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第二十七話 マッドサイエンティストテリトリーその10

 ラグネイトの刃が収束点を裂いた瞬間、干渉した箇所から四方に光が飛び散った。

 そして空間がうねりはじめて炎の壁を飲み込み絡めとると、光はより一層輝きを強めそしてうねりの中心から何かが発射された。


「何ィッ!?」


 その物体は散弾のように広がりレンブラントの脚や頬を切り裂き消失した。皮膚の表面にキズをつけた程度の浅いキズだったが、レンブラントの表情に初めて恐れの色が浮かんだのをラグネイトは見た。


「……なんだ今のは? 貴様が放ったのはアイシクルバレットのようだったが……まさかシンシアの手の者なのか? 貴様の特性は自身には影響を与えないとでもいうのか?」


 混乱するレンブラント。

 何を言っているのかラグネイトには理解できなかったが、次に言うべきセリフだけは分かった。


「これから死ぬヤツに教える筋合いはないな」


「なっ!?」

 

 レンブラントのこめかみに青スジが浮かび周囲に再び炎の螺旋が渦巻く。

 何気ない動作に見えたが、ラグネイトにとっては違った。


 (今、ヤツの炎は消えていたのか……?)


 魔道収束点を切り裂いた際の不可思議な現象。

 アルティメイツといえども初見であったことはラグネイトにとって暁光であった。

 戦いの流れを変えることができた。

 あの時、ここを警護していた魔導士も今のレンブラントのように困惑を見せていた―――



――――――――――――――――――――――――――――――


 ラグネイトの怒りを載せた刃と名もなき魔導士の炎の魔導がぶつかり合った瞬間、干渉部から光が弾けその中心から氷のツララが勢いよく飛び出した。そしてツララはそのままの勢いで魔導士の腹部に突き刺さった。


「あがっ」


 ラグネイトは何が起きたのか理解できなかった。腹部を貫かれている魔導士自身も想像のキャパシティを超えていたのか痛みよりも不思議そうな表情を浮かべていた。


「ザンブレイブどの! トドメを!」


 バアトルの声に我を取り戻したラグネイトは魔導士に接近して介錯の刃を振るう。

 ワケも分からないまま絶命する魔導士にラグネイトはほんの少しだけ同情した。


「―――それで、いったいどういうことなんだ。収束点を叩けば魔導を相殺できるという話だったが」


 物言わぬ屍となった魔導士を指しながら、ラグネイトは詰問する。


「ううむ、いや自分にも何が何やらサッパリです。こんな現象は今まで見たことがありません。実はラグネイトどのは魔導士の才能がおありなのでは??」


「……それは冗談でも言う事じゃないだろ」


「は、刃物を向けないでくだされ。ちょ、ちょっとした筋肉ジョークですぞ。ホラこのお茶目な腹直筋に免じて許してくだされ」


 バアトルはハッハッと言いながら腹部をピクピクさせる。

 コレで謝罪になると考えているのだろうか。

 「なっ?」という表情を見る限りおそらく本気なのだろう。

 ラグネイトは右手を前方へ伸ばす。


「なっ、や、やめてくだされっ! この筋肉の躍動を見て癒されないとはラグネイトどのは人としておかしいのではないですかっ!? なら次は大胸筋のワルツをご覧に」


「もういい。やめろ。そんなことよりさっきの現象について何か見解をくれ。こんなあやふやな状態じゃ実戦ではとても使えん」


「ワルツはよろしいと? ……分かりました。ならリッキーに戻ったらお見せするとしましょう」


 未練たらたらでポーズを解くバアトル。

 ラグネイトは急に帰るのがイヤになってきた。


「う~む、そうですなぁ、見解と言われましても分からないモノはなんとも。考えられるとすればやはりその秘面の影響でしょうか。たしか魔道を無効化する特性があるとか」


「ああ、そうだ」


「そうですか……もしかするとその秘面は魔道を無効化しているのではないのかもしれませんな」


「どういうことだ?」


 自ら信じている秘面の効力を否定されたようでラグネイトはムッとする。

 しかしバアトルは気にせず続ける。


「経験則から申しますと魔道が消えるのはやはり収束点に到達した瞬間をおいて他にはありませぬ。だとすれば秘面は魔道をムリヤリなかったモノにしているのではなく、何らかの方法で収束点を新たに作り出しているのではないか、そう考えられます」


 バアトルの語る内容は今までラグネイトにはなかった視点であった。

 グラムもラグネイトも秘面のもたらす結果にのみ固執しており、その仕組みまで考察することはなかったからだ。


(いや、グラムは考えたかもしれない。アイツは魔道が使えるのだから) 


 急に自分だけが蚊帳の外に置かれた気がして、ラグネイトは少し寂しさを覚える。


「だとすれば先ほどの現象、少し説明がつくやもしれませぬ。元々あった収束点、秘面によって新たに作られた収束点、この2点の間にはまだ消え去ってない魔道の力が残っているのではないでしょうか」


 バアトルは親指と人差し指を近づけて隙間をつくる。

 そしてそこに見えない力があるかのように目を細める。

 

「もしくは新たに作られた収束点には向かわず元の収束点へと向かう魔道もあるのやもしれませぬ。とにかくそれらの量はきわめて少ないのでしょう。今までラグネイトどのも気がつかなかったのですから。しかし新たに作られた収束点に衝撃を加えることで、余剰の魔道が一気に増加する」


 バアトルは指をパッと開くと同時に目も見開く。

 思わずつられてラグネイトも目を開いてしまう。


「結果は先ほどご覧のとおりです。あれは新たな魔道が発動した、というより魔導士によって放たれた魔導の一部をそのままお返ししている、というのが近いのではないでしょうか。これがワタシの見解でございます」


 バアトルはサイドチェストのポーズと共に話を終える。

 いちいち筋肉を見せつけなければ気が済まないのかと思ったが、あえてそこには触れないようにした。

 面倒だから。


「……一つ、今の話だと説明がつかないことがあるのだが」


「なんでしょうか」


「あの魔導士が放ったのは炎の魔道だが飛び出してきたのは氷の魔道だったぞ」


「あっ」


 バアトルはピタリと動かなくなり、そのまま固まってしまった。

 まるでラグネイトの発言がバアトルを凍てつかせてしまったかのようであった。


「……ラグネイトどのは氷の扱いが巧いようで……」

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