第三話
王宮は、働く沢山の人がいた。
私は、リナに変身するときに羽織る外套のフードを王宮内でもしっかり被り歩いていた。
「申し訳ありませんが、殿下にお会いになるさいには、その外套は脱いでくださいね」
ちょっとジロッと睨まれてビスナさんに言われてしまった。本当は、今すぐ脱げと言いたいのかもしれないけど、事情を知っているのかそこまで言われなかった。けど、その場で外套は脱ぎました。
「失礼します。リリナージュをお連れしました」
「入れ」
一礼して入るビスナさんに習って私も頭を下げ、部屋の中に入り顔を上げて驚いた。銀の髪と瞳、白いピアス。まるでシルーが擬人化したような人物がそこにいたのです。
「初めまして。私がシルーの飼い主のレイサード。彼の怪我を治して頂き感謝する」
「え?」
なぜシルーの名前を知っているの? まさか偶然同じ名前だったわけじゃないよね?
「驚かせてしまったようだね。実は、私は彼の話す言葉が理解できる。まあこんな事を他の者に言った所で笑われるだろうが」
まあ普通は笑われるけど、殿下に対しては笑いたくても笑えないでしょう。でも、シルーの名前を当てた事からレイサード様が言っている事は本当なのかも。いいなぁ。猫とお話ができて……。
「あのシルーはどうしてますか?」
見た所ここにはいない。
「元気だ。彼の部屋にいる」
あ、猫の部屋まであるんだ。
「君は、薬師なのか?」
「え、それは……」
唐突な質問。ど、どうしよう。聞いて来たぐらいなのだから、シルーから話を聞いているんだよね。薬を売りに行った事は、ばれているよね? 困った。資格を持っていないから薬師ではない。
お礼をしてもらえるどころじゃないわ。処罰されちゃう!
「やはりな。どうだろう。お礼として試験を受けていかないか?」
「うん? え? どういう事? あ、いえ、どういう事でしょうか?」
「言葉の通り。薬師の試験を受けて頂く。合否はすぐにでる」
なるほど。ただで試験を受けられるって事ね。それは嬉しいんだけど、私が資格を得た所で、薬師としてはやっていけない。
でももし万が一、バレた時に資格すらなかったら問題だ。殿下のお墨付きならリリナージュとばれても大丈夫でしょう。受ければ、受かるほどの腕前はあると自負しているし。
「ありがとうございます。是非お願いします」
というより、処罰されなくてよかった。
まさか、王宮内で薬師の試験を受ける事になるとは思わなかったけど、これで堂々? と薬師として薬を売れるわ。帰る前にシルーに会ってお礼を言いたいわね。
なんて、この時は呑気に思っていたのでした。