第二十八話★
はあ……。
「珍しいですね。大きなため息など。よほど彼女に断られた事が堪えているようですね」
俺がため息をつくと、ビスナが言った。
まさか、リリナージュに断られて初めて自分の気持ちに気づくなんて、マヌケ過ぎてため息が出たのだ。
確かに会いに行っていた。でもそれは、興味からだと思っていた。ビスナが言う恋心ではないと否定していた。でも心の奥深くでは、すでに彼女を選んでいたのかもしれない。
聖女と結婚させられると思っていたからだ。王族、特に我々は秘密を持っているので、結婚する相手も選ばなくてはいけない。
秘密を守り、力を受け継ぐ子孫を残してくれる相手。
母上は、聖女ではないが魔力が高い者だったらしい。動物好きで、特に凛々しいヒョウなどが好きだったらしく、一発OKという珍しい相手。いや寛容な方だと父上が言っていたか……。
「ただいま!」
「お帰りになったようですね」
「聖女様はお見えになった?」
「お帰りなさい。母上。まあ、一応」
「一応? 断られちゃった?」
う。察したならそっとしておいてほしい。
「おかえり。ミリアーラ」
「ただいま。あなた」
「レイサード様も、あぁなるのでしょうかね?」
父上は、ぽんとクロヒョウに姿を変えた。それに母上は抱き着いている。母上は、父上のあの姿がお気に入りだそうだ。
「俺は別に、膝の上で構わないがな……」
「そうですか。尻に敷かれそうですね」
「でも、断られた……」
「一度で諦めるのですか? 王宮内にいるのですから陛下を見習って、シルーで攻めてはいかがですか?」
「あの姿で逢いに行くのを阻止しようとしていなかったか?」
「もう今更でしょう。せめて婚約だけでもして頂きましょう。妥協案として、薬師を続けてもよいという事で」
わかっている。種族の為、聖女と結婚しなくてはいけない事を。だから口説き落とさなくてはいけない。でも俺は、リリナージュが聖女だから手に入れたいと思っているわけではない。
それより無理強いをして嫌われたくない! というのが本音だ。
「困りましたね。あんなにお止しても会いに行っていたというのに。恋愛感情と言うモノはめんどくさいですね……」
ぼそりと呟くビスナの声が突き刺さる。
自分自身でもそう思う。逆に好きでも何でもなければ、とにかく口説き落としていただろう。




