第十三話★
「そこまで嫌ですか? 油断させて猫になって逃げるなど……あなたがいないと、陛下がお会いするしかなくなります。無理なのはご存知でしょう?」
人間に戻った俺に、畳みかける様にビスナが責めたてた。
「わかっている。悪かった。というか、非常事態だったんだ」
「非常事態とは?」
「また毒を……」
「ピンピンしておいでですよね?」
「人の話を最後まで聞け! リリナージュが今回も毒を除去してくれた。彼女はどうやら触れるだけで、毒に侵されているかわかるようだ」
ビスナはまさかと言う顔つきから眉間にしわをよせる。
「まさか彼女に正体を明かしたりしておりませんよね?」
「そんな暇はなかった!」
「私が毒味した以外のものを口にしたのですか?」
俺は、首を横に振った。
「今回もまた、いつの間にか毒に侵されていたと……奇妙な事ばかりおきますね。彼といい……」
「彼?」
「あ、ご存知ありませんでしたか。廊下で薬師のエーネルが倒れていたのです。まあすぐに目を覚ますでしょう」
男? あの時の男か?
「彼の容姿は?」
「え? 今日は非番だったようですが、髪の色は黒。属性は土。何かありましたか?」
やはり逃げていた時にすれ違った男だ。
「そうだ。あの時、部屋に来た者の名前は?」
「あの時?」
「俺達がリリナージュの部屋にいた時に訪ねてきた者だ」
「彼女は、リリナージュと同室のアルザンヌです。もうあの時の台詞を気になさっているのですか? あの状況なら仕方がありません。それよりすぐに支度を」
ため息交じりに言われた。
あの時の台詞とはなんだ? あ、あれか! そういう関係とかいうやつか。
トントントン。
「お忙しい中申し訳ありませんが、ビスナさんはいらっしゃるでしょうか?」
「どういたしました?」
ビスナが扉を開けると、兵士が一人立っていた。
「薬師長のジェールエイトさんが、至急医務室まで来てほしいとの事です」
「わかりました。すぐに伺います。ありがとう」
「失礼します」
医務室? さっき話題に出た男に何か異変があったのか?
「俺も行こう」
「俺? 私もですよ、殿下!」
「細かいな! 二人の時ぐらいいいだろう」
「普段から気を付けなければ、咄嗟の時に使ってしまいます」
「あ~わかった。行くぞ」
「もう、今日は色々と……」
ブツブツとビスナが言っているが、まあいつもの事か。
俺はバカだな。ビスナが毒を盛るはずがない。
そう思って安心したところだったが、医務室に行って驚いた。何故か彼女がいたのだ。リリナージュが。
なぜここにいるのだ? 彼とはどういう関係だ? そう思うとなぜかちくりと心臓が痛かった――。




