最終話
おばあちゃんは、私を王族にしたくなかった? けど私がのこのことここに来たから……。
「私、おばあちゃんの行動を無駄にしちゃったのね」
「いいえ。違うわ」
「え?」
「よく考えて。本当にあなたを息子と結婚させたくなければ、遠くへ行けばいい。そうすればちゃんと、あなたを薬師にする事もできた。私はこう思うの。運命なら聖女としてではなく、一人の女性として結婚してほしいと」
「一人の女性……」
もしおばあちゃんの願いがそれなら、私に何も話さなかったのもわかる。でも森で過ごさなくてもいいと思う。
「だからレイサードの事も王子としてではなく、一人の男性として……まあ、獣人族だけど、考えてほしいのよ」
私は、こくりと頷いた。
そうだよね。レイサード様は私が聖女だから選んだのではない。
ミリアーラさんは、じゃあねと帰って行った。
トントントン。
って、すぐに扉がノックされた。言い忘れた事でもあったのかしら?
「はい。あ……」
「失礼します」
訪ねて来たのは、シルーを抱いたビスナさんだった。
「私から提案があるのですが、まずは普通にお付き合いから始めてはいかかでしょうか。レイサード様は、王族なので婚約者という形にはなりますが、いかがでしょうか?」
なぜその台詞を本人ではなく、ビスナさんが?
マジマジとシルーを見ると、ビクッとする。なぜか怯えている? なんで?
私は、レイサード様の事はよくわからない。ビスナさんとの方がいっぱい話していると思う程だし。この姿では毎日会っていたけどね。
そうね。獣人族ってよくわからないけど、こうやって猫の姿で戯れるならいいのかなぁ。シルーは好きだからね。
「そうですね。毎日シルーと会いたいし」
「シルーですか……」
「にゃ!」
「え?」
シルーが、ビスナさんの手から逃れ、私へジャンプしてきた。私が抱きかかえると、スリッとしてくる。かわいい。
「はぁ。レイサード様も現金なお方ですね」
「にゃー!」
「よかったですねレイサード様。ですがお二人に言っておきますが、ここで逢引はおやめくださいね。他の方に見つかったら困りますので」
「え? ではどこで?」
「それは二人でお決めください。失礼します」
猫の姿のレイサード様を置いて、ビスナさんが去って行った……。
そして、ぽんとシルーがレイサード様になったのです。
「その、俺の部屋で逢うか?」
「会いません」
照れながらいうレイサード様が、驚いて私を見た。
「男性の部屋にのこのこと行くわけがないではないですか」
「……いや、猫の姿で」
「そうやって、すぐに人になれるのでしょう?」
「………」
ぽんとレイサード様は、猫に変化して私にすり寄って来た。
「シルーになってすり寄ってもダメです!」
「にゃ……」
抱き上げ言うと、悲し気にシルーが鳴いた。うふふ。かわいい。
「まあ暫くは、ここで逢いましょうね。レイサード様」
喉を撫でると、ごろごろとの喉を鳴らす。うん。猫だわ!
「はあ、押しが弱いですよ、レイサード様」
覗き見しているビスナさんの声が、聞こえてきたのだった――。




