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第九話 戦闘態勢

 カカシ達の居住区はオルティスの外壁の内側に沿うように広がっており、オルティスを八分割して統治している各アルティメイツたちは、カカシたちの居住区も八分割しそれぞれ管理をしていた。


 その中でもレンブラント卿はカカシへの扱いが最も残虐と言われており、彼の統治するカカシ居住区では昼夜問わず魔導士たちの手による人さらいが横行しているような状況であった。


 ある者は実験に使われ、ある者は一時の嗜虐心を満たすための道具として使われる。どちらにも共通しているのは囚われたが最後、二度と日の目を見ることはない、という事であった。


 先だってラグネイトの手にかかったエンドバーに続くタカ派として知られており、カカシ達はもとより良識派の魔導士ですら恐怖させる、それがレンブラントという男なのであった。


 そんなレンブラントの統括するカカシ居住区に、白いコートをまとった怪しい男が闊歩していた。


 魔法を無効化する秘面を装着した戦闘態勢のラグネイトである。


「………………」


 緊張感をその身にみなぎらせながらラグネイトはゆっくりと歩を進める。


 ここはすでに戦場、いつ戦いが始まってもおかしくはない。

 袖の奥に隠してある刃物の感触を確かめながらラグネイトは昼間のグラムとのやり取りを思い返す。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「予想していた通りの状況になっている」


 リッキーの業務が終了して開口一番、グラムはそう告げてきた。


「おそらく明日中にはオルティス緊急事態宣言が発令される。外部との人とモノの行き来が完全に遮断されてオルティスは文字通り陸の孤島になるんだ」


「お前の読みが当たったか」


「うん、そうだね、できれば外れて欲しかったけど。今日来た客の中には憲兵隊の上級特務官とねんごろの女性がいたからほぼ間違いない情報だと思う」


 グラムが日中女性たちにもみくちゃにされているのには理由があった。


 彼は自分という花に群がる蝶たちから様々な情報を仕入れているのだ。


 グラムは長年の経験から何をすれば女性が自分の求める事をしてくれるかを熟知している。


 そしてその能力を駆使し、すでにリッキーに通い詰める全階級の女性たちから情報を得るすべを確立していたのだ。


 常連客たちは自分たちが利用されているとは疑いもせず、ただグラムが求めるままに身の回りの情報を開陳するように仕込まれているのだ。


 利用されていることを悟らせないのがミソだね、そう語ったグラムの涼やかな横顔を、ラグネイトは友ながら恐ろしいと思ったものである。



「そしてこの解除に期限はない。解除の条件はただ一つ、アルティメイツ殺しの犯人が捕らえられる事のみ」


「………………」


「これで全オルティス住民が潜在的な敵となってしまったわけだ」


「もとより魔導士は全員敵だろう。何の問題もない」


 そううそぶくラグネイトの脳裏にルーナの横顔が一瞬チラついたが、彼は意図してそれを封じ込めた。


「僕はラグと一緒にここから脱出するために全力を尽くすことに決めたよ。だからそのためにもこの前の返答を聞かせてほしい」


「この前の返答…?ああ、お前の指示がないと魔道士を殺せないってヤツか」


 ラグネイトにとっては枷としか思えないグラムの提案であったがここまで真剣に頼んでくるということは何か理由があるのかもしれない。ラグネイトは一考し、そして首を縦に振った。



「……いいだろう、今後はお前の指示通りに動くとしよう」


「本当にいいのかい?」


「お前がそう望んだのだろう、それによくよく考えると過程は重要じゃないんだ。オレは魔道士を全滅させるのが目的なんだからな」


「……ありがとうラグ、そう言ってもらえると助かるよ。これからの動きは一つでもミスをすると取り返しがつかなくなるからね。それになによりスピードが重要なんだ」


 スピード?と、反駁するラグネイトにグラムは深く頷く。


「オルティスの魔道士たちはいま得体のしれない殺人鬼に対抗するため一つになろうとしている。その結束が確固たるものになる前に第2、第3の矢を放ち続けることが重要なんだ。混乱し、流されている間に僕らは少しづつその戦力を削いでいくんだ。秘面の性能なら、各個撃破ならまず問題はないだろう。だからラグはムリせずにゆっくりと着実に魔道士を減らしていくことを考えるんだ。選択肢さえ間違えなければ僕らは間違いなくオルティスを崩壊させることができる」


「……ずいぶんと頼もしいお言葉だ」


 ラグは小躍りしたい気分であった。

 グラムがそう断言したということは、間違いなくそうなるという事なのであるのだから。

 

「茶化すなよ。こうなってしまった以上、やるしかないからね、僕もさすがに本気になるよ」


「なら早速やるとするか」


 ラグネイトは店の奥へと姿を消す。

 そして数十秒後に戻ってきた彼は秘面を身に着けた臨戦態勢となっていた。


「……すまないラグ」


「何を謝る? オレは自らの意思でお前の提案に乗っかるだけだ。それにお前の提案が間違っていたことなんて過去一度もなかった。それで―――今日は誰を殺せばいいんだ?」


「うん……そうだね、今日は―――」


 グラムは真正面からラグネイトを見つめ告げる。


「レンブラント統括地区でカカシに害をなす魔道士たちを手当たり次第に駆逐するんだ」

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