第二十二話★
「魔法云々の前に、なぜ私がそんな事をしなくてはいけないのかしら?」
「強情な女ですね」
はあっとため息交じりにビスナが言うと、アルザンヌが彼を睨み付けた。
「聖女と偽っていた彼女は、昨日ここに来る事は予め予定されていたのです。あなたは、首尾よくこの王宮の薬師になった。その目的は、陛下や殿下を毒で侵す事。その後、偽り聖女が訪れお二方を癒す」
「それ、私に何の得があるのよ」
ビスナの言葉にアルザンヌが、ふんと言って聞いた。
「えぇ。これではあなたは、何も得られません。あなたが彼女に言った作戦です。作戦とは違い、癒せなかった場合はどうでしょうか?」
「癒せなかった? 最初から偽物でしょう? 当たり前じゃない」
「そうですね。本来は、あなたが癒す事になっていたのではないでしょうか?」
「私が得でもない事を言って、彼女がそれに乗っかったと? それこそあり得ないでしょう。普通疑うわ」
ビスナの言葉にそう返し、今度はふんとそっぽを向いた。
リリナージュの今の立場に、彼女が立つ予定だったに違いない。彼女も聖女ではない。だが聖女だと思わせる事は出来る。
自分が用意した毒だ。解毒も持っているだろう。魔法で毒を飲ませた様に、解毒も魔法で飲ませればいいのだからな。
「あなたは、王妃になるより薬師で頂点に立ちたい。そう言ったそうですね。彼女が王妃になった暁には、薬師長にしてほしいと。段取りはつけるからと。魔法を持たない彼女のピアスを白くして、これで聖女よと言ったと証言していますよ」
「適当に名前を知った人物に、罪をなすりつけたのでしょう? それが私だっただけじゃない」
「違うわ!」
違うという偽聖女をアルザンヌが睨み付けると、ビックっと彼女は体を震わせ縮こまった。
「だいたい、彼女の証言が証拠なの? こんなの証拠にならないわ」
「わかりました。本当は、アルザンヌさんの口から言ってほしかった。もう逃げられないってわかっているでしょう? レイサード様を助けられたという事は、エーネルさんも助ける事が出来る」
「あら? 彼は毒に侵されているのではなくて、低体温症なのでしょう?」
「そうだったわね。ところであの時、なぜ彼だとわかったの?」
「え?」
「だから、倒れた人の第一発見者だと言ったのに、アルザンヌさんは彼は何か言っていなかったって私に聞いたじゃない」
リリナージュの言葉に、あきらかに動揺をアルザンヌは見せた。




