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第二十三話 マッドサイエンティストテリトリーその6

 傾いたベッドの隙間から飛び出してきた異形をラグネイトは刃で迎え討とうとするが、


「!!」


 とっさの判断で後ろに飛ぶ。直後に鼻先に裂かれた空気の圧を感じた。


「器用なバケモノだなっ!!」


 三口の異形は折れたベッドの足を手にしてそれを振り下ろしていた。

 即席の棍棒だ。先ほどの腕力を想定すると、直撃すれば骨折は免れないだろう。

 武器感知の魔道を無力化する秘面の力が、まさか敵を利することになろうとは。


 汗で視界が狭まる。秘面を脱ぎ捨てたい衝動に駆られるが、この先どんな隠し球が待っているか分からない。何より、この程度の敵に手こずっているなどと自覚したくはなかった。


「やってやるよこの野郎! 死ねっ!!」


 ラグネイトは踏み込み刃を突き出す。

 異形は腕を駆使してステップを踏むとラグネイトと距離をとり、間合いに飛び込んだ形になったラグネイトに棍棒の一撃を見舞う。


 ラグネイトはとっさの判断で刃を寝かせて打撃をそらすが威力を殺しきれず刃が宙を舞う。

 異形の口角がニタァと愉悦の形に歪んだ。


「かぁっ、くっ、くそっ!!」


 手首が灼熱の塊を流し込まれたかのように熱くなる。それとは真逆に背筋が冷えていく。

 警戒していたはずなのに、思わず異形の攻撃を受けてしまった。骨まではいってないと信じたいが、右手の感覚がなくなっている。


 ラグネイトは憤った。


 なぜこんな目に合わなければならないのか。

 なぜ魔導士ではない敵とロクな説明もないままこんな命がけの戦いを強いられているのか。

 これも全てバアトルのせいだ。アイツが魔導研究所の話題を出さなければこんな辺鄙なところには来ていなかった。それに仲間を救うとかなんだとか言ってそんな連中はどこにもいないではないか。


 大体アイツは今何をやっているのか。

 魔導研究所に来てからというものどうも様子がおかしい。

 ラグネイトが襲われているというのに援護にすらこない。


 こういう力任せの敵こそあの筋肉ダルマの出番だろうが。

 アイツの肉壁ならこの異形とも真正面からの殴り合いができるはず。

 どう考えても自分向きの敵ではない。なぜ自分が応戦しなければならないのか。


 やけになりかけたラグネイトだったが、すぐに現実に引き戻される。

 三口の異形が虫のように這って、先ほど飛ばされた刃を手にしたからだ。


 刃に舌を這わせて笑みすら浮かべる三つ口にラグネイトは苦笑してしまう。


「……はっ、汚い舌で、人様の大事な得物を舐め回してんじゃねえええ!!」


 キレた。

 ラグネイトは全速力で異形に向かって突っ走る。

 異形は棍棒と刃を手にして迎え撃つ。

 ラグネイトは手にした一本の刃を回転させると、棍棒と刃の軌道を器用にそらしていく。

 先ほどとは動きのキレ、スピードが段違いになっていた。


 一撃でも喰らうことのできない猛攻。

 その横っ面を神がかったタイミングでいなしながらラグネイトは異形に肉薄していく。


「シャー!! シャー!!」


「黙れっっっっ!!」


 気合いと共に一閃。異形の指が宙を舞う。


「ギャアアアオオン―――!!」


 苦悶の絶叫を上げながら異形は再びベッドの下へと潜っていった。

 その声を聞きながらラグネイトは思考する。


「はぁはぁはぁはぁ」

 

 どうすればこの異形に勝てるのか、と。


『ただ近づいて斬るだけ。それだけだ』


 バアトルにはそう答えるしかなかった。

 今まで身体は鍛えてきた。オルティスの魔導士たちを撃滅するにあたって、体力は必要になるだろうから。だが魔導を使わない敵との戦いは想定できていなかったのだ。

 秘面の力さえあれば、こと足りると、そう思っていたのだ。


 だが、こうして秘面の力が通用しない敵と対峙するにあたり、そのツケが一気に回ってきた。


(今みたいな動きはもう出来そうにない。あんなものはマグレだ。もっと確実にヤツの息の根を止める方法を……どうすれば)


 バアトルのようにはできない。あの筋肉の鎧と戦闘技術は一朝一夕で身につくものではない。

 他のアプローチを、今の自分にしかできない方法を考えるしかない。

 

 三口の異形との戦闘で気づいたことはなかったか。

 特徴は?性質は?気になる点は?弱点は?自分との能力の差は?


 己に問いかけ答えを探すラグネイト。思い返せば異形の動きは俊敏でこちらのトップスピードでも芯を捉えることはできなかった。

 

 あの異形を確実に始末するためにはまずあの動きを何とかしなければならない。


(…やるしかないか)


 ラグネイトは手にした刃を床に投げ捨てると、秘面を外して素顔をさらした。

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