にこちら側がそう思っている事だろう? 婚約はこれからだ。獣人だと隠し婚約して、協力をしれくるとは思えないのだが。
本来は信頼関係を築いてから獣人だと暴露する。だから代々、相手は慎重に選んできていた。だが今回はそうも言っていられない。
なぜか父上の毒は、王宮内にある解毒剤では治せなかった。父上は未だに毒のせいで深い眠りについている。ビスナが、リリナージュの荷物を取りに部屋に行った時に、解毒剤を確認してきたようだが、知らない解毒剤はなかったという。
「どうなされました? 体調がすぐれませんか?」
「あ、いや……」
少し思いにふけってしまった。
なんだ? 突然、ゾクリとする。この感覚は――毒!?
なぜだ? 今日だってビスナが毒味をしてくれて……。
「ち、違うよな……」
「はい? 何がですか?」
一体どうしたという顔をビスナは俺に向けている。また猫になる!
「え? レイサード様!?」
また猫になった俺に、驚きの声を上げるビスナ。本当に驚いているように見える。彼が毒を盛ったのでないのであれば、一体どうやって俺に飲ませたというのか! 前回だって彼と二人きりの時だ……わからない!
「お、お待ちください!」
部屋から逃げ出した俺を慌てて追うビスナを無視し、全速力で走る。
リリナージュ! 助けてくれ!
今信じられるのは彼女だけだった――。