第二十四話
「そうね。私は猫を追いかけていたわ。だって王宮内に入って来たのよ。逃げ足が速いから足元を凍らせたの」
「エーネルが倒れたのにそのまま猫を追いかけたって事?」
私が問うと、クスリとアルザンヌさんは笑った。
「猫を追いかけていて、気づかなかったわ」
「ではなぜ、魔法属性を隠していたのです?」
「隠していた? 隠してなんていないわよ。問われた事もないし、あなた達が勝手に水だと思ったのでしょう?」
隣で質問をしたビスナさんに、今度はアルザンヌさんが勝ち誇った顔をする。私達が暴いたのは、あくまで彼女が氷の魔法を扱えるという事。状況から言って、彼女以外エーネルさんを低体温症に出来ないけど、確証には今一つ足りない。
「そうですが……」
「別に魔法の属性は、薬師に関係ないわよね。彼女なんて、属性すらわからないで来たようだし」
私を見てビスナさんが言った。
「では、別に隠していないと仰るのですね?」
「えぇ。そうよ」
「だそうです」
ビスナさんが、そうネツレスアさんに言うと、「え」っという顔つきをアルザンヌさんはする。予想外だったのでしょうね。
「アルザンヌさん。ここまで来ても白を切るのですね」
悲し気な顔つきでネツレスアさんは言う。
「私達が持ち物検査をしたのは、毒や解毒剤を探していたわけではないのですよ」
「え? じゃ何を探していたというのよ!」
「色素を変える薬よ」
アルザンヌさんは、なぜ分かったという顔を私に向ける。
「あなたもご存知の通り、私は毒魔女として疎まれていた。なので、別人に変身して街へ降りていたのよ。その時に使用したのが、赤くなる色素の薬。髪も瞳もそして肌も赤くなったわ。肌は化粧をしてごまかして、別人になる事ができた。でもね、ピアスだけはそのままなのよ。だから見えない様に、髪で隠し更にフードを被った」
「あなたのは、色素を濃くする薬のようね」
「べ、別にいいでしょう。黄色から赤とかではなく、少し濃くするぐらい何がいけないの?」
まだ抵抗するのね……。
アルザンヌさんが、夜中に飲んでいたのが色素を濃く薬だった。飲んだ直後が一番効いている。寝て起きれば、今ぐらいの色なのでしょう。私が起きて、もし暗闇で見たとしても、色が濃くなったのはわからない。
「だったらこれを飲んで」
私は小瓶を出した。
「何よそれ」
「色素を元に戻す薬よ」
「そんなの持ち歩いているの?」
「いいえ。あなたのカラクリに気がついたから作ったのよ」
朝食前に急いで作った。自分にも使っていたから手早く出来たわ。
「大丈夫よ。毒ではないから」
「別にいいだろうというのなら本来の姿を見せてみよ」
レイサード様に言われ、震える手で小瓶を受け取ったアルザンヌは、ジーッと小瓶を見つめている。そして、覚悟を決めて薬を飲みほした。




