第七話
「やはりこちらでしたか!」
声の主を見なくてもわかるけど、顔を上げればやはりビスナさんだ。
ひょいと、私が抱っこするシルーをビスナさんは奪った。
「まったく、何をなさっているのですか!」
猫に言っているように見えるけど、私に言っているんだよね?
「あなたは、薬師でしょう。猫の毛がついて調合時に混ざったらどうするのですか?」
「す、すみません……」
でもシルーを寄こしたのはレイサード様なのですが。
「それと一つ言い忘れておりましたが、猫を飼っているのは私という事になっていますが、この調合の敷地には入れない事になっていますので、お気を付け下さい」
「え!」
それレイサード様にも言ってよ~!
「では失礼します」
というか、なぜレイサード様の猫という事を隠しているのかしら? あ、誘拐されるから!? 黙っておこう。
「ねえ今、ビスナ様がいらっしゃっていなかった?」
「え……ビスナ……様なんだ」
「え?」
「あ、いえ。その方偉い方なのですか?」
「レイサード殿下の側近の方よ。寡黙でたまにほほ笑む姿がまたいいのよね」
寡黙……微笑み? 私に見せる態度とだいぶ違う様な。
「で? 何しに来たの?」
「えーと、猫? 探していたみたい」
「猫? 野良猫でも入ったの?」
「さ、さあ……」
って猫がいる事も知らないの?
というか、何となく私騙されていたりしない? いやでもシルーは自分の猫だとレイサード様が言っていたし。
あれね、二人の間に行き違いというか、ありそうね。
そんなこんなで十日経ち、初めて仕事が休みの日が来た。というか、毎日夕方にシルーが私に会いに来る。かわいいからつい抱っこすると、ビスナさんが現れて、またですか! と言って連れて帰る。日課がこれでいいのだろうか?
で今日は、昼間からシルーが私の元へ現れた。
「もしかして、今日私がお仕事休みって知っていたの?」
「にゃ~」
「そっか。じゃ場所を移ろう。ここで見つかったら困るからね」
「にゃ~」
「そうだ。あなたの部屋に案内してよ」
「にゃ~」
「何をなさっておいでですか!」
「あ……」
ここを離れる前にビスナさんに見つかった。
「あの今日は休みだし、シルーと……」
「今日は大事なお客様がお見えになるのですよ!」
それシルーも関係あるの? あ、紹介するのかな?
「殿下と婚約なさる聖女様ですから。なので諦めて下さいね」
「え?」
そう言って、シルーを連れビスナさんは去って行った。
一体どういう意味? それって私がレイサード様を狙っていると思っているって事? 誤解だわ! というかどうしてそういう誤解をしてるのよ。直接会ったのって一度だけなのに!