第十六話
トントントン。
出掛けようとしているところに、お客さんだ。
「はい」
アルザンヌさんが扉を開けると、ビスナさんが立っていた。
「リリナージュ、少しお話が」
まだ何か用事があるのだろうか? って、誤解されている仲なんだけど。
「ちょうどよかったわ。あなたに伝えに行くところだったの。彼女が犯人の名前を聞いたそうよ」
「「え!?」」
ちょっと待って。まだ犯人の名前を言ったと確定してないよね?
「あなた、先ほどそんな事は一言も……って、もう話したのですか? 口止めをしていないと聞いたので、すぐに飛んできたというのに!」
「あ……ごめんなさい」
やっぱり話しちゃダメだったのね。
「で、誰の名を口にしたのです?」
「いえ、名前じゃなくて片言というか……」
早く言えとビスナさんが睨みをきかせている。忙しいのね。
「ネ……ア。と言っていました」
「確かに、名前なら一人当てはまりますね」
「早く捕らえた方がいいんじゃない?」
アルザンヌさんが、ちょっと考え込んでいるビスナさんに言った。
「今、捕らえなくても問題ありませんよ。彼に危害を加えない様に私が見張りますし、どうせだからお教えしますが、聖女様がお見えになる予定なので、彼女に診てもらいます。今日着く予定なので、今日中に決着がつくでしょう」
「聖女様……一般の方を診てもらうの?」
アルザンヌさんは、聖女が来ると聞いて驚いている。
「噂も聞いて信じてはいますが、確認の為です。目の前で癒して頂ければこれ以上の確認方法はございませんから」
「聖女様かぁ。拝見してみたいわよね!」
ねって言われても。アルザンヌさんって結構、ミーハー!?
「何を言っています。今は無理ですよ。大人しくここで、待機していて下さいね!」
見たいと言ったのはアルザンヌさんなのに、なぜか私を見てビスナさんは言った。
「あら、残念ね」
「今日は無理ですが、殿下と婚約発表を行う時に拝見できますので、それまで楽しみにしているといいでしょう」
そう言うと、くるっと背を向け歩き出したビスナさんが、歩みを止め振り向いた。
「おしゃべりな女は嫌いです!」
と一言捨てゼリフ!?
スタスタとまた歩き出して行った。
「あら、嫌われちゃったみたいね」
「………」
え? 何? 逢瀬はしていたけど、これにて終了という事にするわけ?
え~!? 何それ! ちゃんと最初から全部否定してよ!
「聖女ねぇ。そんな人物本当にいるのかしら?」
え? なんか怖い顔つきなんですけど? って、聖女様~って感じではないのね。




